2025年4月1日にリニューアルオープンを迎えた、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の常設展示施設「AIST-Cube(アイストキューブ)」。茨城県つくば市に位置する同施設のリニューアルに際して、博展は設計施工の業務にとどまらず、企画・空間デザインをはじめ、デジタルコンテンツおよびシステム構築、Webサイト制作を担当しました。

約2,300名もの幅広い研究分野の研究職員が所属する産総研は、日本最大級の公的研究機関として、「社会課題解決」と「日本の産業競争力強化」をミッションとして掲げ、日々研究に取り組んでいます。「“ちょっと先の未来” と出会える共創の場」として生まれ変わったAIST-Cubeのリニューアルにおいては、研究の世界の奥深さを伝えると同時に、産総研のビジョンを体現し、来場者との関係性を深める体験のデザインが必要不可欠でした。今回は、本プロジェクトに携わったプランナー、デザイナー、コンテンツディレクターの3人が、約1年間のプロセスを振り返ります。


Index

・ビジネスモデルの変化を見据えたリニューアル提案
・産総研のビジョンと研究の世界を伝えるデジタルコンテンツ
・更新性と可変性を追求した展示モジュールのデザイン
・企画・デザインからシステム構築まで、総力戦で臨んだプロジェクト


ビジネスモデルの変化を見据えたリニューアル提案

ーはじめに、本プロジェクトのスタート時のことを教えてください。

長田(博展 プランナー): 本プロジェクトは、入札案件でしたので現地説明会に参加したのち、資料をもとに提案をさせていただきました。受注後、設計にあたり、リニューアル前のショールーム「サイエンス・スクエア つくば」に改めて見学へ伺い、課題をヒアリングさせていただきました。サイエンス・スクエア つくばの展示は、おもに中高生に向けた科学教育および研究所としての活動の意義を伝える内容でした。しかし、2021年より産総研は新たなビジョンとして「ともに挑む。つぎを創る。」を掲げており、産総研のビジネスに寄与する施設として、ショールームの立ち位置を変えていきたいという思いがありました。

ーどのような方針を提案したのでしょうか?

長田:本プロジェクトは施設のリニューアルだけではなく、産総研のビジネスモデルそのものが変化していくことを前提に企画内容をまとめていった点に、大きな特徴があると思います。ショールームの展示を通じて産総研の活動への理解を深めてもらいながら、つぎの事業や共創につながるパートナーとしての関係性を築いていくことを軸に、リニューアルの方向性を提案していきました。

福山(博展 デザイナー):ショールームの構成においては、エントランスの空間をはじめ、「AIST VISION」「AIST INNOVATION」「AIST DISCOVERY」の3つのエリアを設けており、この施設でしか見られない展示やコンテンツを通じて、産総研のことを深く知ってもらうための体験を提案しています。

ゾーニング図

産総研のビジョンと研究の世界を伝えるデジタルコンテンツ

ーそれでは、具体的な空間デザインの内容についてそれぞれ教えてください。

福山:まずは、ショールームの入口の印象を刷新したいというクライアントからの要望があったので、もともとあった入口とは異なる壁面を解体し、新たな場所に入口をつくっています。施設内の最初のエントランス空間はナチュラルな雰囲気でデザインしていますが、木目のフロアと産総研のブランドカラーの1つである黒を基調としたフロアを区切ることで、ショールームの体験に進む来場者のマインドが切り替わる工夫をしています。

長田:続く「AIST VISION」の空間では、「ともに挑む。つぎを創る。」という産総研のビジョンを来場者に伝えると同時に、いかに記憶に残る体験を来場者に提供できるかが重要でした。来場者の気持ちを盛り上げるようなデジタルコンテンツを制作することで、BtoB向けの施設ではあるものの、訪れた人々をワクワクさせたいという思いがクライアントの中にありました。
同様に、この空間では世界統一の物理量の単位となる「キログラム原器」や、日本で最初につくられた地質図、産業用アンモニウムの合成技術など、100年以上続く産総研の歴史を感じさせるものを展示しています。AIST-Cubeはおもに産総研の現在進行形の活動と未来について発信する施設ではありますが、ここでは産総研の歩みをあわせて伝えることでこれまで培ってきた技術や研究への自負を表現し、産総研への信頼や安心感が生まれる体験を提供しています。

