コロナの猛威は多くの経済活動に制約を与えた一方で、世界のCO2排出量は昨対比7%減など、ポジティブな一面もありました。 この事実は今後の社会のあり方を考えるにあたり、私たちのパラダイムを転換させる機会になるかもしれません。 単純に元の生活を取り戻すという事で良いのか。持続的な社会とは何か。

今回は博展と資生堂の共創プロジェクトである「Ginza sustainability project」を通して、新たなサステナビリティのアプローチを考察していきます。

左からモデレーター:博展 斎藤氏
スピーカー:資生堂 宣伝・デザイン部アートディレクター  堀氏 / 博展 文化開発事業ユニット プランナー/アーティスト 中里氏

Ajenda
1:GINZA SUSTAINABILITY PROJECTとは?
2:サステナビリティと銀座という街
3:フィールドワーク、STORY、そしてMaking
4:展示と鑑賞者の反応
5:今回の取り組みを通して

GINZA SUSTAINABILITY PROJECTとは?

斎藤:
まず、博展と資生堂の共創プロジェクトであるGINZA SUSTAINABILIRY PROJECTとはどのようなプロジェクトなのでしょうか?

堀:
銀座の資生堂本社ビル1Fにあるウィンドウアートを起点に、銀座の生態を様々な視点から可視化させ、サステナビリティな社会について考えるプロジェクトです。
第一回となる今回は銀座の植物/生物の営みがテーマ。
銀座の街を模した全72画の棚に、その場所で採取した植物/生物にちなんだ作品を展示しました。

この作品は自分たちがフィールドワークで銀座の街を歩いた時の感覚をそれぞれ生態図として表現しています。全体を俯瞰して観賞するといろんな種類の生態、シチュエーションを感じることができ、近くで観賞すると場所の歴史と植物の関係性を知ることができるアウトプットになっています。

ディスプレイの裏側はそのプロセスを展示し、どのようにこのアウトプットに至ったのか、魅力を引き出すための手法などを展示。例えば植物の煮汁で染められた紙を触ったり、採取した花を嗅いだりできます。
外から鑑賞するだけではないインタラクティブな場所にしたかったので、擬似的に銀座の街を歩いた感覚になるダイジェストとしても楽しんでもらえるようにしました。

作品背面の展示

サステナビリティと銀座という街

斎藤:
今回は銀座の街とサステナブルという2つがテーマですが、なぜこのテーマにしたのでしょうか?

堀:
資生堂は来年150周年を迎えます。そのタイミングで改めて資生堂がやってきたことや思想をヒントに、創業の地 銀座という街にフォーカスを当てたプロジェクトを行いました。
実は資生堂の社名は中国の易経(えききょう)に由来しています。

「大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものは、ここから生まれる。」
これは今で言うところのサステナビリティに通ずる精神ではないかと感じています。
そこからサステナビリティをテーマに創業の地である銀座に焦点を当てたプロジェクトにしたいと考えました。

中里:
資生堂さんとこの共創プロジェクトを始めたのは2020年12月ごろ。
博展と資生堂はどちらも銀座にオフィスを構えており、企画を始めた頃は勤務地と言うこともあって、日常的に銀座という街を意識して歩いたことはありませんでした。
もう少し銀座をより魅力的に見える方法はないか模索する中で、「実は銀座について知らないことが多いから歩いてみよう」、「猫のような別の視点を持って歩くことも面白いのでは?」などの着想から、視点を変えて銀座の街を歩くことが新しい魅力に気づくきっかけになると考えました。

まずはフィールドワークとしていつもの銀座の街をゆっくり歩いてみる。
それによって気づいた、普段は意識しない銀座の植物や生物にフォーカスすると面白いのではないかと感じましたね。

フィールドワーク、STORY、そしてMaking

斎藤:
72区画それぞれに特徴のある作品が展示されていますが、実際にはどのように制作しましたか?

中里:
このアウトプットに至るまで、72区画を実際に歩いて調査するフィールドワーク、銀座という街の区画一つひとつが持つ歴史や背景を紐解くGINZA STORY、そしてそれらを踏まえてアウトプットするMakingの3つのステップがありました。

まずフィールドワークでは銀座の72区画全てを歩き、許可を頂いて植物や生物を採取しました。フィールドワークでは多くの発見がありましたね。

街路樹は、例えば並木通りのシナノキ、中央通りのイチョウなど、それぞれ通りによって異なる樹木が植えられ、それが通りの雰囲気を作っているとか。

また、雑草のように無作為に生えている野良花も、調べてみると地中海に生息するルリタマアザミや凶毒性のヨウシュヤマゴボウ、さらにはミントなど多種多様なものが生息していることもすごく新鮮な発見でした。

堀:
ミントは野良花ですが、もしかしたら銀座にBarが多いことなどが関係しているのではないかなど、人工的に植えたものではないからこそ、そこにストーリーを感じる面白さがありましたね。

斎藤:
確かに計画的に植えられている街路樹と違って、野良花はその背景や偶然性などストーリーを想像する楽しさがありますね。
その多くの気付きをどうやって作品で表現しましたか?

