社会において企業の存在理由が求められるいま、パーパスブランディングへの関心が高まっています。パーパスを策定している企業であっても、社内外への浸透や事業活動まで反映することは容易ではありません。せっかく時間をかけて策定した理念であっても、うまく伝達できなければ、意義が失われて形骸化してしまいます。

パーパスブランディングを推し進めるには、共感を得る「ストーリー」と、コミュニケーションがカギとなりますが、パーパスの裏側にある物語を引き出し、伝えていくにはどうすればいいのでしょうか?

今回は、企業のオウンドメディア制作やインナーブランディング施策などを広く手がけるメディアカンパニーCINRA, Inc.の宮﨑氏をお招きし、博展のクリエイティブディレクター 南とともに、WEBとリアルのコミュニケーション事例を解説します。

スピーカー紹介

南 正一郎

株式会社 博展
クリエイティブディレクター

デザイナー、アートディレクター、プランナー、営業とあらゆる職種を歴任。現在はクリエイティブディレクター兼マネージャーとしてクリエイターが働きやすい組織づくりに取り組む。

宮﨑 慎也

株式会社CINRA
プランナー・編集者

企業や大学のブランディングに携わり、IT企業、化粧品会社などのミッション、ビジョン、バリュー策定を行う。インナーブランディングとクリエイティブワークの連動を実践。

目次
・なぜパーパスが謳われるようになったのか?
・パーパスブランディングにおける3つの課題
・共感を得るためのストーリーテリング
・具体事例
– パナソニック「Make New Magazine」
– POLA 「SHOT BRIGHT」
– GOLDWIN「PLAY EARTH PARK」
・「ナラティブ」と「ストーリー」が循環するパーパスブランディングへ。

なぜパーパスが謳われるようになったのか?

宮﨑:
最近、ビジネスにおいて「その企業はなぜ存在するのか」という企業の存在理由や事業目的を表す言葉として「パーパス」という言葉がよく使われていますよね。
「なぜパーパスが謳われるようになったのか?」というと、そこには「所属」、「投資」、「消費」の3つの変化があります。

「御社はどのように社会に貢献してるんですか?」なんて採用で聞かれたり、ESG投資のように中長期的な、持続可能な社会の実現に向けてこの会社がどう貢献しているのかを投資家も評価するようになったり。

さらにBtoCだと、何かを買うときにもちろん便利さとか機能性とかも大事ですが、エシカル消費に代表されるように消費者の価値判断も変化していますよね。

「この会社って本当に社会のためになってるんだろうか?」とか、「大量生産、大量消費になってないか?」とか。特にZ世代ほど社会的な「コト消費」が増えている感覚すらあります。

このように企業への所属や投資、商品においても社会的価値、つまり「自分たちは何のために社会に存在するのか?」っていう存在意義が求められているので、パーパスという概念が注視されております。

パーパスブランディングにおける3つの課題

宮﨑:
パーパスに基づいてアクションしている会社がある一方で、うまく浸透していない企業からよくご相談いただく課題は「抽象的な言葉なので伝わりづらい」、「実際の仕事に繋がりにくい」、「従業員が利用しない」の大きく3つです。

自分たちのパーパスと紐付けて顧客に商品を紹介することもほとんどないので、現場で働く社員にとって自分とは関係ないものになってしまうことがよくあります。
そうならないためにも、従業員、投資家、一般消費者にパーパスに対して共感してもらうコミュニケーションが必要なんですよね。

原口:
確かに、会社が掲げているパーパスが自分の仕事とどう繋がっているかはなかなか感じにくいですよね。

宮﨑:
そうですね。
まさに経営者がパーパスを掲げていること多いんですが、顧客からの「これって本当に環境にいいんですか?」という質問に、社員の言葉で伝えることが大事なので、本当は経営層だけではなくて、現場の社員にこそ浸透が必要になってきていますね。

共感を得るためのストーリーテリング

宮﨑:
パーパスはどうしても抽象的な言葉になってしまうので、「それって具体的に何なの?」とか、ピンとこないと納得しづらい。だからこそ、背景にある創業者の想いや従業員がそこに向かう姿勢、つまりストーリーを見つけ出すことを大事にしてます。

起承転結があって、主人公がいるストーリーを話すと、理解がすごく早くなるんですよね。
例えば「この主人公ってこういう想いなんだな」っていうのは映画を見ると伝わってくると思うんですけど、そこに共鳴とか深い共感をうむ力がストーリーにある。あと記憶にも残りやすいので、ただ単に20文字ぐらいのパーパスだけが掲げられても伝わらないものを届けられるんですよね。

だからストーリーテリングを軸に、それをオウンドメディアとか、コーポレートサイトとか、それこそ博展さんが得意とする空間やイベントにも、展開していくことが大事なんですよね。

バラバラとメディアとの接点を広げていくというよりも、まず「どういうストーリーを届けたいのか」を軸にしたストーリーブランテリングのプランが必要なんです。

ここからは具体的な事例をいくつかご紹介しますね。

パナソニック「Make New Magazine」

2022年5月にPanasonicが「Make New Magazine」というメディアを立ち上げました。
「Make New」つまり「未来の定番を作る」をスローガンに掲げているんですが、自分たちが作ってるものが、未来の暮らしや働き方の定番、スタンダードを作っていける会社になりたいという想いが込められています。

このスローガンを紐解くとパナソニックさんの3つのストーリーがあるんです。

1つは日本初の週休2日制を導入していること。
松下幸之助さんが「1日は休養の日、もう1日は教養の日」として週休2日制を導入したのが昭和40年ごろでした。現在では常識ですけど、そんな背景もあったので、いまパナソニックは週休3日制も導入しようとしていて、次の新しい定番も作ろうとしている。

