はじめに

デジタルデバイスの発達と、それに伴うソーシャルメディアの爆発的な普及により、生活者は日々膨大な情報に触れています。

そのような状況において生活者の心を動かし、購買へと導くためには、広告のみに頼った宣伝やイベントによるブランドストーリーの提示だけではコミュニケーションが不充分になりつつあります。

では、企業やブランドが生活者の認知を促し、エンドユーザーを消費行動に導くにはどのような施策が求められているのでしょうか。

今回は博展でプランナーをしている中島が登壇し、具体的な成功事例をご紹介しながら、それらの成功した要因を分析していきます。

こんな方におすすめ

  • 広告やイベント開催といった、単発での宣伝活動による顧客獲得に難航している方
  • ユーザーの消費購買までのストーリーを包括的に計画・実施したいとお考えの方
  • withコロナ時代における顧客獲得にお困りの方

目次
オンラインとオフラインの統合
オンラインとオフラインの融合-3つの方向性
オンラインと直接体験、それぞれの価値と現状
これまでの施策とこれからの施策
CASE STADY
ケースから見る成功の因数分解
まとめ

 オンラインとオフラインの統合

展示会やイベント開催といったオフラインによるマーケティングとオンラインメディアを活用したマーケティングの距離は、SNSやアプリケーションの発達によりどんどん近接化し、シームレスになっています。

2015年頃までにはオンラインでの情報接触により実店舗での購買を促す、O2O(オンライン・ツー・オフライン)と呼ばれる仕組みが確立され、一般的になっていました。

その後さらなる情報獲得手段の多様化に伴い、顧客が自身の状況に合わせて最も好都合な手段を選び、消費活動が行われるようになります(オムニチャンネル)。

近年注目されているのが、オンラインとオンラインが完全に融合し、ユーザーがその区別を意識しない顧客体験の最適化を目指したOMO(Online Mergers Office)というマーケティング手法です。それぞれが相互に利用を促進するシステムを確立することで消費を活性化させることを実現しています。

リアルな場を提供する展示会・イベント業界では、オムニチャンネル型からOMO型への移行を感じさせる事例も増えています。

オンラインとオフラインの融合-3つの方向性

オンラインとオフラインの融合したイベントは大きく分けて3つの方向性が挙げられます。

  • イベント・店舗のショールーム化に伴い、実際の店舗ではブランド体験(ブランドの世界観やイメージを体験すること)を提供し、決済にはオンライン決済を用いるといった、オンラインとオフラインを融合させた手法
  • オンラインでのキャンペーンやプロモーション活動の起爆剤としてイベントを活用する方法
  • オフライン会場に人々が集まり、オンライン上での活動に参加する方法【例:e-sportsの大会など】

以上の手法は多くの企業やブランドがマーケティング活動にて活用している状況にあります。

オンラインと直接体験、それぞれの価値と現状

オンライン化が急速に進み、生活者は自分の好きなタイミング、チャネルで情報を取得することができるようになりました。

一方で、オンライン上の情報が過多となる現状においては、発信した商品やブランドの情報が数多ある情報に埋もれてしまい、発見されにくくなる、魅力を感じにくくなるという状況も生まれてくるのではないでしょうか。

先に示したのは、企業広報戦略研究所が2019年に行ったアンケートの結果です。

ユーザーの47.9%、約2人に1人がサービスを直接体験することでブランドの魅力を感じているという結果が出ました。

このアンケートの結果からもわかる通り、近年では体験型のコンテンツ・イベントは増加傾向にあります。一般生活者のイベント等体験型のコンテンツに対する価値観にも変化がみられ、リテラシーも著しく向上しています。

このような状況においては、ブランドの世界観をリアルな場で表現するだけでは、消費活動を活性化するには不十分になってきていると言えると思います。

現状のまとめ

・単にオンラインに頼った施策を打ち出すだけでは他の情報に埋もれてしまう恐れがある
⇒ターゲットの興味を引くような効果的なオンライン施策を練る必要がある
・オフラインでの体験が価値を発揮するが生活者の要求も高度化している
⇒提供するサービスの質の向上に加え、イベント後の生活者の行動について施策が必要
・withコロナの時代において、リアルな体験の場では特別な体験の提供が求められる
⇒人数も規模も考慮した工夫が必要である

 これまでの施策とこれからの施策

今までは以下のようなフローに従えば、充分にマーケティング効果を期待できた時代もありました。

  1. 良い商品・良い企画・良いブランドストーリー(ブランドや製品が生まれたり作られたりした由来を分かりやすく伝えるために物語化したもの)を用いてCM、TV、デジタルコンテンツなど不特定多数の人々が触れる媒体での「宣伝広告」活動。
  2. イベントやキャンペーンによって新規ユーザーを大量に獲得し、自社のwebサイトやアプリ、ユーザー同士のコミュニティーといったオウンドメディアに送客する。

