みかんを食べながらちゃぶ台でアイデアを回し、羊羹の型で社会に届ける。企業と学生がフラットに挑んだ、異色の産学連携3時間の記録。

<目次>
はじめに: プログラム開催の背景と概要
コンセプト解説: なぜ「ミカン」と「ヨウカン」なのか?
ワークショップ前半: ちゃぶ台を囲み、アイデアを発散する「ミカンをひらく」プロセス
ワークショップ後半: 問いを立て、社会実装へ収束させる「ヨウカンにかためる」プロセス
参加者の声・成果: 生み出された「いい予感」と、参加者の変化
今後の展開・結び: いい予感から、さらにいい予感へ。広がる共創の輪


■ はじめに:「藝大部屋」で産学連携の新しいテストランが始動

2026年7月9日、東京・谷中にある東京藝術大学 芸術未来研究場の拠点「藝大部屋」※にて、株式会社博展のクリエイティブコレクティブ「Studio コー」と東京藝術大学が手がける新たな共創プログラム「ミカンとヨウカン」のテストランとなるワークショップが開催されました。

記念すべき第一弾の参画企業としてお招きしたのは、東レ株式会社。同社の持つ素材であるスエード調人工皮革(ウルトラスエード®)をテーマに、企業の担当者、藝大生、そして博展の伴走クリエイターがフラットに議論を交わした3時間のワークショップ。そのユニークなプロセスの全貌をレポートします。

※「藝大部屋」は、2024年に誕生した「芸術未来研究場」の活動拠点。上野キャンパスから一歩外の谷中に位置し、大学と地域や企業との間にあえて「スキマ・滲み」をつくることで、多様な人々が双方向に学び合える共創の窓口としての役割を果たしています。

「藝大部屋」が大学と地域・企業をつなぐ「場」を、Studioコーが対話を生み出す「プロセスと道具」を、それぞれ担う——両者の役割がかみ合うことで、このユニークな産学連携プログラムは成り立っています。


■ なぜ「ミカン」と「ヨウカン」? ただのダジャレに込められた想い

本プログラムは、企業が持つ素材や技術を「未完」として持ち寄り、学生との対話を通じて、これまで気づかなかった新しい価値「いい予感」を発見するプログラムです。「未完(ミカン)」と「予感(ヨウカン)」。一見するとただのダジャレのようですが、実は創造性を社会に届けるプロセスを見事に表しています。
みかんは、上から剥く人、下から剥く人など、剥き方(ひらき方)にその人らしさが現れます。同じように、未完の素材をどう捉えてひらくかに、個人の偏愛や創造性が現れます。 一方で羊羹は、誰に届けるかによって切り分け方が変わります。広がったアイデアを社会に向けてどう切り取り、届けるか。この「ひらく(発散)」と「かためる(収束)」を体験するのが、「ミカンとヨウカン」の醍醐味です。


■ 【前半】ちゃぶ台を囲み、みかんを食べながら「未完をひらく」

ワークショップは、企業の会議室ではなく、畳の上に置かれた「ちゃぶ台」を囲んでスタートしました。靴を脱ぎ、肩書きを外し、みんなで実際にみかんを食べながら素材に触れることで、初対面の緊張感が解けていきます。(みかんの香りが会場いっぱいに広がりポジティブなコミュニケーションの場に)

前半の「ミカンをひらく」フェーズでは、東レのウルトラスエードを観察し、「素材 × 自分の好きなこと・興味があること」というテーマでアイデアを書き出します。ここでのルールは、自分が書いたアイデアを隣の人へ次々と回していくこと。他者のアイデアに自分の視点を乗せていくことで、予想もしなかった使い道が次々とひらかれていきます。

参画企業より素材の説明を受け、素材に触れ、みかんを食べながら対話をし、アイデアを書きだす様子
工具場も設けられており、絵の具で色をつけたり炙ってみたり、引っ張ってみたりなど、手を動かしながら素材と向き合う参加者たち

■ 【後半】社会に届く形へ。「ヨウカンにかためる」

休憩を挟んだ後半は、「ヨウカンにかためる」フェーズへ。
ここからは、広げたアイデアに対して「ヒト(誰のためのアイデアか)」「トキ(どんなシーンで活きるか)」「バ(どんな場所で使うか)」という具体的な問いを立てていきます。単なる思いつきを、社会に実装するために「制限」を加える作業です。ここで、共にちゃぶ台を囲っている博展のクリエイターが「翻訳者」として介入し、学生の自由な発想と企業のビジネス視点を繋いでいきます。

議論が深まったら、出てきたアイデアの種は紫色の四角い羊羹型の用紙に書き起こしていきます。たくさん溜まったアイデアの中から一つ(または複数)を選び、最後にそのヨウカンの魅力を伝える「売り文句(名前)」をつけてプレゼンテーション。企業にお土産としてお渡しするアクリルの「羊羹の型」にアイデアを収めて(見立てて)、一つのヨウカンが完成します。(プレゼンテーションの場で、より良いアイデアが出れば追加することも可能です)

