2026年3月、博展は、we+、セメダイン株式会社と共に、海藻由来の接着剤「LOOPGLUE(ループグルー)」の開発を発表しました。褐藻(かっそう)類由来のアルギン酸ナトリウムを主成分とする本製品は、高い接着性と同時に、水に濡らすだけで簡単に剥がすことができる「易解体(いかいたい)」を両立しており、空間デザインやディスプレイデザイン業界における資源のリユースを促す役割を果たすことが期待されます。

2023年10月よりリサーチをスタートした本プロジェクトは、博展のサーキュラーデザインルームと、コンテンポラリーデザインスタジオ we+、セメダイン株式会社の3社の共創を通じて、無事に製品化にたどり着くことができました。仮設空間における資源循環性を向上するだけではなく、「接着」という視点を通じて、ものづくりやデザインの根源的なあり方を見つめ直すきっかけとなった開発のプロセスを、開発に携わったメンバーの4人が振り返ります。

※褐藻(かっそう):フコキサンチンという色素により褐色やオリーブ色を呈する、海産の多細胞藻類のこと

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循環型イベントの実現する、海藻由来の接着剤の開発

水に濡らすだけで剥がすことができる、アルギン酸ナトリウムの発見

循環型イベントの実現する、海藻由来の接着剤の開発

-本製品の開発は、2023年の国際海洋環境デザイン会議(主催:一般社団法人3710Lab、助成:日本財団)での博展とwe+のコラボレーションをきっかけにスタートしました。we+は以前より海苔や藻などを使用した作品を発表されてきましたが、これまで海洋資源の活用についてどのように向き合われてきたのかをお聞かせください。

安藤(we+):we+はこれまでに、内閣府が推進するムーンショット型研究開発事業「ミレニア・プログラム」の目標案検討プロジェクトへの参加をきかっけに、海洋資源のリサーチやマテリアルの利活用を推進するプロジェクトに数多く携わってきました。暖流と寒流が交錯する潮境に面した日本は、排他的経済水域においても世界で6番目に広い面積を保有しており、豊富な水産資源を余すことなく利活用してきた歴史があります。日本の未来像を描く上で、水産加工技術について知ることが今後キーになるのではないかと、継続的なリサーチを進めていたんです。

たとえば、とろろ昆布は昆布を重ねて圧縮し、その塊から薄く削り出すことでつくられます。その際昆布が持つ天然の粘着成分が素材同士を密着させる役割を果たしていますが、私たちはリサーチを進める中で、すでにこの海藻の粘性という特性に注目していました。2023年の国際海洋環境デザイン会議の打ち上げの席で、鈴木さんと海藻について話す中で「これを使って接着剤ができるんじゃない?」と盛り上がったことが、今回のプロジェクトの起点になっています。

we+ 安藤さん

-はじめにそういったお話を聞いた時、鈴木さんとしてはどのように感じましたか?

鈴木(博展 サステナビリティ推進部、サーキュラーデザインルーム):安藤さんからお話をいただくまで、海洋資源に着目していたわけではなかったんですが、もし海藻のような自然由来の素材で接着剤をつくることができれば、僕らが目指す循環型のイベントを実現する新しい可能性が生まれるのではないかと感じ、その場で「ぜひやりましょう」とお答えしました。

これまで分解可能性や資源循環性をテーマに、サーキュラーデザインルームとして仮設空間のデザインにおけるさまざまな工法を模索する中で、接着剤を使わずに乾式で素材をつなげる方法を採用してきました。接着剤で貼り付けた素材の多くはイベント終了後にリサイクルできず、廃棄の対象になってしまうため、「接着」のあり方についてはこれまでも課題に感じていたんです。

-安藤さんは普段、そういったサステナビリティの課題について感じていることはありますか?

安藤:僕らの仕事はスクラップ・アンド・ビルドが前提になってしまうことも多く、そこに対する違和感はどうしてもありますね。たとえば商環境におけるデザインについては、5〜6年が平均寿命とされていて、どんどん新しいものをつくり続けることが果たして正しいのかだろうかと、この時代を生きる人間としてそういった問いや疑問は感じざるを得ないと思います。

従来の工法では、きれいに壁紙が剥がすことが出来ず 数回使いまわして廃棄される

水に濡らすだけで剥がすことができる、アルギン酸ナトリウムの発見

-その後、どのようにリサーチを進めていったのでしょうか?

