2026年5月29日(金)、ヤマハ発動機株式会社が運営する共創スペース「Regenerative Lab(通称:リジェラボ)」にて、「PRODUCT REGENERATION ー遊び心と共創から生まれる再生型社会ー」と題したイベントが開催されました。
本イベントでは、企業や立場の異なるプレイヤーが集い、「共創」と「アップサイクル」を軸に、再生型社会のあり方について考える場が設けられました。さまざまな社会・環境課題が浮き彫りになる中、企業単独で課題に取り組むのではなく、同じゴールを目指すもの同士の「共創」が生まれることも少なくありません。
ヤマハ発動機は、「再生(Regeneration)」をテーマにした共創スペースとして、2025年に「リジェラボ」をオープン。さまざまな企業同士で、人・自然・都市のこれからを考え、未来のアイデアを生むことを目指しています。
今回は、そんなリジェラボで、ヤマハ発動機と共に「共創×アップサイクル」のプロジェクトを実現した、株式会社船場と株式会社博展の2社が登壇。
プロジェクトのオーナーであるヤマハ発動機 技術・デザイン統合戦略部の東山大地さんを中心に、各プロジェクトのデザイナーとヤマハ発動機の社員との座談会が行われ、共創の難しさや理想と現実のギャップ、そしてそこから生まれたリアルな学びや想いが惜しみなくシェアされました。約3時間にわたるイベントでは、参加者同士の活発なディスカッションや、実際に制作されたプロダクトに触れる時間も設けられ、今後の新たな共創の誕生を予感させる熱気にあふれた場となりました。
本記事では、博展からの登壇者である高橋 匠、鈴木 亮介のセッションを含め、イベントの全貌をレポートします。
Index
・第一部:「技術と想いの再生」──船場×ヤマハ発動機 モーターサイクル企画
・第二部:「素材と想いの再生」──博展×ヤマハ発動機 プール事業
・第三部:共創で生み出す再生の未来
・クロージング:違いは壁ではなく資源──本音が共創を動かす
■ 第一部:「技術と想いの再生」──船場×ヤマハ発動機 モーターサイクル企画

SPEAKERS
株式会社船場 EAST事業本部 Design Direction Division 空間デザイナー 田口 裕都氏
ヤマハ発動機株式会社 MC企画ソリューション部 企画管理G グループリーダー 角谷 智氏
ヤマハ発動機株式会社 技術・デザイン統合戦略部 東山 大地氏
最初のセッションでは、船場の空間デザイナーである田口 裕都さんと、ヤマハ発動機でモーターサイクルの企画を担当する角谷 智さんによる対談が行われました。
両社が取り組んだのは、ヤマハ発動機の主力商品「モーターサイクル」のアップサイクルプロジェクト。本プロジェクトは、開始当初、コミュニケーションの壁にぶつかり、難航したといいます。
田口さんは、セミナー会場にもなったリジェラボの内装インテリアも担当しており、ヤマハ発動機の他事業部の廃材をもとにした数々のアップサイクルプロダクトの実績がありました。しかし、モーターサイクル事業の現場では既に高度なリサイクルが進んでおり、いわゆる「廃棄物」はほとんど存在しなかったそうです。一方で角谷さんは、その現状を把握していたことから、単に「廃材の再利用」ではなく、「長年培ってきたヤマハ発動機の技術や職人の想い、文化の継承といったソフト面の“アップサイクル”をするプロジェクトにしたい」という強い熱意を抱いていました。
角谷さんは当時を振り返り、「最初は、かなりの熱量で伝えてしまって。船場さんをずいぶん戸惑わせてしまったかもしれません(笑)」と語ります。これに対し田口さんも、「確かに熱い想いは感じていました(笑)。ただ、それをどうアウトプットに変えていくかは、正直かなり悩んでいました」と当時の率直な心境を明かしました。
思うようにプロジェクトが進まない期間が続く中、その状況を打破するため、田口さんは100個近くのアイデアを持ち込み、本音で語り合うワークショップを実施しました。アイデアを可視化したことで具体的な方向性が見え始めると、「こうすれば伝わりやすいデザインかもしれないです」「こういった技術はできますか」といった掛け合いが生まれ、少しずつ道筋が見えてきました。
「お互いができることとできないこと、どうしても難しい部分は正直に伝える。代わりに、ここはこういうふうにすれば実現できます、という提案を出し合う。そういう掛け合わせがようやく動き出した感覚がありました」と2人は振り返ります。
「『お互いの文化を理解して、お互いがわかる言葉で話し合う』って言葉にすると簡単なんですけど、実際にやってみたらこんなに難しいのかと、打ち合わせのたびに痛感していました」と壁を乗り越えて、共創を実現した田口さんはすっきりとした顔で語りました。
角谷さんも、「什器を作るプロの船場と、エンジンを作っている我々では当然バックグラウンドが違う。そういう相手が提案するアイデアに自分が見落としている価値があるかもしれない、そう思いながら寄り添うことができるかどうか、が共創が生まれる分岐点だったと思います」といいます。本音で向き合う時間を重ねる中で、両社はようやく共創の手応えをつかんでいったのです。
こうした試行錯誤を経て、両社がたどり着いたアウトプットが、バイクの部品や技術を空間の中で体験できるファニチャー群でした。
たとえば、限られた職人の手仕事によって受け継がれている「サンバースト塗装」を用いたテーブル。このテーブルは、船場が本体を制作し、最後の仕上げとなる天板の塗装をヤマハ発動機の職人が手がけるという工程で完成しました。

