BtoB製造業のマーケティングは、消費者向けビジネスとは全く異なる戦略が求められます。長期的な検討プロセス、複数の意思決定者、専門性の高い製品説明など、特有の課題に直面している企業は少なくありません。
本記事では、BtoB製造業のマーケティングにおける課題を整理し、成功するための具体的なポイントや効果的な施策を解説します。
Index
■BtoB製造業が抱えるマーケティングにおける課題
■BtoBとBtoCのマーケティングの違い
■BtoB製造業がマーケティングを成功させるためのポイント
■BtoB製造業向けの効果的なマーケティング施策
■BtoB製造業のマーケティング成功事例
■まとめ
■BtoB製造業が抱えるマーケティングにおける課題
BtoB製造業のマーケティングには、独特の難しさがあります。ここでは、多くの企業が直面している5つの主要課題について解説します。
課題1. ターゲットが限定的でアプローチが難しい
BtoB製造業のマーケティングでは、ターゲットとなる顧客層が限定的です。特定の業界や用途に特化した製品を扱う場合、潜在顧客の母数そのものが少なく、インターネット検索でのボリュームも限られています。
一般的な広告手法では効率が悪く、専門性の高い媒体やチャネルを活用した戦略的なアプローチが不可欠です。
また、ニッチな市場では顧客がどこにいるのか、どのような情報を求めているのかを正確に把握することが難しく、効果的なリーチ方法の選定に悩む企業が多いのが実情です。
課題2. 組織の縦割り・営業部門との連携が不足している
多くの製造業では、マーケティング部門と営業部門が別々に活動しており、情報共有や連携が十分に行われていないという課題があります。マーケティングが獲得したリードが適切に営業へ引き継がれなかったり、営業現場で得た顧客の声がマーケティング施策に反映されなかったりするケースは珍しくありません。
この縦割り構造は、顧客に一貫した体験を提供することを困難にし、結果としてビジネス機会の損失につながります。CRMやSFAなどのツールを導入しても、部門間で使い方や目的が統一されていなければ、効果は限定的です。
課題3. 製品が専門的すぎて、分かりやすく訴求できない
製造業の製品は技術的に高度で複雑なものが多く、その価値を分かりやすく伝えることが大きな課題となっています。技術者や開発者は製品の機能や仕様を詳細に説明したくなりますが、顧客が本当に知りたいのは「この製品が自社の課題をどう解決してくれるのか」というビジネス価値です。
Webサイトや営業資料においても、技術的な優位性を平易な言葉で表現し、顧客視点でのメリットを明確に示すスキルが求められます。動画やビジュアルを活用して、複雑な製品を分かりやすく伝える工夫も重要です。
課題4. 購買者が意思決定するまでのプロセスが複雑
製造業のBtoB取引では、購買決定までに複数の部門や役職者が関与します。現場の技術者、購買部門、経営層など、それぞれが異なる評価基準を持っており、意思決定には通常6か月から1年以上の期間を要します。
この長期的な検討プロセスの中で、顧客との関係を維持し、適切なタイミングで必要な情報を提供し続けることは容易ではありません。初期段階では技術的な詳細を、中期段階ではコスト対効果を、最終段階では導入事例やサポート体制を求めるなど、顧客のニーズは段階ごとに変化します。
課題5. ニッチな市場でリードを獲得することが難しい
すでにお伝えした通り、製造業の多くは特定の業界や用途に特化した製品を扱うため、潜在顧客の絶対数が限られています。一般的なリード獲得手法である広告出稿やコンテンツマーケティングも、検索ボリュームが少ないために十分な効果を得られないケースが多くあります。
また、ニッチ市場では顧客が能動的に情報を探すことは少なく、受動的な接触機会の創出が重要になります。業界専門誌への広告掲載、展示会への出展、専門コミュニティへの参加など、マルチチャネルでのアプローチが必要です。
効率的にリードを獲得するには、ターゲット企業や業界を絞り込み、そこに集中的にリソースを投下する戦略が求められます。
■BtoBとBtoCのマーケティングの違い
BtoBとBtoCのマーケティングは、根本的に異なるアプローチが必要です。ここでは、製造業のマーケティング戦略を考える上で押さえておくべき3つの重要な違いを解説します。
これらの違いを理解することで、効果的な戦略を立てることができます。
取り扱う製品の価格
BtoBの製造業では、取り扱う製品の価格帯が数十万円から数百万円、場合によっては数千万円規模になることも珍しくありません。一方、BtoCの一般消費財は数千円から数万円程度が中心です。
この価格差は、購買決定に関わる人数と承認プロセスに直接影響します。高額な設備投資となるBtoB製品では、現場担当者だけでなく、購買部門、財務部門、経営層など複数の関係者による承認が必要となります。
