博展のクリエイティブがいま、大きな転換期を迎えています。社内に次々と誕生し始めた「クリエイティブコレクティブ」という新たな組織形態。これまでの組織図に捉われず、専門性に特化したプロフェッショナル集団を創出することは、博展にどのような変化をもたらし、どのような未来を切り拓くのか。クリエイティブトップを務める執行役員の南 正一郎に、その真意と背景にある想いを詳しく聞きました。

Index
1. 二つの課題から生まれた「コレクティブ」という必然
2. 「共感」で集まり、市場と繋がる「共同体」
3. 社会課題への「問い」が、新しいビジネスを加速させる
4. 「受発注」から「共創」へ。変化するパートナーシップ
5. クリエイティブな「生態系」としての博展


1. 二つの課題から生まれた「コレクティブ」という必然

――博展がいま、このタイミングで「クリエイティブコレクティブ」という組織形態を推進している背景には、どのような課題感があったのでしょうか。

大きく分けて二つの方向性があります。一つは、事業の成長に伴う「領域の拡大」です 。博展は現在、BtoBの展示会からBtoCのプロモーション、さらには商業施設や公共空間のデザインまで、非常に幅広い領域で「体験デザイン」を提供しています。しかし、領域が広がったことで、市場からは「博展は何が得意な会社なのか」という核心が見えにくくなっていました 。

実際、プロジェクトが終わった後にクライアントから「博展さんって、こんなことまでできたんですね」と驚かれることが少なくありません 。これは嬉しい言葉である反面、大きな機会損失でもあります。ターゲットを絞り込み、「私たちはこれが解決できます」という入り口を明確に提示することで、市場との接点をより鋭くしていく必要がありました 。

――もう一つの理由は、社内のクリエイターに向けたものですか。

はい。クリエイターの「キャリア形成」における課題です 。HAKUTENのクリエイションはチームで最大化していくことがベースで、個々の専門性を掛け合わせて良い体験をデザインしていきます。そこには職種では括れない専門性と意志が生まれ強みの一つになっています。その反面、磨かれた個の専門性や培われたノウハウへのFBが抽象化されてしまったり埋もれがちになる側面がありました。組織に所属しながらも、個の専門性や意志を原動力に市場と向き合える機会を増やせないか、そうすることで、クリエイターとしての働き方やキャリアの選択肢を増やせないかと考えたのです 。

Intangible Studioのメンバー

2. 「共感」で集まり、市場と繋がる「共同体」

――なぜ「事業部」や「チーム」ではなく、「コレクティブ(共同体)」という言葉を使っているのですか。

あるクリエイターの考え方や手法に対してメンバーが「共感」し、つながることを大事にしたかったからです。
クリエイター自らがフロントに立ち、市場との接点を自ら作り出す機会を増やすことで、自分たちが掲げるビジョンやソリューションを起点とした提案を加速させています。この「自ら問いを立てる」という主体的な姿勢が、仕事への責任感や向き合い方にポジティブな変化を与えていくと信じています。

――個人のスキルだけでなく、チームとしての力も重視されていると。

その通りです。また、特定の個人にフォーカスするだけではなく、あくまで「何ができるのか」「どんなソリューションを持っているのか」という集団としての専門性を旗印に掲げることも重要です 。個人の持ち味を消すのではなく、共通の思想を持つ集団としての力を最大化させることが、コレクティブの本質なのです 。この動きが、世の中の多様なニーズに深く、鋭く応えていく力となり、博展のビジネス領域をしなやかに拡張させていく。そこに大きな可能性を感じています。


3. 社会課題への「問い」が、新しいビジネスを加速させる

――現在、具体的にどのようなコレクティブが活動しているのか教えてください。

先駆けとなったのは、約4年前に始動した「Experiencial Design Lab」です 。このラボは、クリエイター自ら社会に対して「問い」を持ち、向き合う力を養うためにスタートしました 。現在は、「Studioコー」という名称に進化し、地域課題の解決や教育支援といった領域に特化しています。リアルな社会の営みを深く観察し、対話と実践を重ねることで、人や場所の関係性を再構築していくような活動を続けています 。

