AIやデジタルコンテンツが溢れる時代、「最適解」はすぐに手に入るようになった。だからこそ、人の偏愛やこだわりから生まれる体験が、かえって人の心を動かすのかもしれない。博展社内で新たに発足したクリエイティブコレクティブ「Intangible Studio(以下、IS)」は、そんな時代の空気を読み取り、「フツウを崩す体験発想集団」を掲げて動き出した。企画の上流から制作まで一気通貫で手がける彼らは、何を目指し、どんな体験を生み出そうとしているのか。中心メンバーに話を聞きました。
──「IS」を立ち上げた経緯を教えてください。AIによるクリエイティブ制作が加速する今の時代に、あえてこのチームを始動させた理由はどんなところにありますか?
浅井: いま、イベントなどの”体験”が盛り上がってきている潮流がありますが、多くの情報の中に埋もれがちです。そんな中で、クリエイターが属人的に「こういうのが面白いよね」と個性を立たせた企画のほうが、圧倒的に盛り上がっていると感じていました。AIの進化によって最善策がすぐに出せる時代だからこそ、人のこだわりや偏愛、人間らしさみたいなものが起点にある体験が、人を巻き込めるんだと思います。
■ チーム発足の経緯とコンセプト:Z世代という括りへの違和感と、「フツウ」を崩すための選択

──コレクティブの立ち上げはどのような流れで進んだのでしょうか?
浅井: 最初は「Z世代特化型チーム」を作って欲しいという話があったのですが、その括りでまとめられることにはだいぶ違和感があったんですよね。。5年前ならともかく、今さらZ世代という言葉に当てはめるのは抵抗があって、別の切り口を模索させてほしいとお願いしました(笑)。 ISの立ち上げにあたっては、今までの博展の強みを体現するような「実現力とクオリティで空間を作る」という方向性とは逆のチームを作ろうと考えました。博展の王道とは真逆のアプローチを見せることで、自分たちの存在意義を通しやすくする目論見もありましたね。
僕らは空間施工ではなく体験発想を目的としたチーム。博展はしばしば「tangible(有形)」と称されることが多いので、それとは逆の「intangible(無形)」をつけ、新しい体験を作っていく集団にしていこうと「Intangible Studio」と名付けました。

──そこで集まったのが木下さん、竹中さんですね。お二人がチームに参加した経緯は?
木下: 僕は元々、空間だけでなくグラフィックや映像などの領域にも関わっていて、そうした案件を増やしたいと思っていました。浅井とは同期で、普段から「こういう面白いことやりたいよね」と空間以外の企画の話をよくしていたんです。そこから自然な流れでチームに合流しました。
竹中: 私は正直、キャリアに悩んでいたタイミングでした。プロデュース部で長年同じ領域を担当してきて、このまま漠然とマネージャーの道に進むのかな?と、自分がやりたいこととのギャップに悩んでいました。集大成となる案件が終わったら次のステップへ進もうかと考えていたのですが、その頃にISから「今、人がいなくて大変だから少しの間だけでも手伝ってくれない?」と声をかけられて。違う領域の仕事に触れるのも良い刺激になるかなと思って参加したのですが、いつの間にかISが本格的に組織化する話に進んでいて、気づけばすっかりのめり込んでしまっていました(笑)。

──「フツウを崩す体験発想集団」というコンセプトにはどんな思いが込められていますか?
浅井: 僕らの一番の価値は、「体験をつくれること」です。空間はもちろん、Webサイト、広告、グラフィック、そこから生まれる話題作りまでを一連の流れで繋ぐ。それが人の感情に直接刺さりやすいと思ってます。今はコンテンツが溢れていて、みんな少し不感症になっている。そんな中で心を動かすには、みんなが「フツウ」だと思っている固定概念を崩す一連の体験を作るしかない。そして、それを実社会で実施できるのが博展に所属してきた僕らの武器になると思っています。「現実的」と「非現実的」なアイデアの境界を行き来しながら、生み出していくのがISの強みですね。
■ ISの独自性とスタイル:「受発注」ではなく「共創」で生み出す体験
──ISでは企画から制作まで一気通貫で手がけていますが、社内の通常のプロジェクトとは違うアプローチなのでしょうか?
木下: そうですね。決まったお題に応えるというより、「どう表現したいか」というクライアントからの要望や「そもそも何をどう表現すべきか」といった本質的な部分から一緒に入り込ませていただいています。その上で、空間なのかグラフィックなのか、最適なアプローチを考えて自分たちで実現していくスタイルです。
浅井: 通常の空間案件だと、どうしても箱(空間)の中をどうかっこよくするかという部分に特化しがちで、「そもそもなぜこれをやるのか」に立ち返る時間が取りにくいこともあります。そのため、僕らは「空間デザインのクオリティを高められます」とアピールするのではなく、「空間やグラフィック、そしてその後の話題作りに至るまで、ユーザーの体験とコミュニケーションをすべて一連の流れとして繋げて設計できます」というご提案をさせていただいています。