マーケティング活動においても、それぞれの関係者が求める情報を適切に提供し、組織全体の合意形成をサポートする必要があります。単なる製品の魅力訴求だけでなく、投資対効果やリスク管理といった経営判断に必要な情報が求められるのです。
製品購入までの検討期間
BtoB製造業の製品購入における検討期間は、6ヶ月から1年以上に及ぶことが一般的です。対してBtoCでは、数日から数週間程度で購買決定がなされることがほとんどです。
この長期的な検討期間に対応するため、BtoBマーケティングでは継続的なコミュニケーションが不可欠です。最初の接触から成約まで、定期的にメールマガジンを配信したり、セミナーに招待したりして、関係性を維持する必要があります。
この一連の活動は「リードナーチャリング」と呼ばれ、見込み顧客を育成しながら購買意欲を高めていくプロセスです。MAツールなどを活用し、顧客の行動に応じた適切な情報提供を自動化する企業も増えています。
以下の表は、BtoBとBtoCにおける検討期間と必要なマーケティング活動の違いを示しています。
| 項目 | BtoB製造業 | BtoC |
|---|---|---|
| 平均検討期間 | 6ヶ月~1年以上 | 数日~数週間 |
| 主なマーケティング活動 | 継続的なナーチャリング、段階的な情報提供 | 瞬間的な購買意欲喚起、キャンペーン |
| 重要な指標 | リードの質、商談化率、LTV | コンバージョン率、即時購買率 |
| 活用ツール | MA、CRM、SFA | 広告プラットフォーム、SNS |
購買の動機
BtoBとBtoCでは、購買を決定する動機が根本的に異なります。BtoCの消費者は、感情的・直感的な要素に基づいて購買を決定することが多く、「欲しい」「好き」「便利そう」といった感覚が重要な判断基準となります。
一方、BtoBの購買決定は論理的・合理的な判断が中心です。製品を導入することで得られる具体的なビジネス価値、投資対効果、リスク低減などが重視されます。感情に訴えるだけのメッセージでは、組織的な意思決定を動かすことはできません。
BtoB製造業のマーケティングでは、以下のような要素を明確に示すことが求められます。
- 生産性向上や品質改善などの定量的な効果
- 競合製品と比較した際の優位性
- 導入後のサポート体制やリスク対応
- 類似企業での導入実績と成果
- 長期的なコスト削減や収益向上への貢献
これらのエビデンスを提示することで、購買担当者は社内で稟議を通しやすくなり、意思決定のスピードが上がります。感情だけでなく、論理的な納得感を提供することがBtoBマーケティングの核心です。
■BtoB製造業がマーケティングを成功させるためのポイント
BtoB製造業のマーケティングを成功させるには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、実践すべき5つの核心的な要素を解説します。
これらのポイントを押さえることで、マーケティング活動の効果を大きく高めることができるでしょう。
顧客の本質的なニーズに基づく提案を行う
製造業のマーケティングでは、製品のスペックや機能を並べるだけでは不十分です。顧客が本当に求めているのは、自社が抱える課題の解決策であり、ビジネス上の成果です。
表面的なニーズではなく、顧客のビジネス課題や経営目標といった本質的なニーズを理解し、それに応える提案を行うことが成功の鍵となります。
例えば、顧客が「高精度な加工機械が欲しい」と言っている場合、その背景には「不良品率を下げたい」「納期を短縮したい」「人手不足を補いたい」といった本質的な課題があるはずです。この本質を捉えた提案ができれば、単なる製品販売ではなく、顧客のビジネスパートナーとしての信頼を獲得できます。
顧客理解を深めるには、営業担当者からのフィードバック、顧客インタビュー、業界トレンドの分析などを通じて、継続的に情報を収集することが重要です。
デジタルマーケティングを活用して効率的にリードを獲得する
従来の展示会や飛び込み営業だけでは、限られたリソースで十分な成果を上げることは困難です。デジタルマーケティングを活用することで、効率的にリードを獲得し、育成することが可能になります。
具体的には、SEOを意識したWebサイト構築、技術情報を提供するオウンドメディアの運営、メールマーケティング、ウェビナーの開催、動画コンテンツの制作などが効果的です。これらのデジタル施策は、24時間365日、潜在顧客にアプローチし続けることができます。
また、マーケティングオートメーションツールを導入すれば、見込み顧客の行動履歴を追跡し、興味関心度に応じた最適なコンテンツを自動配信することも可能です。デジタルとアナログを組み合わせた統合的なマーケティング戦略が、現代の製造業には求められています。