鈴木:まずは、海藻についての知識が僕らにまったくなかったので、そもそも海藻とは何か、これまでにどのような使われ方をしてきたのかなど、we+のみなさんと一緒に周辺情報をまとめていきました。「海藻×接着剤」というキーワードはこの段階から出てきていたので、博展の共創スタジオ「T-BASE」にて、最終的に製品化に至ったアルギン酸ナトリウムをはじめ、布海苔に使われているフノランや、カラギーナンといった粘着成分を使い、さまざまな実験を重ねていきました。

普段の業務の隙間時間に検証しながら進めていたので、1ヶ月ほど検証期間を設けた後に、結果を共有するプロセスを何度も繰り返していきました。アルギン酸ナトリウムを接着剤として使えるのではないかというアイデアに辿り着いたのは、2023年10月にリサーチをスタートしてから半年ほどが経ってからでしたね。

安藤:どんな実験をすればおもしろい結果が得られそうなのか、まずは仮説をたくさん出した上で、博展チームのみなさんに手を動かしていただきました。とはいえ、はじめからプロジェクトの目的や達成すべき指標を決めて進めていったわけではなかったので、どこか趣味的にはじめた感覚も当初はありましたね。われわれも博展のみなさんと同じように手を動かし何かをつくっていくことが好きなので、お互いそういったことへの関心がベースにあったことが、違和感なく一緒にプロジェクトを進められた理由として大きかったと思います。実験やプロトタイピングを進めやすい環境がT-BASEに揃っていたことも助かりましたね。

博展 鈴木さん

-we+は「リサーチと実験に立脚した手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ」として活動されていますが、普段のリサーチにおいてはどのようなことを意識していますか?

安藤:あくまで目の前にある実験結果を正として扱うことが、僕らにとってのオーソドックスなリサーチの方法ではあります。ある程度経験則に基づいて仮説を立てたり、判断したりすることもありますが、実験の中で偶発的に生まれるものもたくさんあるので、目の前にある素材のサンプルから導き出された結果に基づき、検証を進めるようにしています。

-水に濡らすだけで簡単に剥がすことができる性質はどのように発見したのでしょうか?

鈴木:アルギン酸ナトリウムが接着剤として使えそうなことは、実験を進める過程でなんとなく想像はできていたので、アルギン酸ナトリウムの粉末を水に溶かし、接着性を試してみたところ、バールでこじ開けないと剥がれないほどの強度があることがわかりました。その後、粉末の状態のアルギン酸ナトリウムがすぐに水に溶けるのであれば、固まった状態のものを水に濡らせば同じようにすぐ溶けるのではないかと考え、接着した素材を水拭きしたところ、きれいに剥がせることがわかったんです。やっぱり発見した瞬間には驚きがありましたし、その場にいるメンバー全員で「すごい!」と盛り上がりましたね。頭で考えるだけではなくて、手を動かしながら進めていったからこその発見だったと思います。

-そこから具体的に製品化に向けてどのように動いていったのでしょうか?

安藤:「そういえばセメダインで働いている中高時代の同級生がいたな……」と岡部のことを思い出し、連絡してみたんですよ。素人なりにおもしろいものができたのではないかという感覚はあったのですが、僕らは海藻や接着剤のプロフェッショナルではないので。岡部からすぐにもらった返事が「いいね、そういうの大好き」っていう(笑)。

岡部(セメダイン 開発推進部):そうでしたね(笑)。直接連絡を取り合うのはかなり久しぶりではあったんですが、共通の知人が多いので、お互いどんな仕事をしているのかは知ってはいたんです。連絡をもらった段階では、まだアルギン酸ナトリウムで検証していることは聞いていなかったですし、わりとふんわりとした内容だったんですが、we+の事務所で試行錯誤のプロセスについて聞いていくうち、「これはなにかプロダクトになるかもしれないな」と、直感しました。普段から接着剤メーカーとして化学的なロジックで素材について向き合っている身からして、アルギン酸ナトリウムにたどり着いたことに腑に落ちるところがありました。

セメダインとしても、近年新しいことにチャレンジしながら製品のポートフォリオの転換を推進しており、中でもリサイクルやESGといった領域への関心の高まりを受けて、天然由来の素材を使ってなにかできないかと、その可能性を常に追求してきました。われわれはおもに自動車メーカーやゼネコン、工務店といった方々に向けて製品を供給しているため、we+や博展のようなデザイン分野との関わりはあまりなかったんですが、過去にホタテ貝殻を再利用した材料を使った接着剤開発などを通して海洋資源に着目していたので、今回のプロジェクトとの親和性の高さを感じました。

(後編へ続く(4月公開予定))

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