昨今、「ブランディング」に力を入れている企業が増えつつあります。BtoCにおいては既にブランディングに注力している企業が多くありますが、果たしてBtoB企業においてもブランディングは必要なのでしょうか。

特にBtoB企業にとって、展示会やセミナー、カンファレンスは顧客との接点を創出する重要なチャネルです。このようなリアルな接点は新たな潜在顧客を獲得する機会であると同時に、それらの顧客から「自社がどのような企業であるか」というイメージが醸成される瞬間でもあります。

では、このような顧客接点において自社の「ブランドらしさ」をどのように訴求すればいいのでしょうか?
今回はBtoBマーケティングや営業の支援を行う株式会社才流(サイル)の澤井氏と、数多くのBtoBのイベントマーケティングを支援してきたHAKUTENクリエイティブ局長の歌代氏がBtoBにおけるブランドマーケティングについて語ります。

スピーカー紹介

澤井 和弘

株式会社 才流
コンサルティング部門
責任者

歌代 悟

株式会社博展
クリエイティブディレクター

Index
・マーケティングとブランディングの違いって?
・BtoBブランディングは必要か?
・BtoBブランディングの効果って何?
・BtoBブランディングのプロセス
①マーケティング戦略の整理
② ブランドDNAとアイデンティティの構築
③コミュニケーションへの実装
・BtoBブランディングの事例
・最後に

マーケティングとブランディングの違いって?

BtoBマーケティングは「選ばれる仕組みづくり」

澤井:
まず、マーケティングの定義を整理しておきましょう。才流ではBtoBマーケティングを、「選ばれる仕組みづくり」と定義しています。

選ばれるためには、、、

  • 知ってもらう
  • 覚えてもらう
  • 欲しいと思ってもらう
  • その時に、声をかけてもらう
  • 名指しで選んでもらう
  • もしくは、競合に比べて、自社を選んでもらう

これらすべてを含んで選ばれる仕組みづくりと言えるでしょう。

BtoBブランディングは「選ばれる価値づくり」

歌代:
マーケティング活動が「選ばれる仕組みづくり」に対して、ブランディングは「選ばれる価値づくり」と捉えることができると考えます。

つまり、信頼される「らしさ」の構築が大事なんです。
信頼されるためには顧客や社会の視点が必要ですが、ここで忘れてはならないのが、自分たちの視点である「らしさ」もブランディングには重要ということです。

昨今の成熟した社会のなかで他社と差別化する際に、マーケティングという論理的な戦略のみではなく、ブランディングといった感性的な思考も必要になってくると思います。
ビジネスシーンにおいては、感性や心理のような主観が入る思考は避けられる傾向にありますが、意外とブランディングの感性的な思考がないと差別化が難しい時代になっているのかなと。

BtoBブランディングは必要か?

– 最近ブランディングを重視した企業が増えていますが、BtoCのようにBtoB企業も本当にブランディングが必要なのでしょうか。

澤井:
コロナ禍において営業活動が変化したことは皆さんも認識されていると思いますが、オフラインからオンラインへと購買プロセス自体が大きく変わっています。また、デジタル化が進んだことによって、多くの顧客が検討プロセスを顧客自身でおこなうようになりました。展示会やセミナー、ブログ、ホワイトペーパーなど、色々なところで情報収集できるようになったので、自分たちで学習しながら検討プロセスを進めていき、その検討プロセスを乗り越えた企業から発注がくるわけです。

このように購買プロセスに応じた役割の分業化(営業、マーケティング、ISなど)が進むなかで、ブランディングは一貫した顧客体験を提供できるかということに繋がってくるので非常に重要だと思います。

歌代:
ブランディングとはV.I.(ブランド・アイデンティティ)のような視覚的要素だけではなく、マーケティング活動をより効果的に機能させるための価値づくりです。言語表現や態度、体験フローというプロセス全体をブランディングとして捉えています。
つまり同じサービスや商品でも、ターゲットやその製品のポジショニングによって伝え方、伝わり方は全く異なってくるわけです。

例えば、Aは機能的価値を具体的に訴求しているのに対して、Bは情緒的価値を訴求し、情報量を制御しています。また、Aは製品を型番として表記しているのに対して、Bは製品に名前を付けています。SDGsへの取り組みに関しても、Aは付加価値としてアピールしているのに対して、Bは信念として行動しているように見えますよね。

もちろんビジュアルも違いますが、言葉も見せ方も態度も全部異なってきます。
おそらく、両者が展示会に出展したら、そこでの会話も、そこで配るノベルティも、全く異なるのではないでしょうか。
ブランディングにおいて視覚要素は非常に重要な要素ですが、そこから派生して変わっていくコミュニケーション全体を設計することがブランディングとしてやらなければいけない領域だと考えています。

– どちらが正解ということではなく、伝える場所によって変えていくのでしょうか?