しかし、顧客がブランドを知ったり商品を認知したうえ、消費活動まで発展するまでの流れは実に多様となってきています。

 企業やブランド側から打ち出した施策が必ずしもユーザーの消費活動の入口となっているとは限らず、企業側から発信された情報のみを消費活動のきっかけとするだけでは不充分なのです。

ではそこで取りこぼした生活者を掬いあげるための施策とはどのようなものでしょうか。

例えば、口コミや商品レビューは企業側からの情報発信ではない、ユーザーの消費行動の大きなきっかけのうちの一つとなっています。

これら エンドユーザー側から発信される情報の質と量を向上させることが、より包括的なマーケティング活動の鍵となるのです。また、生活者側をマーケティング起点とすることは、消費体験への障壁を下げることに繋がります。

  • ブランドや企業に対する理解が深い生活者(ファン)の創出、育成
  • ユーザー同士のコミュニティーを提供すること

これらの施策を効果的に実行することで、身近な体験からユーザー同士が消費活動を相互に促す仕組み造りをする必要があるのです。

 CASE STADY

①知名度拡大とファン醸成を目的としたケース【某食品ブランドの場合】

課題: 当時、該当の某食品ブランドは大阪での知名度が低く、PR基盤が無い状態でした。
そこで下記の図のような流れで現状を分析。課題解決に挑みました。

課題解決の流れ:
今回のケースはブランド・製品の知名度が低い地域でのPRとなったため、イベント開催前にある程度生活者がブランドを認知することで集客率を向上させなければ、イベントの効果が発揮出来ない状況でした。
そこで、生活者がイベントに到達するまでのフローについて吟味し、情報を効果的に発信することで生活者に対してアプローチすることになりました。
ブランドについて生活者が予め理解した上でイベントに参加するための施策として、ターゲットである主婦層を視聴者として抱えるTV番組内の枠から情報発信のほか、様々なチャネルを活用し、オンライン、オフラインともにターゲット生活圏内で情報が溢れている状態を設計しました。
また、イベント後の施策として、SNS上でユーザー同士の交流の場を提供。イベント開催後にもユーザー同士でコミュニケーションを取ることが可能になるような環境を整備しました。
更に、ターゲットの生活に近しいwebメディアの取材を通してイベント現場の情報を広げるなど、話題化および新規顧客の取り込みを狙いました。

結果:
この施策を実施した結果を以下の表にまとめました。

上記のグラフにあるように、イベント来場者のうち約50%が事前情報を取得してからの来場となり、口コミを利用したファン層の拡大に成功しました。また新規SNSのフォロワーや口コミ発信社の属性が計画字のターゲティング属性と一致するという結果を導いたのです。

ケースから見る成功の因数分解

成功例のポイントは何でしょうか?まとめてみました。

①生活者起点で考えた企画であること
⇒顧客が誰なのかを見極め、ユーザーの行動を分析したことで、ユーザーによって盛り上がりが作られるコミュニケーションを設計することが可能になった。そのため、購買プロセスに生活者自身の体験が落とし込まれ、持続的な関係構築に繋げることが可能に。

②オンオフ統合の”ロングターム”で顧客の体験を設計しこと
⇒今までは生活者と向き合う方法としてブランドストーリーのアップデートがメインであったが、それに加え、事前事後のやり取りを含めたブランドに関する体験やサービスを向上することで、消費活動の最大化を導いた。

プロモーション領域では短期的な成果を求める傾向にあるが、長期施策の場合は体力や気力を使う分、ブランドの持続的成長・資産構築が可能になる。

③ブランド推進チームとして、部門横断しながら推進したこと
⇒それぞれの領域が個別に行動するだけでは、持続的な成功は見込めない。
ブランドを「ひとつの資産」と認識し、領域を横断して連携することが更なる成長に繋がる。

⇒ブランディングはトップダウンで行う
顧客体験を管理する体験設計チームを据え、全体を牽引するシステムを構築することが効果的である。

 まとめ

ブランドや企業のマーケティング活動の方向が、生活者の方向を向いている事が重要であり、方向性さえ間違っていなければ、新しい時代を迎えたからといってブランドづくりの本質に変わりはありません。
混乱期に直面しているからこそ目先の課題に対してパニックを引き起こすことなく、地味に地道にブランドづくりに励む必要があるのです。
実務者が今やるべきことは施策の管理ではなく顧客体験の設計です。 オンラインか、オフラインか、という選択に囚われて思考停止してはなりません。生活者とどのようにコミュニケーションをとっていくべきであるのかに集中すべきです。
目先の手法にとらわれず、地道に取り組むことで、その活動全体をみている生活者と一緒にブランドの未来を変えることができるのです。