撮影:Katsuhiro Aoki 詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000052529.html
「両社の技術がないと実現しないプロダクトになったとき、これはクライアントワークではなく『共創』の産物だと感じました」と田口さんは振り返ります。
本音でぶつかり合うことで、職人の想いや技術のこだわりが存分に表現されたプロダクトが生まれました。この経験は、両社にとって「共創とは何か」をあらためて考えるきっかけにもなりました。

■ 第二部:「素材と想いの再生」──博展×ヤマハ発動機 プール事業

SPEAKERS
株式会社博展 サステナビリティ推進部 サーキュラーデザインルーム デザイナー 高橋 匠
ヤマハ発動機株式会社 マリン事業本部 国内事業推進部 プール管理部 生産グループ 野村 隆敏氏
ヤマハ発動機株式会社 技術・デザイン統合戦略部 東山 大地氏
続いて、博展のデザイナーである高橋匠と、ヤマハ発動機でプール事業を担当する野村さんによるトークセッションが行われました。
両社が取り組んだのは、ヤマハ発動機が2025年に事業撤退することとなった、プール事業で扱っていたFRP(繊維強化プラスチック)製のプール素材を用いたアップサイクルプロジェクト。
野村さんは、学生時代から水泳に打ち込み、プールの運営から設備提供まで長年関わってきた人物です。今回のプロジェクトには、そうした背景もあり、プール事業への強い想いを持って臨んだといいます。
一方、高橋は、ヤマハ発動機がFRP製のプールを手がけてきたことを、今回のプロジェクトを通して初めて知ったそうです。そういった驚きの中、プールを単なる「プロダクト」ではなく、人々の記憶や体験が積み重なった“場”として捉え直す、という方向性を見出しました。「野村さんのお話を伺っていて、本当にプールに対する深い愛を感じたんです。だからこそ、単なるアップサイクルではなくて、人と人とのコミュニケーションが豊かになるようなものを目指したいと感じました」
今回、両社が設定したテーマは「遊び心」。
子どもたちの歓声や、家族の時間、地域の風景、そうしたプールが育んできた豊かさの断片を、かたちとして残したいという想いで、デザインに向き合いました。
実際に出来上がった作品のひとつは、「プールソファー」です。子ども用プールのFRP素材に、プールサイドの手すりを連想させるステンレス製パイプを骨格として組み合わせ、ダイナミックに身を預けられるソファーに。あえてプールのステップ(段差)を残すことで、「かつてプールだった痕跡」を表現し、遊び心と、新たな愛着が生まれることを狙っています。
もうひとつの作品が「マテリアルファニチャー」。
プールの床材をモジュール化し、さらに博展が別プロジェクトでも活用してきた「REYO 横浜市再利用材プロジェクト」で調達した旧体育館の床材と組み合わせて制作されました。
「学校」という共通項を持つ素材同士を掛け合わせることで、どこか懐かしく、使い手の記憶に寄り添う存在に。
椅子やテーブルとして多目的に使える構成とし、日常のなかで自然と人が集まる家具を目指しました。
この組み合わせには、野村さんも驚きながらも「『遊び心を取り入れることで愛着が湧く』という考えはすごく刺さりました。製造の現場にいると、そういう発想は持っていなかった。それこそ、今回の共創があったからこそ気づけた点だと思います」と振り返りました。
高橋は、出来上がったプールソファーとマテリアルファニチャーを自身の息子に最初に体験させたそうです。子どもたちが楽しそうに遊んでいる様子を見て、プロジェクトは成功したと実感したといいます。さらに、野村さんは、一般的には知られていないヤマハ発動機のプール事業を、これらのプロダクトを通して知ってもらえることが面白味であり、あらためて誇りになっていると、笑顔で語りました。
船場のモーターサイクルのアップサイクルプロジェクトと比較すると、開始当初からスムーズにコミュニケーションができた本プロジェクト。このプロジェクト成功の鍵は?と東山さんに質問されると、両社は「これまでの概念を一旦なかったものにする」という前提の共有と、「遊び心」というテーマにあったと振り返ります。