──クライアントとのプロジェクトの進め方に、独自のこだわりはありますか?
浅井: 基本的に「こういうものを作ってください」という従来の受発注の関係ではなく、クライアントも一緒のチームとして挑戦していく「共創」の関係性を心がけています。例えば今進めている『平成恋愛展』の案件でも、すでに決まっていた前提を一度大きく見直して、「こっちのほうが絶対にいい体験になる」と深掘りしました。
──前提を大きく見直すような提案に対して、クライアントから戸惑いの声が上がることはありませんか?
浅井: 意見が対立するということはなく、私たちが「本気でそのプロジェクトを一番良い形にしたい」という熱量を持って向き合うことで、最終的には同じ目標に向かって伴走していただけることが多いです。例えば以前の提案のときは、事前に商品をひたすら食べまくってミーティングに臨み、「マジでこれのために考えてきました」という本気度を冒頭から伝えたことで、相手も「なるほど」と耳を傾けてくれました。
竹中: うちらのチームは、3人とも性格が似ていて、「面白そうだからやっちゃおう!」と、損得勘定を抜きにして全力で取り組んでしまうところがあるんです。後から「あれ、こだわりすぎて時間がいくらあっても足りないかも?」と全員で頭を抱えることもあるんですけどね(笑)。だからこそ、計算よりも面白さを最優先にして熱量を注ぎ込めるんだと思います。

■ 直近の展開①:平成の恋愛を追体験する『平成恋愛展』の全貌
──直近の活動として『平成恋愛展』を手がけられているとのことですが、どのようなイベントなのでしょうか?
浅井: 平成30年間の恋愛の軌跡を展示するイベントです。
ただ懐かしむだけではなく、展示の中にストーリーがあり、それが現実世界とリンクしているというモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)構造を取り入れています。
一言で言うと「平成Loveモキュメンタリー」ですね。
──具体的にどんな体験ができるのでしょうか?
浅井: 初期(1989-1999)、中期(2000-2009)、後期(2009-2019)という3つの時代に分けて展示を行っています。例えば初期なら「チョベリバ」といった当時の独特な言い回しや若者の当たり前が並びます。現代の目線で見たときのギャップを感じつつ、時代が変わっても変わらない本質的な部分も楽しんでもらえます。 ゴールとしては、来場者がこの空間で当時の生々しい恋愛観を浴びて、「俺、あのときさ」と勝手に自分の恋愛を語り始めたり、親子で世代間の違いを語り合ったりするような現象を巻き起こしたいですね。

──ISとして、見どころはどこですか?
浅井: 会場全体の空間設計から、入り口の映像、巨大な平成図鑑のグラフィックやコピー、細かい小物に至るまで、全制作物を僕らが一貫してディレクションしている点です。すべてのコンテンツが裏のストーリーとリンクしていて、ディテールをどこまで作り込めるかに今燃えています。単なる懐かしい展示物の寄せ集めではなく、全体が一つの体験として編集されているのが僕ららしさかなと思います。
■ 直近の展開②:欲望をエンタメ化する架空の企画集「煩(Bon)」
──もう一つの取り組みとして、架空の企画を集めた「煩(Bon)」を制作されているそうですね。
浅井: はい。自分たちは「体験発想集団」なので、まずは「このチームと組めば新しいものが生み出せるかもしれない」と思ってもらうことが大事です。そのために、自分たちの欲望や「こんなことやったら面白そう」という邪な気持ちをエンタメに昇華させた企画のプロトタイプを集めています。煩悩から生まれているから「煩(Bon)」と呼んでいて、これが僕らのスタンスを示す営業ツールにもなるんです。
──具体的にはどんなアイデアがあるんですか?
木下: 「乳搾りししおどし」という企画があります。これは僕が飲んだ帰りに、歩いているときにふと頭に浮かんだ言葉なんです(笑)。「ししおどしって面白くないですか」という言葉の響きから、「これをグラフィックにしたらどうなるか?」「空間に落とし込んだらどんな体験になるか?」と、いろんな方向へのアウトプットを広げていきました。

