「空間デザイン」を通じて体験を創り出す博展には、空間演出と一体化したデジタルコンテンツの企画・制作を担う「コンテンツデザイン局(通称:CODE局)」というチームがあります。体験型コンテンツや映像の企画からシステム設計・実装までを、テクノロジーを用いたコンテンツを自分たちの手でつくり上げています。本インタビューでは、局長の石田さんコンテンツディレクターメンバーの藤本さん奥村さんの3名に、組織の成り立ちから制作現場のリアル、今後の展望までを聞きました。

Index
・「悔しさ」から始まった内製化。空間のプロがデジタル領域に挑んだ理由
・「コンテンツデザイン」という名前に込めた意志
・博展だからできること──空間×デジタルコンテンツの強み
・事例で紐解く制作現場のリアル──企画から運用まで、自らの手でカタチにする
・コミュニケーションを軸にした育成──個の強みを活かす組織のつくり方
・これからの5年・10年──影響力の拡大と「やりたいこと」の実現へ
「悔しさ」から始まった内製化。空間のプロがデジタル領域に挑んだ理由
── そもそも空間デザインやイベントの会社に、なぜデジタルコンテンツの部署が生まれたのでしょうか?
石田:約10年前、展示会の仕事が8〜9割を占めていた頃、コンペで負ける要因の一つとして「デジタルの文脈が弱い」という課題がありました。そのタイミングでアイアクトというウェブ制作会社がグループ会社となり、博展とのシナジーを生むために部署をつくろうという流れで立ち上がったのが始まりです。最初はHTMLメール配信の手伝いからのスタートでしたね。
── そこからコンテンツ制作へと広がる中で、どんな思いがありましたか?
石田:根源にあったのは、デジタルコンテンツを自分たちで作れるようになりたいという思いでした。当時の朝礼で紹介される事例の中のコンテンツは大半が外部パートナーが作ったもので、正直悔しかったんです。
自分たちの手で作れるようになりたいと、チームでできる範囲のものをまず作り始め、さまざまなスキルやキャリアをもったメンバーが加わる中で、一つひとつ実績を積み重ねながら、内製できる領域を広げていきました。

「コンテンツデザイン」という名前に込めた意志
── “悔しさ”が原動力だったんですね。CODE局にはどのような職種がありますか?
石田:主な職種としては、コンテンツディレクター、テクニカルディレクター、クリエイティブエンジニア、映像ディレクター、映像デザイナーがいます。バックグラウンドも職種もバラバラなメンバーが集まっているのが特徴ですね。
──「コンテンツデザイン」という名前にはどんな意味が込められていますか?
石田:博展という空間デザインの会社にいるからこそ、フィジカルな空間でしか味わえない五感や感情を揺さぶる体験を自分たちの強みにしたいと考えました。
あえて局名に「デジタル」と付けなかったのは、領域を限定したくなかったからです。デジタルが当たり前になった今、「デジタル」と名乗ることで画面の中やシステム構築だけに役割が限定されてしまう懸念がありました。メンバー内からも「表現の幅を縛ってしまうのでは」という声があったんです。
デジタルはあくまで目的ではなく体験を生むための「手法」のひとつに過ぎません。私たちが本当にやりたいのは、空間や場における“手触り感のあるコンテンツ”をデザインすること。そうした意志を込めて「コンテンツデザイン局」という名前にしました。
博展だからできること──空間×デジタルコンテンツの強み
── 手法ではなく体験の本質に名前を付けたわけですね。藤本さんが感じている強みは?
藤本:空間設計と一体になってデジタルコンテンツを作れるのが、非常に大きいですね。入社前は、完成した空間設計に対して後からコンテンツを当てはめていくような進め方も多かったのですが、博展では企画の初期段階から空間デザイナーと常に密なコミュニケーションを取り、一緒にクオリティーを練り上げていくことができます。私自身が建築学部出身ということもあり、映像が空間全体にどう影響を与えるかまでトータルで設計できるのも、この環境ならではの強みだと感じています。