さらに、そういった意識を共有できた理由を聞かれると、リジェラボや博展の制作スタジオ「T-BASE」といった「遊び心あふれる空間」で打ち合わせを行えたことが大きく影響していると明かしました。
高橋は、リジェラボに置いてある、遊び心がありながら“余白”を感じられる什器を見て、東山さんも博展の「T-BASE※」で自由に行われている実験やコラボレーション作品を見て、お互いに「2社でなら、固定概念なしに、自由な発想でなにか面白そうなことができそう」と感じられたことがプロジェクトの入口になったそうです。
また、プロジェクトがスムーズに進んだ理由について、高橋は「これまでの前提や正解を、一度手放すことができた点が大きかった」といいます。
「遊び心」という共通のテーマを起点に、お互いの専門や立場を越えてフラットに意見を交わせたことが、今回の取り組みを前に進めた要因でした。
セッションの後には、参加者同士のグループディスカッションが行われました。素材の背景やストーリーを知ることで見え方が変わり、新たなコミュニケーションが生まれるという前向きな意見が出た一方で、「経済的な成立は難しいのではないか」「工数が多く社内での実現はハードルが高い」といったシビアな声も上がり、“共創”の在り方について、それぞれが自分事化して考える時間となりました。
※T-BASEとは、江東区辰巳にある博展の制作・共創拠点。制作機能とクリエイティブ・エンジニアリングの共創スペースとしてLABエリアを完備。社内外のメンバーがより実験的なプロトタイピングに挑戦していくことで、新たな価値を生み出していきます。

■ 第三部:共創で生み出す再生の未来

SPEAKERS
株式会社船場 EAST事業本部 Project Management Division ディビジョンリーダー 荒毛 大輔氏
株式会社博展 サステナビリティ推進部長 サーキュラーデザインルーム 統括 鈴木 亮介
FACILITATOR ハーチ株式会社 Sustainable Business Designer 大石 竜平氏
続いて登壇したのは、船場の荒毛 大輔さんと、博展の鈴木 亮介です。第3部では、これまで紹介してきた二つのプロジェクトを振り返りながら、「共創」をどのように捉え、どう実践してきたのかについて語られました。
ファシリテーターの大石さんから「今回の共創における一番の成果は何だったと思いますか」と問いかけられると、荒毛さんは「納品して終わりではなく、今回のイベントのようにアウトプットを開き、対話の場を持てたこと」だと話します。
受託業務では完結しがちなプロジェクトも、共創という形をとることで、その先にある議論やつながりまで含めて価値になる。そうした実感があったといいます。鈴木もこの意見に頷きながら、新たな出会いや対話が生まれ、そこから次の循環につながっていくことこそが、共創の大きな意義だと続けました。
一方で、参加者からはアップサイクルプロジェクトに対して、「経済的な成立はどう考えているのか」「工数が多く、社内で理解を得るのは難しいのではないか」といった率直な声も上がりました。
こうした問いに対し、荒毛さんは、リジェラボが「日本空間デザイン賞2025」を受賞したことなどを一つの説明材料として活用し、プロジェクトの価値を社内に示してきたと振り返ります。同時に、納得を得るまでのプロセスは決して簡単ではなかったとも明かしました。
鈴木は、「共創プロジェクトは、最初から正解が見えているものではないからこそ、イノベーションが生まれる」と語ります。その一方で、通常より工数がかかるのも事実であるため、単一のプロジェクトごとの費用対効果にとらわれるのではなく、少し長い時間軸で捉えることが重要だと指摘しました。
経営への報告においても、直近の売上だけでなく「次につながる関係性がいくつ生まれたか」といった視点を、可能な限り定量化して伝えているといいます。会場では、参加者がうなずきながら耳を傾ける様子が見られました。