歌代:
そうですね。視覚要素は綺麗に整えるだけのものではなく、誰に、何を、どこで、どのように伝えるか、伝わるかを制御する指針のようなものなんじゃないかなと。

さらに重要なのは、ブランディング自体は目的ではなく手段ですので、マーケティング、セールスと連動して初めて大きな価値を生むと考えています。それぞれを分断するのではなく、融合して考える視点も重要です。

BtoBブランディングの効果って何?

– ブランディングの効果は実際にはどのようなところに出るのでしょうか?

歌代:
ブランディングは対外効果と対内効果の大きく2つの軸があります。

対外効果は、記憶に残り想起しやすくなるというのがひとつ目の大きな効果です。
これは、BtoBに限らずBtoCにおいてもブランディングの効果としてよく言われますよね。選択肢に名前が挙がるかという点はすごく重要なので、そこで想起されるとブランディング効果があると言えるでしょう。
もちろん想起されても選ばれなければ意味がないので、意思決定するときの判断にも大きく作用する効果があると思います。

また、昨今のレッドオーシャンの市場では、拮抗した価格競争の回避にも役立ちます。ブランド力が高まることで価格プレミアムを獲得し、利益率の向上に寄与できるのかなと思っています。

一方で、特にBtoB企業にとっては対内的な効果が大きいですね。

まず、プロモーションのROIが上がるという点です。ブランド力が向上すると、認知度が高まることで信頼度も上がります。そのため、継続受注が増えたり、例えばセミナーを開催する際にすごく人が集まりやすくなるなどプロモーションの投資対効果が高まります。

また、実は生産性の向上もブランディング効果のひとつなんです。これは、ブランドのガイドラインや規則を整えることで、社内で何かを意思決定する際によりスムーズに進むので、すごく生産性が上がるんですよね。他にも、ブランド力が高まると優秀な人材の獲得にも繋がりますので採用コストを抑えられたり、会社やブランドへの自負、愛着、社会に対する自己効力感の向上によって社内風土も醸成されたりと、目に見えない効果も多くあると考えています。

澤井:
外から見て、自社がどういったサービスなのか、どんな会社なのかという理解や認知が市場に対して広まってくると、先程のお話のように費用対効果が良くなったりプロモーションの効果が良くなったりという実感がありますね。
自分たちのブランド、アイデンティティをしっかり整えていき、市場に認知を広める点は非常に重要だと思ってます。

歌代:
外から見たイメージを整えるという話だと、才流さんのように社員の方々がX(旧:Twitter)等で影響力があるっていうのは、まさにブランディングなのかなと。統一したメッセージを発信できる人たちをいかに育成するか」もBtoBにおける重要なブランディングだと思いますね。

BtoBブランディングのプロセス

– ブランディングの効果が整理できたところで、では実際どうやるの?何から手をつければいいの?というプロセスの部分が知りたい方が多いかなと。

歌代:
はい。BtoBブランディングのプロセスとしては大きく3つあります。

①マーケティング戦略の整理

澤井:
ひとつ目が「マーケティング戦略の整理」です。

▶顧客理解をする

まず顧客を理解することがマーケティング戦略を立案するうえで大事な第一歩になります。
顧客理解をするには実際何から始めればいいのか?下記に例を挙げてみました。

【顧客を理解するために明日からできること】


▶定性的観点
・既存顧客へのインタビュー
・見込み顧客へのインタビュー
・ユーザーテスト

▶定量的観点
・問い合わせ内容やSFAの商談履歴の分析
・受注、失注、解約理由の確認
・受注企業の経路分析
・営業同行。もしくは自分で営業
・営業/インサイドセールス/カスタマーサポートとの情報交換
・競合企業の事例インタビューを確認する
・レビューサイト、SNSの口コミ分析

まずは顧客に関する情報を定性・定量の両方の観点で集めることが重要です。

実際に私たちも見込み顧客へのインタビューをよく行うのですが、よく下記のようなヒアリングをします。 

  • どのような課題を解決したかったのか?
  • 発注、導入に至った背景、優先順位は?
  • どのような検討プロセスだったのか?
  • 製品やサービスの比較軸や決め手は何か?
  • 情報収集は普段どのようにやっているのか?
  • サービスサイトを閲覧した感想は?