── 奥村さんは新卒で入社して1年、どんな強みを感じていますか?
奥村:私は形のあるものづくりがしたくて、「体験につながるモノがゼロからつくれる環境」を探していました。学生時代に博展のインターンシップに参加した際に、3Dプリンターやレーザーカッター、大型パネルソー(※1)が使える制作スタジオを見たときに魅力を感じました。デジタルコンテンツを扱う企業というと、画面の中だけで完結するUIデザインなどを手がけるイメージでしたが、博展が追求するのは、実際の空間において人々が身をもって体感するコンテンツです。動線の設計や照明のコントロール、プロジェクターを連動させる絶妙なタイミングにいたるまで、実際に作って試すことでどんどん精度が高まっていくのが、この環境ならではの魅力だと思います。
※1:プラスチックや合板などの大きな板材を、直線や直角に精密カットするための大型工作機械
石田:空間を仕上げる制作部や造作の進行管理をするプロダクトマネージャー(PM)が同じ社内にいるので、空間造作と密に連携がしやすく、新しい手法を現場ですぐ試せる環境があります。この会社だからこそ挑戦できることや、スケールしていける可能性は非常に大きいですね。

事例で紐解く制作現場のリアル──企画から運用まで、自らの手でカタチにする
── まさに“手触り感のあるものづくり”ですね。直近の案件について教えてください。
奥村:セイコーグループ株式会社様の「時」をテーマにした体験展示や統計を通じて現代人の時間感覚を振り返り、「自分時間」を見つめ直す企画展「Exhibition 時 2026 わたしのリズム、みんなの時間」です。空間デザインから制作、デジタルコンテンツまで、ほぼ内製した案件です。(『時間感覚タイプ診断』『クロノタイプ診断』は、セイコー様のウェブサイトのコンテンツを活用しています)
CODE局は企画段階からブレストに入り、実装やUI制作、照明要件、動線設計まで空間と一体で作り込んでいきました。手掛けたデジタルコンテンツの一つが、来場者自身の腕を時計の針に見立て、自分のリズムで15秒かけて1周させる動作を撮影するコンテンツです。撮影した動画を他の人の動画と重ね合わせてディスプレイに表示することで、自分と他者の持つ時間感覚の「違い」を可視化しました。
撮影した動画たちを重ね合わせる表現をするため、高い切り抜き精度が必要でした。AIやソフトでの切り抜きも検討しましたが、コンテンツのクオリティを左右する箇所のため、専用機材を使用したクロマキー合成(※2)を採用することで、クオリティを担保しました。
今回は体験者が腕をまっすぐ上げると体験開始だったのでDepthカメラを使用しボディトラッキングも行いました。若手中心でできた、すごく楽しい企画でしたね。
※2:特定の色の情報を手がかりに映像の一部を透明にし、別の映像やCGを重ね合わせる合成技術のこと

── 藤本さんはいかがですか?
藤本:私は茨城県つくば市にある産業技術総合研究所(産総研)のショールーム「AIST-Cube(アイストキューブ)」のリニューアルプロジェクトが印象深いです。このプロジェクトでは、企画・空間デザインからデジタルコンテンツの制作までを手掛け、可変性と更新性の高い体験型ショールームを実現しました。具体的には、12面モニターを連動させて産総研のビジョンを訴求する映像を制作したほか、横幅11mの大型スクリーンとタブレットを用いて研究者の世界をより深く体感できるシアターコンテンツのディレクション・制作も担当しました。自分の得意分野である映像に加えて、社内のエンジニアと連携して作る再生システムや全体の機材選定まで、一貫して手掛けました。
長期運用の常設案件なので、機材同士を連動させる配線計画や毎日の電源操作といった運用のしやすさにはかなり気を配りました。耐久性やメンテナンス性を確保することはもちろんですが、今回は今後も映像を追加していくシアターとしての側面もあるため、「クライアント様側で簡単に映像を追加できる運用設計にするか」といった会話も重ねながら進めていったんです。納品して終わりではなく、現場での扱いやすさのことまで考えて設計をしています。

石田:どの案件においても、社内にエンジニアがいるので機材やシステムの相談がすぐできる。企画段階から入っているからこそ運用方法も見えていて、納品した時が最後じゃなくてその後のことも考えて寄り添っていけるんです。エンジニアだと、決まったことを実装するイメージを持ってる人もいると思いますが、企画から運用まで一気通貫で手を動かせるのは、かなりいい動きができていると思います。

