博展×東合板商会×FabCafe Tokyo コラボ企画
2017年にスタートしたデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」世界屈指のミックスカルチャー都市である東京を舞台に、世界中からインテリア/アート/ファッション/テクノロジー/フードなど多彩なジャンルをリードする才能が集結し、都内各所で多彩な展示を開催しています。本年は2025年10月31日〜11月9日に開催。博展は東合板商会と共同出展を行い、カラーMDFを随所に多用した空間をつくり、その可能性を示しました。
詳しい出展内容とプロセスは以下をご覧ください。
https://note.com/hakuten_corp/n/nf3cda7c0b58e
本記事では、 『 Cooked Matter / Crafted Space 調理する素材、構築する空間 』の会期中にFabCafe Tokyoで開催した特別トークイベント『カラーMDFはデザインをどう変えるか?』の様子をお届けします。
当日は、東京オリンピックエンブレムのデザイナーであり、MDFを用いて長年創作を続けている野老朝雄さんをゲストに迎え、カラーMDFの魅力や素材との触れ合いから生まれていく体験についてセッションが行われました。会場では約40名の来場者がカラーMDFを囲み、領域を越えた視点で素材とデザインの関係を探っていく場となりました。

【イベント概要】
カラーMDFはデザインをどう変えるか?
-DESIGNART TOKYO 2025 『Cooked Matter / Crafted Space 調理する素材、構築する空間』出展記念イベント-
日時:2025年11月6日(木)
会場:FabCafe Tokyo
【登壇者】
野老 朝雄 美術家
安藤 和彦 東合板商会 専務取締役
金岡 大輝 FabCafe Tokyo COO 兼 CTO
川井 良輔・戸頃 綾・高橋 亜美 博展『Cooked Matter / Crafted Space 調理する素材、構築する空間』プロジェクトメンバー
■素材、「カラーMDF」について

まずは、東合板商会の安藤さんより展示のメインマテリアルであるカラーMDFについて素材紹介が行われました。東合板商会は、博展の制作スタジオT-BASEのすぐ近くに工場を構えています。1960年に”木の町”東京・深川で創業し、その後新木場に移転。現在も林業と深く向き合いながら、主に合板を扱う販売事業を営んでいます。
そんな東合板商会が現在注目している素材の一つがカラーMDFです。安藤さんは、「木材を繊維状に粉砕して乾燥させ接着剤と混ぜて板状に成形するMDF。その製造工程の途中、接着前に染料を加えることで、芯まで鮮やかな色をつけた製品です。東合板が取り扱うカラーバリエーションは9色。繊維状態の木材を直接染色することから、色合いが均一になりすぎず、色画用紙のようなナチュラルな発色と風合いが魅力です。アジアやヨーロッパなど海外では建材としてすでに活用されていますが、日本では導入から15年が経過した現在も消防法や建築基準法の観点から建材として用いることができず、まだ広く利用されているとは言い難い状況です」と、素材の特徴と現状の課題を説明しました。
そして安藤さんは、カラーMDFのハードルとなっている消防法や建築基準法など条件面の課題を解決していく推進力として、「まずは素材の魅力や可能性を知ってもらい、さまざまな活用方法を積極的に考えられる場や人を増やしていくこと」が大切だと語ります。
そこで、体験や展示空間の制作を得意としながら独自の制作拠点があり、素材に対して興味深く手を動かしていくことができるクリエイターがいる博展であれば、カラーMDFの道を切り開くようなきっかけの場をつくれるのではないか――。そう声をかけたことが、今回のコラボレーションにつながりました。
カラーMDFという一つの素材の未来について、クリエイティブが持つ力と掛け合わせて課題をクリアしていければ、より幅広い場面で活躍していく可能性があるのではないか。そう思わせてくれる安藤さんのトークでした。
■マテリアルリサーチで見えたカラーMDFの特性と展示のゴールについて

続いて博展から、DESIGNART展示メンバーの川井・高橋・戸頃の3人が登場。展示公開に至るまでどのようなプロセスを踏んできたのか、マテリアルリサーチの様子や考え方を紹介しました。
今回、博展のメンバーにとってもまだカラーMDFは馴染みが薄く、実際に扱うのはこのプロジェクトが初めてだったそうです。戸頃は当初の状況について、次のように語りました。
「本来MDFという素材自体は、モック制作などで使うことはあっても、意匠の主役として扱われるイメージはあまりありませんでした。だからこそはじめはどの側面を切り口にすべきか、なかなか落とし所の想像がつかなかったんです。そこでチームでは、まずとにかく手を動かしてカラーMDF固有の特性の解像度を上げていくことを大切に進めました。メンバーそれぞれの視点で”仮説と検証”を繰り返し、素材と丁寧に向き合っていくうちに、だんだんとカラーMDFのポテンシャルが見えるようになってきて面白かった」
その言葉どおり、写真とともに紹介されたマテリアルリサーチのプロセスでは、検証を重ねるたびに表情を変えていくカラーMDFの姿が印象的でした。


その過程を次のように振り返ります。
「液体状にして圧縮、切削、石の質感の転写、曲木の応用、ブリーチ・・など、チームはさまざまな加工・検証を重ねていきました。また、フリーのアーティストとして活動している鍋梨セシルさんとコラボをして、空気の膨張を用いて変形させる試みも学びました。通常の木材とカラーMDFでは繊維の構造が全く異なるので、水分を含むと少し粘土のような感触になったり、削るとゴソゴソとした断面が現れて布のような質感になったりします。そうした違いを一つずつ見つけていきました」
続いて高橋は、3Dモデリングと実物検証を往復しながら複雑なカーブベンディングの構造を詰めていった実験プロセスを紹介しました。「カラーMDFは上質な色が板の芯まで染まっていて、かつ通常の木材よりも切削の加工がしやすい。そのため、ソフト上で作成した複雑なデータでもファイナルアウトプットと同じ条件のモックアップを素早く作ることができました。私はPCソフト上で色の重なりやパターンの見え方を想定しながらそのデータをすぐに実物に反映し、壁面として成立するかの確認や曲率の調整をしていくデジタルとアナログの行き来を繰り返していました。」と語り、カラーMDFとデジタルファブリケーションとの親和性の高さを伝えました。