このような顧客情報を集めることが顧客の理解につながるので、ぜひチャレンジしていただきたいですね。

徹底して顧客を理解していくと、検討フェーズごとにどんなチャネル・コンテンツがいいのか、どんな言葉にするとより伝わるのか、コンバージョンポイントをどう設計するかという打ち手がどんどん見えてきます。

– 顧客理解の方法としていくつか挙げていただきましたが、その中でも特に着手しやすく効果が高いものってなんでしょうか?

澤井:
特に有効なのは見込み顧客インタビューですね。10人、20人もおこなう必要はなく、3〜5名ほどにお話を伺うと、ある程度傾向がわかってきます。
もちろん見込み顧客インタビューが難しい場合もあるので、その場合はマーケティング担当から営業担当にインタビューすると、新たな気づきがあることが多いんです。営業は普段から顧客とコミュニケーションしていますが、そこから得られた顧客に関する情報を集めておく場所がなくて、結局営業個人の中に重要な情報が溜まっているっていうケースは意外と多くて。なのでそれをマーケターが引き出し、言語化することで得られるヒントがあると思いますよ。

▶ペルソナをつくる

澤井:
当然情報を収集するだけでは意味がないのでペルソナに落とし込んでいきましょう。

特にBtoBの場合は、ペルソナがどういう点に課題を感じてるかが非常に重要なポイントになります。私たちはマーケティングのご支援を行っているので、顧客が作ったペルソナを見せていただくことが多いのですが、課題が整理されてないケースが多いです。
BtoBの場合、何か課題があってそれを解決するために特定の製品・サービスを導入するということが圧倒的に多いですから、その人は何に課題を感じてるのかというところは必ずペルソナの中に含めましょう。

▶カスタマージャーニーを設計する

澤井:
ペルソナを作ったら、顧客の検討プロセスごとのタッチポイントや、その段階での情報収集目的をふまえて、コンテンツを整理しましょう。これをカスタマージャーニーマップに落とし込みます。

これに沿っていくと効果が出る可能性が非常に高いので、まずはペルソナ、そしてカスタマージャーニーを整えていきましょう。

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▶バリュープロポジションを整理する

バリュープロポジションとは、自社が提供できるかつ競合が提供できない、顧客が求める価値のことです。

もし、自分たちが価値を提供できても、顧客が求めていなければ意味がありません。ちゃんと自分たちが提供でき、顧客が求めていて、かつ競合が提供できない部分をクリアにする必要があります

先程挙げた見込み顧客インタビューは、顧客が何を求めているのかがわかる調査ですが、加えて競合調査もするといいと思います。競合が現状どんなサービスを提供しているのか、見込み顧客がなぜ競合企業を選んだのかがわかると、バリュープロポジションがどんどん明確になってきます。

事業を製品・サービスありきで始めてしまうと、ポジションがうまく定まっていないまま「自分たちはいいものを提供している」と思い込んでしまい、実は顧客は求めていないことだった、みたいなケースもあるんですよね。
プロダクトアウトしている場合は、一度バリュープロポジションを見直してみるといいかもしれません。

② ブランドDNAとアイデンティティの構築

歌代:
ブランディングの2つ目のプロセスは、「ブランドらしさを言語化する」ことです。
顧客理解や提供する価値の整理に関しては澤井さんがおっしゃったことがほとんどですが、ブランディングでは、さらに「らしさ」の言語化が非常に重要になってきます。どういうビジョンで動いているのか、どういう歴史の変遷でサービスができたのか、今後どうなっていきたいかといった点を交えながら、ブランドのプロミスやビジョン、名称を設計していく必要があります。