事例やデータを活用して費用対効果を具体的に示す
BtoBの購買決定では、感覚的な訴求よりも、具体的なエビデンスに基づいた説得が有効です。特に製造業では、導入事例や数値データを用いて、製品がもたらす費用対効果を明確に示すことが重要です。
以下のような情報を提供することで、顧客の意思決定をサポートできます。
- 導入企業における生産性向上率や不良品削減率などの定量的な成果
- 投資回収期間やROI(投資対効果)の試算
- 類似業界・規模の企業での成功事例
- 第三者機関による評価や認証
- 長期的なコスト削減効果のシミュレーション
これらのデータは、購買担当者が社内で稟議を通す際の強力な根拠となります。単に「良い製品です」と伝えるのではなく、「この製品を導入すると年間〇〇万円のコスト削減が見込めます」と具体的に示すことで、説得力がより高まります。
顧客の社内稟議をスムーズに通し、意思決定を後押しするために提示すべき具体的なデータ項目は以下の通りです。
| 提示すべきデータ | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| 定量的成果 | 生産性向上率、不良品削減率、稼働率改善など | 客観的な効果を示し信頼性を高める |
| 投資対効果 | ROI試算、投資回収期間、長期的コスト削減額 | 経営判断の材料を提供する |
| 導入事例 | 類似業界・規模の企業での成功体験 | 導入後のイメージを具体化する |
| 第三者評価 | 認証、受賞歴、専門家のレビュー | 客観的な品質保証を示す |
ブランド構築により競合との差別化を図る
製造業の製品は技術的に成熟しており、競合との機能差が小さくなっているケースが多くあります。このような状況では、ブランド構築による差別化が重要な戦略となります。
ブランドとは単なるロゴやデザインではなく、顧客が企業や製品に対して持つ総合的なイメージや信頼感のことです。長期的な視点でブランド価値を高めることで、価格競争に巻き込まれにくくなり、顧客ロイヤルティも向上します。
ブランド構築のためには、一貫したメッセージの発信、顧客体験の向上、専門性の発信、社会的責任の実践などが求められます。例えば、技術情報を惜しみなく公開するオウンドメディアの運営や、業界セミナーでの講演活動を通じて、「この分野ならこの会社」というポジションを確立することができます。
短期的な売上だけでなく、中長期的な企業価値の向上を見据えた戦略的なブランディング活動が、製造業の持続的成長には不可欠です。
営業部門との連携強化する
マーケティング活動の成果を最大化するには、営業部門との密接な連携が欠かせません。多くの製造業では、マーケティングと営業が別々に活動しており、情報共有や協力体制が不十分なケースが見られます。
営業部門との連携を強化するためには、以下のような取り組みが効果的です。
- 定期的なミーティングを設定し、リード情報や顧客フィードバックを共有する
- CRMやSFAツールを導入し、顧客情報を一元管理する
- リードの引き渡し基準(スコアリング)を明確に定義する
- 営業現場の声をマーケティング施策に反映する仕組みを作る
- 共通のKPIを設定し、部門を超えた目標達成を目指す
特に重要なのは、マーケティングが獲得したリードを営業がどのようにフォローし、どのような結果になったのかをフィードバックしてもらうことです。このサイクルを回すことで、マーケティング施策の精度が継続的に向上していきます。
営業とマーケティングが一体となって顧客価値を創造する体制を構築することが、BtoBマーケティング成功の基盤となります。
■BtoB製造業向けの効果的なマーケティング施策
BtoB製造業のマーケティングには、業界特性に合った効果的な施策があります。ここでは、実践すべき3つの代表的な施策について、具体的な実施方法と期待できる効果を解説します。
これらの施策を組み合わせることで、認知から購買までのカスタマージャーニー全体をカバーできます。
製品について直接技術者と対話できる場を設ける
展示会やセミナーは、BtoB製造業のマーケティングにおいて今も高い効果を発揮する施策です。製品を実際に見て触れることができ、技術者と直接対話できる機会は、Webサイトやカタログでは得られない価値を提供します。
特に高額で複雑な製品の場合、実物を見ることで購買意欲が大きく高まります。また、顧客の具体的な課題をヒアリングし、その場で解決策を提案できる点も大きなメリットです。展示会では業界の最新トレンドを把握でき、競合調査の機会にもなります。