「素材 × 自分の好きなこと・興味があること」からみんなでアイデアを広げ「ヨウカンにかためる」プロセスの様子

■ 体験をデザインする、Studioコーのものづくり

今回のワークショップを支えていたのは、対話そのものを企画・デザインするStudioコーの「ものづくり」でした。オリジナルのちゃぶ台の上には、アイデアを発散させるための道具から、社会に届く形にかためるための羊羹型まで、ひとつの体験として設計されたオリジナルツール一式が並びます。

道具そのものにも、参加者が思わず手に取りたくなる仕掛けを込めました。ペンやアイデアシート、ヒント用のカードまで、対話を止めないための工夫がひとつの箱に収められています。


■ 生み出された「いい予感」と、参加者の変化

わずか3時間のプログラムでしたが、完成した「ヨウカン」の発表では、企業側が想定していなかったアイデアも飛び出しました。

このプログラムの最大の特徴は、企業が課題を「依頼する」のではなく、学生と「共に考える」点にあります。参加した東レのご担当者様からは、「これまでの産学連携は素材を預ける形で作品制作に協力していましたが、今回のように自分たちも同じテーブルで一緒に考えるプロセスは非常に新鮮でした」という声や、「学生の自由な発想に触れ、自社素材の捉え方や向き合う視点が広がりました。また、間に入って翻訳してくれる伴走クリエイターの存在が居るのはすごく良かったです」と、まさにリスキリング(学び直し)につながる手応えを感じていただけました。

一方、参加した学生からは、「普段の制作とは異なり、企業の製品を前にデザイン思考で取り組む経験が新鮮だった」という声や、「ミカンを食べながらちゃぶ台を囲む形式によって自然とコミュニケーションが生まれ、『いい予感』を出すという程よいゴール設定のおかげでラフな意見も出しやすかった」といった感想が寄せられました。普段の学生間でのやり取りとは違い、視点の異なる多様な意見によってアイデアが広がっていくプロセスは、彼らにとっても非常に刺激的で有意義な体験となったようです。

また、生み出されたアイデアは、その場限りにせず「次の一歩に繋がるプロジェクトの種(ヨウカン)」として企業に持ち帰っていただきます。

実際に東レの担当者に手渡されたのは、羊羹をかたどったアクリルのパッケージに、その日生まれた「いい予感」を収めたお土産です。中身を入れ替えれば、プログラムのたびに新しい「いい予感」を持ち帰ることができる——道具そのものが、次の共創を呼び込む仕掛けになっています。


■ いい予感から、さらにいい予感へ。広がる共創の輪

こうして生まれた「未完」と「いい予感」は、プログラムが増えるごとに姿を変えていく什器「和ダンス・ガウディ」にアーカイブされていきます。参画企業が増えるほど拡張され、いつまでも完成しないこの棚もまた、Studioコーが手がけたものづくりのひとつ。ワークショップの場そのものが、共創の記憶を蓄積しながら育っていきます。

今回のテストランを通じ、「ミカンとヨウカン」が単なるアイデア発散の場ではなく、企業の技術や素材の新たな可能性をひらく有効なアプローチであることが実証されました。ここで生まれた「いい予感」は、企業のR&Dや新規事業のヒントになるだけでなく、実証実験や共同プロジェクトへ発展する可能性を秘めています。さらに、履歴書や面接では見えない学生の思考プロセスに直接触れることは、企業にとって新たな人材との出会いの場にもなります。

今後も、すでに参画が決定している数社の企業とともに、このユニークな共創プロセスを進めていきます。東レ株式会社に続く新たな「未完」が、次々と藝大部屋に持ち込まれる予定です。企業と藝大生がちゃぶ台を囲む対話から、社会を面白くするどんな新しい価値がひらかれ、どんな「いいヨウカン」が届けられるのか。

今後の展開にぜひご期待ください。


▼ 本プロジェクトの公式プレスリリースはこちら

「ミカンとヨウカン」の取り組み概要や背景、東レ株式会社様、東京藝術大学の参加学生・先生からのコメント等を掲載しています。
https://digitalpr.jp/r/140626

▼ Studioコー(株式会社博展)について

体験デザインを軸に、地域と教育に眠る課題をテーマに共創的に活動を行う博展のクリエイティブコレクティブ。 異なる立場の人々をつなぎ、まだ言葉になっていない可能性をひらくことを得意としています。
・Instagram:
https://www.instagram.com/hakuten_studio_co/
・インタビュー記事「体験デザインの可能性をひらく、Studioコーの現在地とこれから」 :https://www.hakuten.co.jp/tex/blog/studio-co-release
・設立プレスリリース「HAKUTEN | Studioコー」:
https://www.hakuten.co.jp/news/post_15379

▼ 東京藝術大学 芸術未来研究場「藝大部屋」について

東京藝術大学 芸術未来研究場は、アートを人が生きる力の根幹と捉え探求する場として2023年に創設されました。「藝大部屋」はその実践の拠点としてキャンパスから一歩外の谷中に2024年に設けられ、大学と地域社会、企業など多様な人々をつなぎ、共に学ぶための双方向の窓口(スキマ)となることを目指しています。
・公式サイト:https://geidai-park.geidai.ac.jp/
・Instagram:https://www.instagram.com/geidai_beya


<Credit>
Editor/Writer|酒井 美菜子
Photo|中里 洋介 , 中榮 康二 , 酒井 美菜子