湾岸エリア、埋め立て地域である有明・東雲地域は人が住み始めてまだ浅く、なかなか根付いた文化が少なくない現状があります。そこで新たな文化をつくりたいと考え、江東区辰巳に制作拠点を構える博展と、かえつ有明中・高等学校(以下かえつ有明高校)、そして住友不動産商業マネジメント株式会社(以下住友不動産)と一緒に有明らしいミコシを作るプロジェクトを行いました。

ミコシを披露したイベント会場(アリアケ ミコシ・フェスティバル)では制作プロセスも展示し、地域の魅力も一緒に来場者に伝えました。

今回はかえつ有明中・高等学校の髙倉さん、金井さん、住友不動産の福原さん、堀さん、博展 クリエイティブディレクターの中里さんにプロジェクトの背景を伺います。

左から住友不動産 福原さん、堀さん、かえつ有明高校 金井さん、髙倉さん、博展 中里さん

目次
・神輿を通して地域の企業や学校とつながる機会に

・高校生とミコシをつくる。

・有明の次の姿が垣間見られたプロジェクト

神輿を通して地域の企業や学校とつながる機会に

福原:
私たちは一年間を通じて地元の方々との交流が有明ガーデンで生まれるようにイベントを企画しているんですが、夏のイベントを企画していた時、地域の方々と神輿を担ごうというアイディアがありました。

不動産として有明という街と長く関わってきましたが、住民の方に長く住み続けていただくには、街の魅力をもっと引き出していく必要があるんですよね。なので、今回のイベントも地域の企業や学校などとつながる機会にしたいと思い、かえつ有明中・高等学校の髙倉さんにお声がけしました。

髙倉:
授業の一環として生徒が有明ガーデンで発表させていただくなど、住友不動産さんとは以前からお付き合いがありましたし、HAKUTEN OPEN STUDIOに参加させていただいていたので博展さんとも繋がりはありました。
今回の「神輿を作りたい」というお誘いをいただいた時、同じ江東区に拠点がある博展さんとご一緒できれば面白い掛け算になるかなと思って、中里さんにお声がけしました。

中里:
僕たちもこの街に愛着はあるのですが、埋立地ということもあり、文化的な背景が薄いと感じていたので、この街をもっと面白くできないかなと思っていました。

そんな時に、このプロジェクトにお誘いいただいて、地域の方々と繋がる機会でもあったのでちょうどよかったですね。

高校生とミコシをつくる。

中里:
そもそも神輿を作る上で神社が必要なのですが、目ぼしい神社が見当たらないエリアといったことが大きな課題だったんですよ。そこで神輿の知識を前提に、フィールドワークを中心としたプロセスで行いました。

デザインプロセス概要

「神輿って何?」神輿の定義や意義を知る

金井:
最初に「神輿ってなんだろう」という問いから生徒たちと考え始めました。
車座になって生徒たち同士で話し合っていたんですが、どう進めていいか本人たちもわかっていない状態だったので、話しやすい環境を作って議論を促すサポートをしました。

あと、中里さんが事前にフィールドワークをしていたのも助かりましたね。生徒にヒントを与えることで、「じゃあ自分たちも外に出て有明という街を知ろう」という気づきになっていました。

中里:
僕たちも神輿なんて作ったことが無かったので、お神輿の意味から調べたところ、本来は神社の神様を乗せ、担いで街を練り歩くことが神輿の由来だったことがわかりました。ただ、有明という街は人工的に作られた埋立地なので、まず目ぼしい神社がなかったんですよ。なので、有明のいいところやユニークなところを表現した神輿にしようと話がまとまりました。

地域の魅力を発見しよう / コラージュ神輿を作ろう / デザインパターンを作ろう

中里:
まずは生徒を複数のチームに分けて、授業中に自らの足で歩きながら有明らしいところをフィールドワークで集めてもらいました。

それぞれのチームから発表してもらったんですが、意外と「自然が豊か」とか「公園が多い」という意見が多かったんですよ。僕も知らなかったんですが、調べてみると有明には15箇所以上も公園があって、実は豊かな自然が広がっていることに気付かされました。

ある程度の要素は博展側でも想定していたんですが、生徒の目線で発表いただいたことが我々にとっても新しい発見になりましたね。

髙倉:
普段の授業ではフィールドワークをほとんどしませんが、こうして生徒自身が有明のいいところを探しに行くと、今まで見えていなかったものを見つけて帰ってきてくれて、着眼点に驚かされましたね。

※実際に制作したもの (一部抜粋)

中里:この翌週の授業ではフィールドワークで見つけてきた有明のいいところを取り入れて神輿をデザインする「神輿コラージュ」を発表してもらいました。
例えば、キリンのオブジェやコンテナクレーンなど、自分たちが見つけた有明のユニークな要素を取り入れて自由な発想で神輿をデザインしてもらったんです。元々は紙を切り貼りして作ってもらう想定だったんですが、今の高校生はパソコンを使いこなしていてびっくりしましたね。

神輿コラージュ=フィールドワークで発見したモノたちを神輿の形にしてみるワークショップ

金井:
自分が見てきたものをコラージュでアウトプットするという仕組みも良かったです。やっぱり教室じゃない場所で学べることがたくさんあるんだなぁと改めて実感しました。
いろんなチームが思い思いの神輿をデザインしてくれて、それぞれ特徴のある神輿のコラージュが出来上がりました。

実際に制作したもの (一部抜粋)