共創をスムーズに進めるためのポイントについて問われると、荒毛さんは「自分たちは内装のプロである、という立ち位置に一度立ち返ったこと」を挙げました。相手の領域に無理に踏み込みすぎるのではなく、自分たちの専門性を軸に、相手の技術や知見とどう掛け合わせるかを考えたことが、前進するきっかけになったといいます。
鈴木は、相手の想いを受け止めながら、高めあう“合気道”のような関係性が重要だと表現しました。表面的な言葉にとどまらず、言葉の奥にある本質を掴み取り、それをデザインに落とし込んでいくこと、それが、博展のクリエイティブの強みだと振り返りました。
また、2社が共通して感じていたのが、ヤマハ発動機の担当者が持つ強い熱量でした。鈴木は、「お互いに“鼻息が荒い”くらいでないと、いいものは生まれない」と笑いながら話し、「やるからには、本気でいいものを作りたい」という想いを同じ温度感で共有できたことが、プロジェクトを動かす原動力になったと語りました。
最後に、「どんな相手と共創したいか」という問いに対して、2人は共通して、「何を実現したいのかが明確であること」「自分たちにできることを、自分の言葉で語れること」を挙げました。
鈴木は、会社の看板ではなく、個人としての想いや課題意識を率直に開示できる相手とは、共創が一気に進みやすいと実感を語ります。ヤマハ発動機の東山さんは、これを「一緒にジャンプできる人」という言葉で表現。経済性や社内調整といった壁があっても、共創でしか見られない景色を目指し、「一緒に飛び越えよう」と言い合える関係性こそが大切だと、第三部を締めくくりました。
■ クロージング:違いは壁ではなく資源──本音が共創を動かす
SPEAKER ヤマハ発動機株式会社 技術・デザイン統合戦略部 東山 大地氏
最後に、改めてヤマハ発動機の東山さんから、イベント全体のまとめが語られました。
二つのプロジェクトはアプローチこそ異なっていましたが、前に進んだ瞬間に共通していたのは、「互いに腹を割って、本音で向き合ったこと」だったといいます。
うまくいっていない状況や抱えている課題を、勇気をもって言葉にし、「実は自分も困っている」と自己開示すること。そこから初めて、表面的な関係を超えた、真の共創関係が生まれたと振り返りました。
企業間の共創においては、分野や価値観、考え方の違いが生じるのは避けられません。
東山さんは、この「違い」をコミュニケーションの壁や弱みとして捉えるのではなく、「資源(ポテンシャル)」として捉えることが重要だと語ります。多様な専門性や視点が重なり合うことで、思考の幅が広がり、新しい課題解決の糸口が見えてくる。その積み重ねが、生み出される価値の広がりにつながっていくのです。
一方で、今回のプロジェクトについては、リジェラボがつなぎ役として機能したものの、「つないだだけ」にとどまってしまった部分もあったと、率直な反省も共有されました。
今後の課題として、個人の熱量や属人的な関係性に依存するのではなく、再現性のある共創の仕組みをつくり、新たな共創が自然と生まれる場であり続けたいという決意が語られ、イベントは幕を閉じました。

リジェラボについて:https://www.yamaha-motor.co.jp/regenerative-lab/
◆HAKUTEN WORKS『KIDS POOL COUCH / MATERIAL STOCK FURNITURE』:
https://www.hakuten.co.jp/works/yamaha_poolupcycle
◆CIRCULAR DESIGN ROOM instagram:
https://www.instagram.com/hktn_cdr/
Writing/Editing:松浦緑子