コミュニケーションを軸にした育成──個の強みを活かす組織のつくり方
── メンバーの育成について、どのように意識していますか?
石田:まず大前提として、メンバー一人ひとりの個性と強みを活かすことを一番に考えています。個人の自主性と自走力を尊重し、困ったときにはいつでも相談に乗れる伴走型のスタンスを意識していますね。
また採用については、職種ごとにベースとして必要なスキルや知識、モノづくりの経験は求めていますが、最も重視している点はコミュニケーション能力です。体験設計において、コミュニケーションは核となる部分でもあり、会社としても大切にしているポイントでもあるので、特に新卒採用においては重要視しています。
デジタル技術やツールは時代によって変わりますが、「体験価値を最大化するためのコンテンツを作り出す」という本質さえ捉えていれば、技術が変わってもニーズはなくならないと思うんです。そういう人材を育てていくことが大事だと考えています。

── 技術だけではなく、コミュニケーションも重視されているのですね。奥村さんは入社してからどのように成長してきましたか?
奥村:私は学生時代にプロダクトデザインを学んでおり、デジタルに関してはArduinoを用いた電子工作に少し触れていた程度だったので、デジタルコンテンツの制作に関して実務で通用するのか不安を感じていました。しかし、分からないことや、知らない機材についてなど石田さんや先輩にいつでも質問でき、プラスαの知見を交えて丁寧にフォローしてくださる恵まれた環境なので、知識を貪欲に吸収しながら制作の幅を広げています。
入社後2ヶ月間は空間デザインや営業などの他部署で研修を受け、会社全体のプロジェクトの流れを学びました。配属されてからも、先輩方に付き添っていただきながら、機材の使い方などを一から学び、少しずつ案件に入っていくことができました。
石田:新卒メンバーが成長し、「各メンバーの活躍によって博展の可能性が広がる」と言われる存在になってくれるのがベストです。コンテンツデザイン局のメンバーがさまざまな場所や分野で活躍したとき、この博展のコンテンツデザイン局の名前が轟き始めるのだと思います。
これからの5年・10年──影響力の拡大と「やりたいこと」の実現へ
── メンバーの活躍によって組織の価値が広がっていく、素敵なビジョンですね。今後、コンテンツデザイン局をどのような組織にしていきたいですか?
石田:「質の高い体験を作り出せる」という現在の強みと信頼をベースに、今後は社内外での存在感をさらに高め、組織の影響力を拡大していきたいです。
この部隊がいるからプロジェクトの質が上がるよね、と自然に感じてもらえる存在になることで、挑戦できるクリエイティブのスケールも自ずと広がり、自分たちが本当に実現したい表現に手が届くようになります。
個人のクリエイターとしての信頼、組織のブランド価値、そして博展という会社の存在感。そのすべてを相乗効果で高めていきたいですね。
奥村:デジタルコンテンツが持つ強みは、まだまだ引き出せる余地があると感じています。今後はデジタルという枠組みに固執せず、多種多様な領域へチャレンジし、博展だからこそ実現できる唯一無二の表現や仕事を生み出していきたいと考えています。
また、個人的な大きな野望としては、巨大なぬいぐるみや巨大なプリントシール機などの制作にも挑戦してみたいという思いがあります。その実現に向けて、今後はさらに知識の幅を広げ、技術に磨きをかけていくつもりです。他社が手掛ける優れたデジタルコンテンツの表現技法なども積極的に学び、自身のスキルとして吸収していきたいですね。突き詰めると、周囲から「魔法使い」と呼ばれるような存在を目指したいんです。(笑)
藤本:AIが台頭する中で、コンテンツの企画や制作に携わる者として危機感を抱く部分もありますが、それを上手く取り入れつつ、これまでの経験を活かした映像中心のインスタレーションをさらに深く追求していきたいと考えています。特にUnreal Engine(アンリアルエンジン)を効果的に活用した映像を作りたい。
これまでは色々なことに挑戦していきたくて、幅広い領域に手を広げていた面もありましたが、今後は「体験」をコアに据え、その価値を最大限に引き出せるようクオリティを研ぎ澄ませていきたいですね。そのうえで、コンテンツデザイン局を象徴するようなコンテンツを、チームの仲間と一丸となって創り上げていきたいと思っています。

<Credit>
Editor/Writer|酒井 美菜子, 浅井亜紀子, 三浦 光梨, 久我尚美
Photo|村上 大輔