中里:
最終的にはこれを1つのデザインにまとめる必要があったので、博展のデザインチームと連携しながら、生徒の意見も聞き、その場で3Dモデルを書き上げました。

実際に制作したもの とその風景

中里:
最終的なデザインがこの「アリアケ ミコシ wish -oi GO(うぃっしょい号)」です。このデザインには空/雲・かもめ・海などの自然や、クレーン・タイヤ・船などの有明の産業に関する要素が散りばめられています。

実際に制作したもの

また、「この神輿には神様ではなく、地域住民の願いを載せたい」という生徒のアイディアから、海の生き物をモチーフにした絵馬も制作しました。期間中に有明ガーデンを訪れた人がこの絵馬に願いを書き、それを集めて神輿に紐づけています。

神輿を作ろう

中里:
デザインが出来上がったので、次は辰巳にある博展の共創スタジオで実際に手を使って神輿をつくる作業に取りかかりました。
木を切り出したり、色を塗ったりと、かなり本格的な制作の作業も生徒たちと職人が一緒にやっていて驚きました。

髙倉:
生徒と職人さんの信頼関係には僕もびっくりしました。かえつ有明中・高等学校では議論をベースにした授業が多いのですが、手を使ってものを作るという経験は少なかったんです。なので、生徒も最初は「これ本当に自分たちで作るの?」という顔をしていましたが、博展の職人さんが一緒になって作ってくれたので、次第に活き活きした顔になっていきました。

本当は2日だけの予定だったんですが、生徒が「最後まで自分たちで作りたい」と自主的にスタジオに行って作業してましたね。

どうやって作るかを議論するより、やってみながら考えることで、生徒が作り手側の視点で物事を捉えるようになっていて、すごく貴重な体験だったなと思います。

想像以上の参加希望者が集まるイベントコンテンツに

堀:
いざイベント当日を迎えると、この神輿担ぎ体験はあっという間に定員いっぱいになってしまうほど人気なコンテンツでした。やっぱり地域住民の方も彼ら同士がつながるようなイベントを求めていたんだなぁと実感しましたね。
また、このお神輿は大人用なので、未就学児用に紐をつけて一緒に引っ張ってもらいました。お子さんたちが頑張ってお神輿を引いている姿も可愛らしかったです。

髙倉:
本番では子供達と触れ合いながらお神輿の掛け声を仕切る生徒がいたり、練習の時から声を張っている生徒がいたりと、普段は大人しい生徒もこの日ばかりは楽しみながらイベントを運営してくれていました。

徐々に本番が近づくにつれて、生徒たちも良いイベントにしたい、より良いものにしたいと責任が増していったようにも見えましたね。

有明の次の姿が垣間見られたプロジェクト

髙倉:
実は生徒から「終わってしまうのが寂しい」という声を多く聞きました。それだけこのプロジェクトに本気で向き合ってくれたんだと嬉しかったです。

イベントが大成功だったことはもちろんですが、これを作り上げるプロセスの中で自分たちだけではどうにもできなかった経験や学内外の人と想いをぶつけ合った経験が生徒たちの心にも残って、今後の糧になってくれると思います。

また、中里さんはもちろんのこと、博展さんはデザイナーや制作の方も生徒たちと同じ目線で、良いものを作ろうと面白がってくれていたので、すごく信頼関係が築かれていましたね。

福原:
この有明の開発に関わってきた住友不動産としても、このイベントを通して住民同士の交流が生まれたことがすごくよかったです。

いろんな世帯がある街では年齢層の違う子供達が混ざり合うことで社会性を学んでいく場所が自然と生まれるんですが、有明では0-3歳の子供を持つ核家族の世帯が多いので、子供にとって少し年上の中高校生との関わりがなかったんですよね。
なので、今回のイベントで中高生と未就学児が関わり合っている様子に、有明の次の姿が垣間見られたように思います。

ディベロッパーの1社としてマンションや商業施設を建ててきましたが、これで終わりではなく、ここから地域コミュニティが広がっていくための仕掛けが必要なんだなと改めて感じました。そのためにイベントを開催していますが、今回は企画側に地域の中高生を巻き込めたことがとてもよかったです。
関係者をまとめてくださった中里さんやそれを実現してくださった博展の職人さんたちにご協力いただけたからこそ成功したイベントでした。

中里:
関係者が多い地域連携プロジェクトって、まず全員が同じ方向を向くことが一番難しいんですよね。でも、今回は全員が既に有明という土地に思い入れがあって、同じ熱量で「何か面白いことをしたい」と考えていたからこそ、うまく進んだのかなと思います。

かえつ有明さんも、住友不動産さんも僕が提案するプランを寛容に受け止めていただけたので、共創として一つのものを作り上げることができました。

最近ではクライアントワークだけでなく、まちづくりのお仕事をいただけるようになってきたので、今回のプロジェクトで学んだことを生かしていきたいです。

OVERVIEW

CLIENT共創パートナー:かえつ有明中・高等学校、住友不動産商業マネジメント株式会社
PROJECTARIAKE MIKOSHI PROJECT

CREDIT

CREATIVE DIRECTION 中里 洋介
DESIGN DIRECTION 中榮 康二
DESIGN TEACHING 桑名 功、成川 就一、諸戸 里帆、真崎 大輔
2D DESIGN 真崎 綾香
PRODUCTION 田草川 貴、知久 敬太、本田 洋平、小林 大介、松村 峰