藤本(博展 コンテンツディレクター):映像制作においては、ショールームの入り口として相応しい演出とは何かをクライアントと話し合いながら、産総研のビジョンを象徴的に表現する方法を模索していきました。映像内で表現されているモチーフや動きを検討する際には、それぞれどのような意図があるのかを細かく絵コンテでお伝えしつつ、産総研の活動を未来につなげていく印象が生まれる映像に仕上げています。
なお、空間内には来場者の動きを探知するセンサーを仕込んでおり、来場者が手をかざすことで映像がスタートする仕様にしています。

ー単純に映像を自動でループ再生するのではなく、来場者とのインタラクションを体験に組み込んだ意図は何だったのでしょうか?

藤本:メインの映像と待機画面を分けたのは、一種類の映像だけをループさせた状態だと、来場のタイミングによっては途中から映像を鑑賞することになり、ショールームのエントランスで提供する体験としては不十分なのではないかと考えたからです。より没入感のある映像体験を提供する上では、来場者が自らの動作で映像がスタートする仕組みが必要なのではないかと、センサーの導入を提案させていただきました。

ー「AIST VISION」のエリアの他に、「AIST DISCOVERY」においても映像コンテンツを投影しています。こちらの制作経緯についても教えてください。

藤本:2021年に産総研で働く研究者の方々の姿を写した「if-then」という写真集が出版されており、ここでは写真集に収録された作品をもとに、研究者の視点から見た世界を表現した映像を制作しています。来場者は4カテゴリ計6種類の映像をタブレット上で選ぶことができ、選択した映像は台形の空間の3面に投射されます。

長田:ここでは「Dive into Science」をテーマに、研究の世界をより深く感じてもらうための映像体験を提供しています。同時に、産総研の全国にある研究施設内の様子を映像で伝える「AIST Network」というコンテンツは、各拠点を印象的に紹介する役割も果たしています。なかには限られた人しか入室が許されない、半導体の製造施設内にあるスーパークリーンルーム(SCR)の映像もあり、実際に私たちも防護服を着て撮影を実施させていただきました。


更新性と可変性を追求した展示モジュールのデザイン

ーそれでは、本施設内ではもっとも広い「AIST INNOVATION」のエリアのデザインプロセスについて教えてください。

福山:イノベーションは本施設内でもっとも滞在時間の長い空間でもあるので、いかに産総研らしさをデザインに落とし込むのかが重要だったと思います。近年、あらゆるショールームにおいて“更新性”と“可変性”に対応できる柔軟な展示手法が求められており、本プロジェクトにおいてもクライアントがもっとも課題として認識していたのはその点でした。みなさんとのやり取りを重ねる中で、リニューアル後の施設で様々な研究の成果やプロセスを発表したいという強い熱意を感じたため、あえて床・壁・天井といったインテリアにおいて特徴的なデザインを提案するのではなく、まっさらな空間に展示モジュールが立ち並ぶ、更新性と可変性を意識し、常設施設でも対応できる柔軟性を高めたデザインを提案しています。

展示モジュールのパーツセット

展示モジュールを構成するのが、組み立て式の什器と、各展示を照らす灯台のような役割を果たす照明、研究者の方々が自由に書き込めるブラックボード、そして展示情報を表示するデジタルサイネージおよびタブレットです。組み立て式什器は跳び箱のように自在に積み重ねられる構造になっており、展示ボリュームに合わせて自由に組み替えることができます。なお、未使用の箱を凸型の壁面にはめ込むことで、展示モジュールによる空間の可変性を視覚的にも表現しています。おそらく、これまで私がデザインを担当したプロジェクトの中でも、もっとも可変性の高い空間に仕上がったのではないかと思います。

