コロナ禍の影響を受けた展示会において、一時は開催数・来場者数が大幅に減少したものの、現在では再び盛り上がりを見せ始めています。
しかし、すべての展示会が元通りというわけではありません。来場者数の増減を比較してみると、業界ごとに傾向が異なることがわかりました。コロナ禍前後で変化した顧客に対して、出展社はどのような対策を講じるべきなのでしょうか?
今回はBtoBマーケティングコンサルティングのスペシャリストである株式会社才流の岸田氏をお招きし、博展のクリエイティブディレクター歌代とともに徹底議論。マーケターとクリエイターの視点を通して、これからの展示会戦略を探ります。
スピーカー紹介
岸田 慎平
株式会社 才流
コンサルタント
歌代 悟
株式会社博展
クリエイティブディレクター
Index
・BtoBマーケティングにおける展示会
・afterコロナで展示会はどう変わった?
– afterコロナの展示会事情
– コロナ禍を経て顧客の情報収集・購買行動はどう変わったか?
・afterコロナにおける展示会とは?
BtoBマーケティングにおける展示会
歌代:
まず、afterコロナというよりBtoB企業における展示会の位置付けをお話しようと思います。
コロナ禍を経て、オンラインの施策が増えてきた中で、改めて展示会の立ち位置がどうあるべきか意識する機会も増えました。
ですから、展示会の立ち位置や出展目的を改めておさらいする意味でも、展示会の価値をオンラインと比較しながら説明しますね。
歌代:
ここでは、来場者にとっての展示会の価値を3つに分類してみました。
展示会の価値①偶発性
ひとつ目は、「偶発性」です。
オンラインは基本的に、自分が既に知っている検索ワードの中で情報を能動的に得ていくパターンがほとんどですが、展示会は見たことがないものに初めて触れる、知れることを目的に、意図的に偶然の出会いを求めて行くことが非常に多いのかなと思います。
プライベートイベントやウェビナーといったオンラインと大きく異なる価値だと考えています。
展示会の価値②具体性
次に挙げるのは「具体性」です。
当たり前のことではありますが、五感を通して体感できるというのは、展示会の最も得意とする点です。逆説的に言うと、五感で感じられる商材、その場でしかできない体験ほど、展示会と相性が良い一方で、そうでない商材に関しては展示会以外も含めた施策を打っていくことも重要です。
展示会の価値③一覧性
最後に、「一覧性」も展示会の大きな価値といえるでしょう。
やはり同じ業界やテーマに沿って様々な企業が数百、数千と集まる中で比較検討できるのは展示会のとても有意義な価値ですね。
認知・興味関心・比較検討という幅広い目的に対して、自社がどのステータスかを知ることは非常に重要です。
例えば、認知度が低く世の中に知られていない新製品を出したいなら偶発性という展示会の特性を考えると、今までリーチできなかった方にリーチできるということもあります。
このように、自社の状況と目的が展示会の何の特徴とマッチしているのかをはっきりすると、自ずとどの施策をやるべきかの糸口が見えてくると思います。
– 特に一覧性は展示会ならではですよね。企画する側も一覧性という部分は見落とさずに考えていくことが大事なんでしょうか。
歌代:
はい。展示会に出展する際に「自分たちの製品のこういう特徴を伝えたい」と主観的になり、ホームページの情報をそのまま展示会でも流用しがちですが、比較検討されるという点を意識しながら、他社とどう差別化するかという視点を入れる必要があります。競合がいるからこそ、どう勝つかという視点で言葉を変換しないと展示会では埋もれてしまいますからね。
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afterコロナで展示会はどう変わった?