中里:
銀座とその植物がどのような関係性にあるのか、そのストーリーがわかるようなアウトプットにしました。

例えば、若い人は馴染みがないかもしれませんが銀座と言えば柳の木が有名であり、歌にもなっているのでレコードと一緒に展示したり、明治38年に植樹されたイチョウには当時の様子を印刷したり。

また、銀座で蜂蜜を生産している蜂蜜プロジェクトさんとも連携しましたね。
銀座で作られる蜂蜜はまさに銀座に咲く植物から蜜を採取しており、山では季節によって蜂蜜が採れない時期もあるけれども、銀座は多種多様な花が一年中咲いているため、通念で蜂蜜が採れることなど、面白いお話も伺えました。

斎藤:
72区画もある展示で一つひとつ表現方法を考えるのは途方もない作業ですね
実際はどうやってメイキングを進めたのでしょうか?

堀:
実際に作り上げる段階では表現とストーリーを行ったり来たりしながら検証を進めましたね。
リアリティや事実に基づくことを大事にしたかったので、実際に採取したもので構成しています。生き物や植物を場の記憶として感じられるように蝶の羽や鳥が動く展示も行いました。

また、ひとつ一つの区画が展示として成り立つだけでなく、全体を俯瞰で見たときのバランスも重要だったので、辰巳にある博展さんのスタジオで原寸大の模型を作ってスタディを繰り返しました。

展示と鑑賞者の反応

斎藤:
綿密にリサーチし、ひとつひとつ丁寧に作り上げた作品だと思いますが、実際に展示をしてみて鑑賞者の反応はいかがでしたか?

堀:
実際に展示を始めると立ち止まって、じっくりと観察してみていただく方が多く、大阪からわざわざこの展示を観に来てくださった方もいらっしゃいました。
自分たちがイメージしたものを表現し、それを様々な人が見ることで、観賞者一人ひとりに新しい気づきがあるのではないかと思っています。
僕自身もこの展示が完成したとき、これ自体が銀座の生態図や環境、風景までも取り込んでいるかのように感じました。

この展示を通して「銀座にこんなに豊かな生態があるのか」という驚きや感動を提供し、それによって自身が街を歩く時に周りの植物や生物がちょっと気になるようになる。
そうすることで今までと全く違う銀座の景色を発見いただけると嬉しいですね。

あんまり信じでもらえないんですけど、蜂が展示に寄ってきたこともありましたね。
それを見て「実は鑑賞者は人間だけではないのかもしれないな」と不思議な気持ちになりました。

中里:
実はこのプロジェクトは3つの期間がありまして、次は「大地」をテーマにする予定です。
通りの雰囲気や銀座という場が持つ力は、実はその大地に痕跡が残っているのでは?と考え、舗装されている場や土壌、さらには地層まで興味が広がって行きました。

実際に大地も調べていくと植えられている木によって与える肥料なども異なっているため、見た目の色から全然違います。そうやって得られた気付きをまた展示として表現するために、今は様々なフィールドワークやスタディを繰り返しています。

今回の取り組みを通して

斎藤:
GINZA SUSTAINABLE PROJECTを実施してみて、新たな気付きや感想などありましたか?

堀:
今回テーマにしていた「サステナブル」という言葉の捉え方は人によって様々だと思いますが、身近なものへの愛着が一番大事なのではないかと感じました。

自分たちもフィールドワークとして銀座を歩き、小さな発見の積み重ねによって銀座という街そのものに愛着が湧いてきました。

生活の中での発見を通して「サステナブル」という大きな概念を身近なものとして感じられるのではないかと思いましたね。

斎藤:
確かに「サステナブル」は広義的で抽象度も高い言葉に感じてしまいますが、このような取り組みを通して、一人ひとりに生活の中で身近に感じてもらうことで行動が変わっていくかもしれませんね。

中里:
サステナブルとは理想的な社会への取り組みではありますが、その取り組みと一緒に僕ら自身も豊かになっていく必要があると思います。強制的にやらされる、義務的に取り組むのではなく、「よく観察すると銀座にも生態が見えてきて面白いな」と感じてもらうことで、街への意識が変わり、それによって行動も変わっていくと思います。

その面白さを伝える時にクリエイティブが力を発揮すると感じました。

身近なものに興味を持つこと、その面白さに気づいてもらうことをスタート地点することで自分たちも社会と共に豊かになるような取り組みをしていきたいですね。