浅井: 他にも「消失運行」というバスツアーのホラーイベント企画や、「POIPOP」というゴミを捨てる動作によって生まれる音をで音楽化して楽しく社会課題に触れてもらう企画など、ジャンルはバラバラですが現在50個ほどストックしています。これらはWebやSNS上で公開したり、カードゲーム化など行う予定です。仮にアイデアをオマージュではなくパクられたとしても「自分たちのほうが先に生み出していた」と示せれば十分かなと(笑)。「こんなに大量に体験アイデアを考えて、制作機能も持っているチームなんだ」と伝われば成功だと思っています。

■ 今後の展望とメッセージ:自主興行と新たなクリエイターの形
──最後に、今後の展望や共創していきたい相手について教えてください。
木下: 2026年は「ISスタイルの確立と代表作を作る」ことを目標にしています。今後一番やりたいのは、「自主興行」ですね。クライアントのプロモーションを受けるだけでなく、自分たちでプロダクトやコンテンツを作り出せる組織にしたい。それに共感してくれた企業から「プロモーションをお願いしたい」と言われるような形を目指しています。
竹中: プロダクト化の第一歩として、企画集の中にあるアイデアを実際に使えるプロダクトとして形にしていく動きも見えています。
浅井: 今後共創していきたいのは、「既成概念にとらわれず面白いことをしたい」と考えているブランド担当者やスタートアップ経営者、自治体の方々です。例えば、「サステナブル」という領域は真面目すぎる部分があると思うんですが、「楽しく遊んでいたら結果的にサステナブルだった」というような新しい概念を作りたい。他にも「お葬式をめちゃくちゃ楽しいエンタメにする」とか、何か新しい気づきや体験を生み出したいと考えている方と組めれば最高ですね。

──チームの未来像はどのように描いていますか?
浅井: 空間だったら木下、言葉や物語だったら竹中、全体の体験を構築するのが浅井のようにまずは3人が確立しつつ、今後はデジタル領域のプランナーやビジネスプロデューサーなど、異なるジャンルのメンバーが増えていくとさらに楽しくなるはずです。 博展という、実現力があって規模の大きな仕事ができる環境を活かしながら、コレクティブとして各々が価値を発揮する。そんな新しいクリエイター集団の形を体現していきたいですね。

Intangible Studio
博展のクリエイティブコレクティブ。体験型展示『あの職員室』の空間デザイン・美術演出や、東京ドームシティ アトラクションズ『暗闇婚礼 蠢一族お化け屋敷』の企画・施工の実績を持ち、感情や記憶といった「形のないもの」をデザインし、体験へと昇華させる「フツウを崩す体験発想集団」
https://www.instagram.com/intangible_studio/
Intangible Studio Member

浅井 玲央 / Leo Asai / Planner
新卒で博展へプランナーとして入社。
BtoCのブランドプロモーションやホテル、お化け屋敷まで、思い出に残る楽しい体験を企画制作する。空間 / 映像 / プロダクト / 広告など手法には囚われず、一貫した体験設計を行う。

木下 侑樹 / Yuki Kinoshita / Designer
2021年新卒入社。主に外資系 スポーツ / アウトドア /ファッションのブランドPRイベントや、プレスプレビュー、ライブ演出のデザインを主に担当。ファニチャーやプロダクトの設計や、イラストレーションなど幅広いジャンルに取り組む。

竹中 真由子 / Mayuko Takanaka / Directer
新卒で博展に入社後、ブランド部門のプロデューサーを担当。
Luxury業界のリーダー経験を経て、現在はディレクション業務を行いつつ、コピーや脚本制作等、言葉を起点にクリエイティブ領域の幅を広げている。
Writing/Editing:浅井亜紀子
Photo:村上大輔