もう一つは苦いSDカードの開発。
SDカードは小さいので、発売当初は子供が誤飲してしまう事例が発生して、その解決法を模索した時に、苦くしちゃえば吐き出すんじゃないかと考えて、苦いSDカードを作ったそうです。

最後は「Panasonic Beauty」のロゴをジェンダーレスカラーに変更したこと。
「美容家電といえば女性のもの」、「美容や女性といえばピンク」のようにステレオタイプなカラーでしたが、もうそういう時代じゃない、男女関係なくジェンダーレスな美容ブランドでありたいという想いから、透明というコンセプトでカラーリングをしています。

これらの社会を反映したものづくりのストーリーを聞くだけでも、「面白い会社だな」と共感できるんじゃないかなと思います。たとえ社内の人はみんな知っている話だとしてもストーリーにすることで、「こういう価値観を大事にしてる会社だったな」って再認識していただけるんですね。

そんなスローガンを踏まえて、オウンドメディアでは新社長に「パナソニックは変われますか?」のような、問いからスタートする記事や、災害などの社会課題にも取り組んでいることを発信して、いまのストーリーを日々発信しているんです。

原口:
確かに日本初の週休2日を導入もその事実だけを見ると「へー」で終わっちゃうことも、パーパスと紐付くと「あ、だからそういうことをしてたんだ!」って納得できました。

「未来の定番を作る」って言われてもピンと来ないですが、その背景にあるストーリーを知ると、急に親近感というか話に力強さが出て、共感できますね。

POLA 「SHOT BRIGHT」

原口:
ここまではオウンドメディアの事例でしたが、イベントなどのリアルな接点ではいかがでしょうか?

南:
はい。それではイベントの事例を2つ紹介しますね。

まずはPOLAさんのSHOT BRIGHTという20代から30代向けに表参道で開催されたアンチエイジング商品のプロモーションイベントの事例です。アンチエイジングはその場で効果を実感しにくい商品なので、ハンドプロジェクションなどの体験を通じて、自分の手にどういう効果が起きているのかを感性的に疑似体験いただきました。

実はPOLAには目の前の相手を大切にしてきたストーリーがあるんです。
例えば、創業者が妻の手荒れをケアするためにハンドクリームを作っていたり、より良い商品を届けるために訪問販売で必要な分量だけの量り売りを始めたり。なので、このイベントでは目の前の相手を大切にするというPOLAの思想やストーリーを感じられる体験を取り入れたんです。

具体的には紫外線から来場者を守るために、待機列に並ぶ方にオリジナルの日傘を使っていただいたり、来場者一人ひとりを大切にしているという意味を込めて、体験コンテンツの冒頭に入力いただいた名前を出したり。

あと、化粧品のタッチアップは一般的に自分で試すものですが、このイベントではスタッフが体験者の手を取って試していただくことにしました。

単純に商品の機能価値を紹介するのも大事ですが、それだけではやはり共感は生まれないんですよね。他の商品と比較して、機能的にはどちらもいいなと思った時に「こっちを選ぼう」と思ってもらえるように、イベントでは企業のルーツやストーリーを軸に体験設計しているんです。

GOLDWIN 「PLAY EARTH PARK

南:
もう一つの事例はTHE NORTH FACEなどのブランドで知られるGOLDWINの「PLAY EARTH PARK」というプロジェクトです。

これは「スポーツの原体験としての遊びから、地球に向き合うきっかけを作っていきたい」という想いを込めた「PLAY EARTH」というコンセプトで、建築家とともに遊具を作り、東京ミッドタウンや創業の地である富山で実施したイベントでした。

実は、このイベント運営のほとんどを普段は店頭スタッフやマーケティング担当として働いている社員が担当していたんですよ。実際にイベントで遊んでいる子供達と触れ合うことで自分たちが提供する製品が使われている瞬間を目の当たりにしたり、さらにはスポーツの起源が遊びであることを実感したりと、ブランドが向かう方向やパーパスに対して共感が生まれたいい事例でした。

やっぱり言葉だけでは100%共感することは難しいんですが、自分の体験は自分だけのものなので、そこからパーパスと体感し、それを理解するという流れがもっとも自分ごと化しやすい流れなんだと思います。

「ナラティブ」と「ストーリー」が循環するパーパスブランディングへ。

南:
「物語」は英語だと「ストーリー」と訳されますが、似た言葉に「ナラティブ」という言葉があります。

「ストーリー」は完結した物語を第三者の視点から主人公について語っていくもの。完結しているからこそ、聞き手にとって理解が早く、記憶に残りやすい、深い共感を得られるというメリットがありますよね。だからこそ強い求心力が生まれるんじゃないかなと思います。

一方で「ナラティブ」は一人称の視点で語る物語で、始まりはあるんですが決まった終わり方がなく、自分次第で結末が決まっていくものを意味する言葉なんです。
ブランドなどのストーリーに共感し、ユーザー自身の人生や生活に取り込むことでそれが「ナラティブ」になる。そして、そのユーザーの物語がまた「ストーリー」として誰かの生活へと取り込まれ、新たな「ナラティブ」が生まれていく。

つまり、パーパスブランディングは、このように「ストーリー」と「ナラティブ」が循環することでより広く波及していくことなんじゃないかなと感じました。
きっと完結しているストーリーを投げかけるだけでは共感は生まれなくて、それをユーザーが自分ごと化し、生活に取り込んでナラティブにしていくまでのプロセスを考えることが、本当の意味でのパーパスブランディングなんじゃないかなと思いますね。