BtoCとは違い、BtoBの場合は社外で自社の情報を見る機会が少なく、自分たちが何者かという認識が社内間でも異なってしまうケースがあります。そういった意味でも、立ち戻る場所としてブランドらしさの言語化がすごく重要なのかなと思っています。

その言葉をさらに視覚化していく際には、ロゴやカラー、フォント、イメージボードなどを作っていきますが、言語化した情報を全てビジュアルに反映してしまうと、説明図形のようになってしまい、ブランディングの本来の目的を叶えていない、なんてこともあり得ます。
ですから、ビジュアル化という作業においては、論理的な視点だけじゃなく、例えば「人ってこういうところが記憶に残るよね」のような心理面も考慮が必要です。

③ コミュニケーションへの実装

歌代:
ブランディングの3つ目のプロセスは、「コミュニケーションの実装」です。
言語化・視覚化した部分を実装していくフェーズになりますが、ウェブサイトや展示会、営業ツールなどいろんなものにアウトプットしていかなければなりませんよね。そこで言語・視覚的要素が統一されていないと、メッセージも伝わらず、再び整合性を取るのに余計なコストもかかってしまいます。

ブランディングができてない場合は社内工数が増える要因にもなりますし、コミュニケーションの実装というフェーズにおいては、意外と感性が入るケースもあるので、しっかりガイドラインを整理する必要があります。


– 才流さんも展示会出展のご相談をしていただく場面もあると思いますが、その場合も目的やポジション、誰にどう伝えていくかというような部分の整理もされるのでしょうか。

澤井:
そうですね。出展の目的も「リードを獲得したい」とか「テストマーケティングやりたい」とか様々あると思うんですが、ターゲットとなる顧客に対して、何をどう伝えていきたいのかというところは、よく整理してお話しすることが多いですね。
また先程おっしゃっていた通り、展示会は会社(ブランド)と顧客の接点であり、最初の出会いでもあります。視覚的な要素で自社をどのように見せるのかは、非常に重要だと思います。

– 展示会では特に、社員さん自身もコミュニケーションの接点であるというのがキーワードだと感じました。説明資料だけではなく、社員さんのコミュニケーション自体もブランディングの一つと言えるのでしょうか。

歌代:
そうですね、展示会って一度きりの出展では終わらないので、アップデートすることがすごく重要です。全て完璧にはならないので、その場で「自分たちの製品はこういうワードのほうが響きやすいな」とか「こっちの製品と一緒に紹介すると効果があるんだな」とか、そういうプロセス自体もブランディングの領域なのかなと。

BtoBブランディングの事例

事例:株式会社SmartHR

SmartHRさんのブランド戦略に基づいたイベント体験設計の事例です。

SmartHRさんの場合は、既にマーケティングやブランディングがしっかり構築されており、それをどうイベント体験に実装するかというフェーズのお手伝いでした。

特に展示会は、新製品の発表や事業変革を視覚的にもアウトプットする場なので、社内外のブランドイメージに大きな影響を与えます。

展示会では遠くから見た時(遠景)、近づいた時(中景)、そしてデモなど手に触れる時(近景)にどのようなコミュニケーションを行うか、という情報訴求のフレームがあります。
それらをブランドアイデンティティに沿って設計し、デザインのガイドラインを整えていった事例になりました。

最後に

歌代:
今回はマーケティングとブランディングの違いにフォーカスしましたが、それぞれは分断して考えるのではなく、その両方をどう繋げるかという思考が重要です。
もちろん最終的なアウトプットも大事ですが、いかにステークホルダーを巻き込んでプロジェクトを進めるかといったインナーブランディングもキーポイントになってきます。難しい部分ですが、第三者が入ることによって上手く進むこともあるので、いつでもご相談いただけたらと。

澤井:
購買プロセスが複雑になってきているなかで、サービスを提供する側も分業体制にせざるを得ない状況だと思います。分業しているがゆえに連携が取れず、顧客に価値を提供できていない、なんてことが起こったり。
きちんとマーケティング戦略とブランディングを整えることで、サービス提供する側もどう動けばいいのかという軸が確立しますから、中長期で見ると間違いなく重要だと思います。

– 本日はありがとうございました!

いかがでしたでしょうか。

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