歌代:
あくまでいくつかの展示会をピックアップしたものだけにはなってしまうんですけれども、コロナ禍前後で来場者数に変化がありました。
– 来場者数は一律で戻っているイメージはあったのですが、展示会の中にはコロナ以前よりプラス42%も回復しているものもある一方で、マイナス41%の展示会もあり、差が大きいですね。
歌代:
まだ海外の来場者があまり増えていない状況の中での横ばいという点も考慮すると、日本人は意外と増えているのかもしれないですよね。
実際に私が展示会に行ってみた際に感じた特徴を少しだけ抜粋してみました。
afterコロナの展示会事情
歌代:
来場者・出展者・ブースの大きく3つの視点で、afterコロナの事情を見ていきましょう。
来場者の変化
コロナ禍前は情報収集を目的にした来場者が多かったですが、コロナ禍では来場制限があったことで決裁者がメインに来るようになりました。
来場制限がなくなった今、決裁権を持った方の来場比率が高くなったことでターゲティングを再度考えて出展するのが必要だと感じます。また、ウェビナーのマンネリ化も影響し、一対一で話を聞きたいというニーズが増えてきたんじゃないでしょうか。
それから、私自身も久々に展示会に行ったときは、「久しぶりだからもう少し長く見たい」という気持ちがあって、定量的なデータではないんですが、来場者の滞在時間が長くなったと肌で感じています。
出展者の変化
オンライン施策ではできない、リアルならではの体験をさせる展示が増えたと感じました。
来場者層も変わってきた中で、ターゲットを明確化して、商談につながった数を成果として振り返る出展者が多くなったと思います。また、外見より内面と書かせていただいたのは、コロナ前は、プレゼンスの向上や業界内での立ち位置、存在感を示すために派手な装飾が多かった印象でしたが、オンライン施策などの選択肢が増えたことで費用対効果をより重視する企業が増えたのかなと。見た目としての装飾性というよりは、ビジュアル以外のコンテンツや接客・会話も含めて自社のブランディングを体現する企業が増えましたね。
ブースの変化
デモ、商談といったコミュニケーションを中心としたブースになったり、情報量を精査したり、展示会というリアルの場をオンラインに連携したりというところが、アフターコロナの展示会事情としての違いかなと思っています。
コロナ禍を経て顧客の情報収集・購買行動はどう変わったか?
岸田:私たちが支援している顧客も展示会に出展している方が多数いらっしゃいまして、コロナ禍を踏まえて顧客の情報収集・購買行動はどう変わったか?を顧客の購入タイミング・購入経験の2つの軸で整理してみました。
過去に買ったことがある&今すぐ購入したい(左上)
この部分ではよりデジタル化・効率化が進んできています。顧客がすぐ買いたいと思った時に買える窓口を設けてあげることが非常に重要なので、ECサイトや商社の即売会を活用しましょう。
過去に買ったことがある&今すぐ購入しない(左下)
この場合、顧客はわざわざ自ら情報収集をしないので、企業側はプッシュ型で情報を提供していく重要性が増してくるセグメントかなと思います。
具体的に言うと、営業が新しい情報を持って行ったり、メールマガジンや広告で接触を維持したりすることが重要になってきます。
今まで買ったことがない&今すぐ購入したい(右上)
タイミングが合えば展示会は非常に有効な手段になりますが、年に数回と限られてしまいます。そのため、ショールーム・工場の視察や、デモ機の貸し出しなど、すぐ買いたいという顧客に製品を体験できる場や機会を提供することが重要です。
今まで買ったことがない&今すぐ購入しない(右下)
ここでは特に展示会に出展することで、今まで買ったことがない製品あるいは体験を中心に展示をしていくことで来場者に新しい気づきや発見を提供することが大切です。
まとめると、既存製品・サービスは、展示会以外のチャネルなども検討した方が良く、一方で顧客がまだ買ったことがない・経験したことがない製品やサービスは展示会を活用して市場に打ち出すことの重要性が高まってきたと言えるでしょう。
afterコロナにおける展示会とは?