博展メンバーは上記のように素材研究を通してカラーMDFのあらゆる可能性を実感した一方で、それらは通常の素材検討で用いられる素材のサンプルなど、スタンダードな接点では伝わりにくいことを課題に感じたといいます。そこで、「自分たちが発見したカラーMDFのポテンシャルを訪れた人にも共有でき、あらゆる可能性が創出されるような体験の場」となる展示をゴールに設計していったそうです。
展示空間は、カラーMDFによって床・壁・天井から什器、プロダクトに至るまでがひとつづきに構成され、各所で検証の中で見つけた特徴的な性質や、MDFと相性が良いと感じた手法を抽出し、キャプションとともに紹介されているとのこと。
川井は展示への期待を込めて、次のように語り、第二部を締めくくりました。
「展示を訪れた際には、実際に触れたり空間に入ったりしながら、素材の見え方が変わっていく体験を素直に楽しんでほしいです」


■トークセッション後半 野老朝雄氏が語る、カラーMDFの可能性
イベントの後半は、ゲストに東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムも手がけた美術家の野老朝雄さんと「FabCafe Tokyo」 COO 兼 CTOの金岡大輝さんを迎え、東合板商会 安藤さんと博展 川井を加えた4名によるディスカッションコーナーへと移りました。
まずは野老さんと金岡さんより、お二人が参画されているプロジェクトの紹介がありました。野老さんの創作の根底にある言葉として、『個と群』というものがあります。単純なかたちが一定のルールでつながり、全体を構成するしくみは、人工物、自然現象を問わず現れる普遍的な原理です。東京大学教養学部で開講されている『個と群』(文理融合ゼミナール)では、受講生が野老さんと東京大学の舘知宏教授と協働して、「個と群」の創造プロセスを実践しています。
2021年からは、アウトプットや研究の軌跡を展示する『CONNECTING ARTIFACTS つながるかたち展』を開催しており、今年度の見どころについてもお話しいただきました。

続けて、展示をはじめ普段の制作活動でもMDF・カラーMDFを積極的に取り入れている野老さんから、素材のポテンシャルと今後の可能性について語られました。
野老さん:「MDFは木材とは思ったことがなく、とても難しい素材だと捉えています。プラスチックと木の間みたいな素材だと理解していますね。これまでは基本的に着色されたものではなく、いわゆる無着色のMDFの素材のまま製品創作に用いていたことが多かったですが、今回はカラーMDFで制作を行いました。結論からいうと、実に素晴らしい素材だと思います。塗装でつくるビビッドな色とは違って、素材の茶色みと着色されたカラーがブレンドされている自然な風合いが面白い。色の組み合わせやカットの工夫次第で、デザインからアートまで幅広い可能性があるのではないかと思います。そして、個人的には今後もっと色の展開がされたら嬉しいなと先ほど安藤さんに伝えました」
トークセッション終盤では、材料工学的な視点と素材表現の掛け合わせの面白さへと話題が移ります。「普段の創作では、ひたすら単純な作業=板を貼り合わせる作業を繰り返しています。結局、見えるものを積み重ねて織りなしているのですが、そのときカラーMDFのように仕上がりとして成立する素材は、その場その色で奥行きや丈(たけ)を生み出すことができる」
といった言葉も交わされ、実際に素材に多く触れてきた登壇者ならではの視点が重なっていきました。


イベント終了後には、登壇者と来場者が素材や作品を囲んで歓談し、そのまま展示会場を案内するツアーも実施されました。


DESIGNART TOKYO 2025にあわせて開催された本イベント。素材との向き合い方を少し変えることで、それぞれの立場で領域を越えた新しい発見のヒントが見出せたのではないでしょうか。合板屋、デザイナー、博展メンバーをはじめ、デザインを学ぶ大学生や商環境設計に携わる専門職の方、さらには地元の方々までが集い、素材を囲みながらあらゆる対話が行われた時間は、博展メンバーにとっても貴重で有意義な時間となったようです。
社内に木工場と制作スタッフを擁する会社だからこそ、意図的につくり手が素材を介して社外の方々とフラットに意見交換する場を設けていくことの大切さに気付かされました。そうした中で生まれるクリエイションの種を伸ばしていきながら、今後もこのような機会を積極的につくっていきたい。イベント終了後のメンバー間ではそんな展望も語られていました。
【topic1】展示の内容が商店建築1月号に掲載されました!
【topic2】SHINKIBA CREATIVE HUBにて、東合板商会の倉庫で展示を再編成し、木材のまちに訪れる人々との新しいコミュニケーションが生まれる場づくりを行いました。



「Hakuten Open Studio」と同時開催された「SHINKIBA CREATIVE HUB」の一環として、東合板商会の倉庫を会場に展示を再編成しました。実際に素材が扱われている木造倉庫での展示は、来場者にとって素材と木材屋、そして街の距離をさらに近づける体験となりました。
詳しい展示内容とプロセスは以下をご覧ください
https://note.com/hakuten_corp/n/nf3cda7c0b58e

Photo:Cecil Nabenashi / Wataru Matsui / Sosuke Fujita / Aya Tokoro
Writer:Kaori Nagami


