かつて「木の街」として栄え、いま転換期を迎えている新木場。博展が制作拠点「T-BASE」をかまえるこの場所で、地元企業と共に立ち上げたのが、地域回遊型イベント『SHINKIBA CREATIVE HUB』です。
2025年12月11日から3日間、新木場駅を中心に周辺の全9か所の会場にて、さまざまな体験コンテンツが実施され、延べ参加者数約3160名が来場しました。


街の歴史や資源を現代の視点で“かさねなおす”をテーマに、普段は閉じられた工場や会社の扉を社会にひらき、新木場の新たな可能性を探った3日間の様子を、ライターの吉澤さんの実体験と視点からレポートします。

株式会社博展(以下、博展)と株式会社榎戸材木店(以下、榎戸材木店)が中心となり今年初開催を迎えた「SHINKIBA CREATIVE HUB」。会期中は、新木場エリアのあちこちで参加企業によるオープンファクトリーや展示が行われました。「木の街」は知っていても、逆に言えば「木の街」ということしか知らないかも……。どんな展示が見られるのか、普段あまり降り立つことのない新木場の街を歩いてみることにしました。
(取材・執筆:吉澤 瑠美)
株式会社東合板商会(Map No:04)
ベニヤなどの合板類を卸している東合板商会。ここではDESIGNART TOKYO2025にて博展のデザイナーと共に出展したカラーMDF(中密度繊維板)による空間づくりの展示を行っていました。MDFとは、パーティクルボードのようなチップレベルではなく、繊維レベルまで細かくして成型したファイバーボードです。日本ではあまり広く知られていない素材ではないでしょうか。
水との相性はあまり良くないものの、他の板材に比べて立体的な表現を得意とするので内装材として魅力的です。また、レジンを塗布してレトロなタイルのように見せたり、MDFを蒸してパンのようにふっくらとしたカーブをつけるなど、加工次第でさまざまな表情を見せてくれる点は非常に可能性を感じました。


株式会社ユニバーサル園芸社(Map No:05)
「普遍的に緑がある日常を提供すること」をビジョンに掲げるユニバーサル園芸社は、オフィスなどのグリーンコーディネートを行う会社です。主力事業であるオフィスグリーンのレンタルでは、メンテナンス時に弱ってきた植物を持ち帰ってくることもしばしば。温室で育て直すものもありますが、在庫過多になったり、小さな鉢は育て直すほど手がかけられない場合もあるようです。
SHINKIBA CREATIVE HUBで開催されていたのは、在庫の余っている鉢や鉢カバーを販売し、購入者にはオフィスグリーンを引退した植物を無料で(一部有料)提供するというフリーマーケットのような試みでした。植物のおまけに鉢ではなく、鉢のおまけに植物! 予想外のサービスと、引退した植物にも居場所を与えてあげたいというスタッフの方々の気持ちに触れ、思わず購入してしまいました。大切にします。


瀧口木材株式会社(Map No:06)
瀧口木材は終戦直後の1947年から和室天井を中心とした建材・木材製品を販売する老舗です。普段なら近寄ることも憚られるほどの大きな倉庫に入ることができました。木特有の優しい匂いに包まれた倉庫には、見上げるほどの大きな板材がたくさん立てかけられていて圧巻の眺め。
一方、奥の工房のようなスペースには、板材とはまったく異なるユニークなプロダクトが多数集められていました。和織物を埋め込んだアクリルパネルは色とりどりで美しく、角度によっては光を受けた錦糸がきらきらと輝いて見えます。「天井の板材だけではなく、アクリル板などのユニークな素材も扱って、お客さまのニーズにどのようにして応えられるかを追究しているんです」とは瀧口宇一郎さんのお言葉。縮小の一途を辿る木材業界に突破口を開くべく、さまざまな試行錯誤を重ねられている姿に心を動かされました。


https://takiguchimokuzai.main.jp/
soko station 146(Map No:01)
途中で立ち寄ったのは木材倉庫をリノベーションしたsoko station 146です。風が冷たかったので、カフェでひと休みする人の姿もしばしば。半面はギャラリーとして、参加企業の紹介ブースと新木場の歴史が綴られたパネルが展示されていました。ここはイベントのメインハブの会場だそうです。
奥の壁面に投影されていたインタビュームービーでは、新木場がこれまで歩んできた歴史や社会課題について赤裸々に語られていました。バブル崩壊や社会の変化に伴って新木場の木材産業が大幅に縮小していること、残った企業もそれぞれに最適化をしていく中で新木場のカラーというものが徐々に失われつつあるということ。胸が痛くなるような部分もありましたが、だからこそSHINKIBA CREATIVE HUBの意義を改めて感じました。


https://www.sokostation146.com/

他にも新木場の工場で使われてる机の足(馬)の展示や、新木場に眠る今まで活用されてなかった素材を実験した展示など、盛りだくさんでした。
※右側の写真は材木が運ばれてくる際に巻かれる梱包材のあまりを活用して作成したサコッシュ。
高広木材株式会社(Map No:03)
駅のすぐ近くに構える高広木材は、カナダのウエスタンレッドシダーという木に特化した材木店です。日本ではあまり馴染みのない樹種ですが、美しい木目と優れた耐久性から、特に欧米ではウッドデッキや外壁などを含め、屋内外を問わず広く活用されている木なのだそうです。もともとは他の材木店と同じように幅広い木材を扱っていたそうですが、時代の変化とともにウエスタンレッドシダー専門店という特化した道を選んだとのこと。
ここ3年ほどはウエスタンレッドシダーに気軽に触れてもらう場として「ストックヤードオープンデイ」という在庫市を独自に行っていて、今回はSHINKIBA CREATIVE HUBの一環として開催されたそうです。私はオープンデイに立ち会うことができませんでしたが、工房脇のログハウスでウエスタンレッドシダーの特徴や魅力に触れることができました。


https://takahiro-mokuzai.co.jp/


まちを楽しく巡る体験コンテンツとして、スタンプラリーならぬ「WALL RALLY」も体験できました。スタンプの代わりに、各拠点の木を紙に擦って採取するもので新木場ならではです。その他、無料配布していたイベントオリジナルの軍手も大好評でした。

他にもウッドマーケットやアート×サイエンスのラウンジ、新木場ではおなじみのうみねこ食堂によるキッチンカーなど、新木場の個性を感じられる催しが開催されていました。大きな倉庫や機械、木材をひたすら見るツアーになるかと思いきや、「木」という共通したキーワードを持ちながらも事業が多岐にわたっていて驚きました。また、どのスポットでも企業の皆さんが温かく迎え入れて事業を紹介してくださったことが印象的です。
私の中で、新木場に対するイメージが少し変わったように思います。事業者の皆さんにまた会いたい、もっといろいろな企業のことも知ってみたい。SHINKIBA CREATIVE HUBがまた開催されることを強く願いながら、新木場を後にしました。植木鉢を抱えて。