歌代:
博展では展示会を未来共創型・エンタメ型・業界特化型・業務支援型の大きく4つに分類しています。
これらを先程の来場者推移の表に当てはめてみると、新たな協業パートナーとの接点創出を目的とした未来共創型はコロナ禍前に比べ来場者が増えている一方で、業界特化型や、特にIT・SaaSベンチャーなどの認知獲得やハウスリスト拡充を目的とした出展社が多い業界支援型は、コロナ禍以前より来場者が減っていることがわかります。
未来共創型(例:人とくるまのテクノロジー展、CEATEC、国際ロボット展、国際物流総合展など)
歌代:
傾向として、業務支援型の来場者は短期的に課題を解決するものを探しているのに対し、未来共創型は長期的な視野での情報収集や協業できるパートナーを探すというような時間軸の違いも大きいです。時間軸が違う買い物は、現場視点というよりも経営的観点やマネジメント観点も重要になるので、ターゲットを意識しながら情報訴求する必要がありますよね。
また、買うモノではなく共創パートナーを探してるパターンもあるので、製品の機能的価値だけではなく、企業姿勢やブランドの価値など、ターゲットに合わせて製品以外の強みを訴求する必要があるため、難易度の高い出展が求められるのも未来共創型の特徴です。
岸田:
国際物流総合展や国際ロボット展などは出展企業が増えている一方で、商材単価が高かったり、まだ市場に浸透していない製品だったりで導入に至らないケースも多いです。そういった場合、自社プロダクトに何が足りないか、どうしたら顧客が導入できるのか、という点は意外と提供する側が気づけていないこともあるんですよね。
そこで、未来共創型の展示会で顧客が何に困っていて、今のプロダクトのどこが過剰で、どこが足りないのかを見つけるために活用することが大事です。
歌代:
未来共創型ではSDGsの取り組みを発信する企業が増えてきましたが、サステナビリティを謳っていながらブースやノベルティが廃棄されるものばかりだと本当の企業姿勢は伝わりませんよね。機能価値だけではなく「ひと」としての姿勢の部分も大切になってきます。
業務支援型(例:Japan IT Weekなど)
岸田:
私も先日のJapan IT Week(総務人事経理)に行きましたが、例えばインボイス制度に関してはすぐ対策が必要だけど日頃業務が忙しいから展示会でまとめて比較しよう、といった駆け込み需要があるので、展示会の一覧性という価値を改めて実感しました。先ほどの図の右上(今すぐ購入したい&購入したことがない製品の部分)を狙うなら、時事性の高いテーマも見極める必要がありますよね。
歌代:
そうですね。また、来場者はオンラインである程度調べているからこそ、展示会で訴求するポイントの精査は重要です。「他社とどう違うの?」「こんなこともできるの?」といった、かゆいところに手が届くことは決裁に重要なポイントですね。
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afterコロナにおける展示会活用
マーケター視点
– では最後に、マーケターの視点でafterコロナにおける展示会の活用方法を教えてください。
岸田:
「こういう考えでこの製品・機能をつくったんですがどう思いますか?」といったように、展示会は顧客から製品・サービスのニーズを吸い上げていく双方向のコミュニケーションの場として活用できます。オンラインで顧客のニーズを収集しようとすると時間も工数もかかりますが、展示会では一度に多くのサンプルを集められるので大変有効的です。
また、目標の設定とそれを達成する体制、そして事後フォローなど、展示会の基本的な設計も変わらず重要ですね。そこにはオンラインの施策も入ってくるので、そこも含めたコミュニケーション全体を見直していきましょう。
クリエイター視点
歌代:
冒頭からお伝えしている「偶発性・具体性・一覧性」はフレームワークとして使えると思っています。これを意識しながら自分たちの状況と照らし合わせて出展目的や出展物を整理していくと、おのずと施策や情報の粒度、レイアウトがロジカルに決まります。
また、企業を直接見られる場という点も意識したブランディングが必要です。ブランディングは見た目という部分ではなく、接客・態度も影響してきます。製品が良ければいい、ではなく「その製品を買いたい」「未来をその企業と共に作っていきたい」という視点では人としての信頼や情緒的な部分も考慮した戦略づくりも非常に重要ですね。
– 本日はありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
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