長田:研究の世界では、現時点では最新の情報であっても、研究の進展によってたちまち古くなってしまうこともあるので、現在進行形の情報を展示し続けるためには、産総研の方々が自ら情報をアップデートできる仕組みをつくる必要がありました。サイネージとタブレットに表示する内容もストレスなく変更できるように、更新用の基本的なフォーマットとシステムを構築しているので、一つひとつのデバイスを操作することなく情報の更新が可能です。今後の運営を通じてどんどん活用していってほしいですね。

また、展示内容に関しては、提案時にはまだ方針が決まっていなかったため、こちらで研究者の方々にヒアリングさせていただき、それぞれの研究内容をわかりやすく伝えるための情報のまとめ方や編集方法を提案させていただいています。もともと私自身が理系の出身で、研究活動の背景には、成果に現れないさまざまな過程があることを知っていました。なので、フィールドワーク中の様子が伝わる写真や研究者自身の手書きの文字など、研究にかける熱意が伝わるものをぜひ展示したいと提案したところ、産総研の方々に共感していただき、リニューアルオープン時には20種類の研究を研究過程と共に展示することができました。


企画・デザインからシステム構築まで、総力戦で臨んだプロジェクト

ーショールームが抱える更新性の課題解決につなげるユニークな事例だと感じましたが、あらためて本プロジェクトの成果についてどのように感じていますか?

福山:確かに、本プロジェクトに限らず、常設空間の更新性に対する課題意識を持つクライアントはとても多いと思います。一方で、デザイナーとしては、更新性を高めすぎると展示内容や施設全体のストーリーをつくり込むことができず、体験に深みを持たせることが難しくなってしまう可能性はあると思います。本プロジェクトは、フルスペックの更新性を目指しましたが、同時にVISIONエリアとDISCOVERYエリアのコンテンツをつくり込むことで、ショールーム全体でのバランスを取ることができたのではないかと考えています。

ー最後に、本件を振り返ってみていかがでしたか?

福山:プロデューサーおよびプランナーをはじめ、僕らのようなデザイナーや、デジタルコンテンツ、施工チームも含めた博展の各職種に携わるメンバーが総戦力で臨むことができ、手ごたえを感じられたプロジェクトだったと思います。日本で3つしかない特定国立研究開発法人がクライアントのプロジェクト特有のニーズにも十分に対応できるという自信にもつながりました。研究の世界で大きな存在である産総研のショールームを手がけたことで、今後さらに行政や研究機関など常設施設のお仕事につながっていくのではと感じています。

藤本:常設空間におけるデジタルコンテンツは、インパクト重視の表現にしてしまうとやがて新鮮さが失われてしまうので、空間に馴染むことはもちろん、他のエリアの体験とのつながりが感じられるようにする点に、もっとも工夫を凝らしました。機材の選定も担当し、施設の電源のオン/オフに合わせて機材の電源を自動で切り替わる仕様にするなど、常設空間としての運用しやすさも実現できました。これまで常設空間の仕事は部分的な関わりが多く、コンテンツ制作からシステム構築まで担当することができたのは本プロジェクトがはじめてだったので、トータルでご提案することで、より利用者に寄り添った仕様にできたと感じています。

長田:いちプランナーとしては、こちらが提案したショールームとしての一本のストーリーラインを、当初の提案から大きな変更なく実現することができたのは嬉しかったですね。エントランスからビジョン、イノベーション、ディスカバリーのそれぞれの空間で何を伝えるべきなのか、常に認識を合わせながらクライアントと一緒につくり上げることができたので、自分たちの提案は間違っていなかったんだなと、安心感と同時にやりがいを感じることができたプロジェクトでした。
本プロジェクトは、ショールーム運営の新陳代謝を高める仕組みづくりをはじめ、デジタルコンテンツを含めた体験デザインの成功事例として、すでに新たに博展にお問い合わせいただいたお客様にご紹介させていただいているので、ここで得られた知見は今後のさまざまなプロジェクトに活かしていきたいと思います。

OVERVIEW

CLIENT国立研究開発法人産業技術総合研究所
PROJECTAIST-Cube