Studioコーの名前に込められた3つの「コー(こう)」
2025年12月に開催されたSHINKIBA CREATIVE HUBの様子


――もう一つ、2022年に発足した「サーキュラーデザインルーム(CDR)」も、博展の新しい顔になりつつありますね。どのような背景で立ち上げ、どのような価値を生んでいるのでしょうか。

世の中でサステナビリティへのニーズが急速に高まる中で、「デザインの力がいかにその動きをドライブ(加速)させられるか」を追求するために立ち上げました。それまでも環境配慮へのニーズはありましたが、単なる「守るべき義務」としての対応に留まらず、デザインという視点が加わることで、ビジネスや体験がいかにポジティブで魅力的なものへと昇華されるか。その可能性を自ら証明したいと考えたのが発足の大きな理由です。

オランダ視察で、専門職として資源循環に深くコミットするクリエイターたちの姿に刺激を受けたことも一つのきっかけですが、本質はそれを「日本、そして博展の文脈でどう実装するか」にあります。私たちが目指しているのは、単なる資源循環に留まらず、そこに新しい価値や美しさを生み出す「デザインクリエイション」としての実装です。

――どのような手応えを感じていますか?

例えばセメダイン社との共同開発のように、従来のイベント設営の枠を超えて、プロダクトやサービスを生み出すプロセスそのものにまで踏み込んでいます。こうした「知見を伴う実装力」こそが、これまでに出会えなかったお客様や新しいプロジェクトを引き寄せる、博展の新たな武器になっています。

we+・セメダイン・博展が共同開発した水で剥がせる海藻由来の接着剤『LOOPGLUE(ループグルー)』の開発風景

4. 「受発注」から「共創」へ。変化するパートナーシップ

――コレクティブが動き出したことによる変化はありましたか?

はい。これまでは依頼主と受託者という関係が強くうごいてしまうこともありましたが、コレクティブの案件では同じ課題を共有する「共創パートナー」として相談をいただくケースが増えています 。クライアントと同じ温度感で、同じ問いに向き合う機会が格段に増えてきました。自分たちも独自の「問い」を持っていて、それをお客様の課題と掛け合わせることで、より本質的なクリエイションが生まれています。

――向き合う相手の層も広がっているのでしょうか。

非常に広がっています 。企業のマーケティング担当者だけでなく、中長期的な視点で課題解決を模索するディベロッパーや、教育や自治体関係者など、これまでのメイン事業では接点を持ちにくかった層との繋がりが生まれています 。対峙する課題の幅も、ぐっと広がりました。

かえつ有明中・高等学校と住友不動産と組んで実施した「ARIAKE MIKOSHI PROJECT」

5. クリエイティブな「生態系」としての博展

――メンバーの反応や、採用面での影響はいかがですか。

専門性が明確になることで、社内の営業やプロデューサーからも「クライアントへの提案の引き出しが増える」といった期待の声があります。そこから生まれたプロジェクトを見ることによって、新たに繋がる仲間が増えていると感じます。

――最後に、博展のこれからについて教えてください。

私は、博展という場所を、個人の力を最大限に引き出す「クリエイティブな生態系(エコシステム)」にしたいと考えています。一人では解決できない大きな課題も、このエコシステムの中に身を置くことで、多様な専門性と繋がり、形にすることができる。

博展にいるからこそ可能な、唯一無二のデザインプロセス。それをより多くのクライアント、そして新しく加わってくれる仲間と共有していきたいです。独立した「点」ではなく、専門性が重なり合う「面」として、これからも体験デザインの可能性を拡張し続けていきます。


【編集後記】
南の話を通じて見えてきたのは、博展が単なる制作会社から、専門性の集合体による「価値創造のプラットフォーム」へと進化している姿でした。「クリエイティブコレクティブ」という挑戦は、一人ひとりのクリエイターが「問い」を持ち、社会と対等に向き合うための武器でもあります。この熱量が、博展の事業領域をさらに拡張し、社会に新たな体験価値を実装していく原動力となるに違いありません。

Writing/Editing:浅井亜紀子