ただし、展示会やセミナーで最も重要なのは、イベント後のフォローアップです。名刺交換しただけで終わらせず、速やかにお礼メールを送り、継続的なコミュニケーションを図ることが成果につながります。マーケティングオートメーションツールを活用し、イベント参加者に対して段階的に情報提供を行う仕組みを構築すると効果的です。
製品の導入効果をホワイトペーパーで配布する
ホワイトペーパーは、製品の技術情報や導入効果を詳細にまとめた資料であり、BtoBマーケティングにおいて非常に有効なコンテンツです。顧客の検討段階に応じて、異なる内容のホワイトペーパーを用意することで、購買プロセス全体をサポートできます。
ホワイトペーパーをダウンロードしてもらう際に連絡先情報を取得することで、質の高いリードを獲得できる点も大きなメリットです。
効果的なホワイトペーパーには、以下のような種類があります。
- 基礎知識型:業界動向や技術トレンドを解説し、潜在的なニーズを喚起する
- 課題解決型:特定の業界課題とその解決方法を提示し、製品の必要性を示す
- 事例紹介型:導入企業の成功体験を詳細に紹介し、具体的な効果を示す
- 比較検討型:複数の選択肢を客観的に比較し、自社製品の優位性を示す
- ROI試算型:導入によるコスト削減や収益向上を定量的に示す
ホワイトペーパーは、Webサイトでのダウンロード提供だけでなく、展示会やセミナーでの配布、営業資料としての活用など、様々なシーンで活用できます。定期的に内容を更新し、最新の情報を提供し続けることも重要です。
導入先企業へのインタビュー動画を作成する
顧客企業へのインタビュー動画は、製品の価値を第三者の視点から伝える強力なコンテンツです。導入前の課題、選定理由、導入後の成果などを実際の担当者が語ることで、高い信頼性と説得力が生まれます。
動画コンテンツは、複雑な製品や技術を視覚的に分かりやすく伝えることができる点でも優れています。製造工程や製品の動作を実際の映像で見せることで、カタログや文章だけでは伝わりにくい情報を効果的に届けられます。
インタビュー動画を制作する際のポイントは以下の通りです。
- 導入企業の具体的な課題と解決プロセスをストーリーとして描く
- 定量的な成果(コスト削減率、生産性向上率など)を明確に示す
- 技術的な説明は図解やアニメーションを活用して分かりやすくする
- 3分程度の短い動画にまとめ、視聴のハードルを下げる
- YouTube等のプラットフォームに公開し、SEO効果も狙う
動画コンテンツは、Webサイトへの掲載だけでなく、展示会のブースでの放映、営業プレゼンテーションでの活用、SNSでの拡散など、多様な用途に活用できます。制作コストはかかりますが、長期的に活用できる貴重な資産となります。
■BtoB製造業のマーケティング成功事例
前章までに解説した戦略や施策が、実際の現場でどのように展開されているのかを見ていきましょう。ここでは、リアルとデジタルを融合させた体験設計や、Webを活用して技術の可視化に成功した具体的な事例をご紹介します。
事例1:コマツ様 | 第7回 国際 建設・測量展(CSPI-EXPO2025)
建設業界の課題解決と新しい現場の姿を提案するため、国内最大級の展示会「CSPI-EXPO 2025」に過去最大規模で出展した事例です。
年に一度の業界最大の展示会であり、多数の競合企業がひしめく会場において、自社の圧倒的なプレゼンス(存在感)を市場に示す場として活用しました。
単に製品スペックを見せるだけの場ではなく、100小間という最大規模のブースを活かし、顧客と直接的なコミュニケーションを図る「対話の場」として設計。DXソリューションを通じた未来の建設現場の姿を、来場者が没入感を持って体感できる空間を創出することで、既存顧客との関係深化および新規リードへのブランド訴求を強力に推進しました。
事例2:住友化学株式会社様 | 「ひらめきのスミカ」サイト企画・制作
コロナ禍を機に、短期的な展示会の代替ではなく、中長期的なマーケティングプラットフォームとして構築されたWebサイトの企画・制作事例です。
このプロジェクトの最大のポイントは、Web上では伝わりにくい自社の技術や製品の強みを、デジタルの力で「わかりやすく可視化」したことです。
「素材に触れる」をコンセプトに、製品特性を「モーションタイポグラフィー」として表現。ユーザーがWeb上で疑似的に素材に触れ、反応を楽しむ体験型のコンテンツを実装しました。専門的な化学製品の魅力を直感的に伝えることで、広告施策に頼らずとも高い閲覧数と滞在時間を記録し、顧客の関心を惹きつけることに成功しています。
■まとめ
BtoB製造業のマーケティングは、長期的な購買プロセス、複数の意思決定者、専門的な製品という特性を理解し、適切な戦略を立てることが成功の鍵となります。
顧客の本質的なニーズを捉え、データやエビデンスに基づいた提案を行うこと、そして展示会やセミナー、ホワイトペーパー、動画コンテンツなど多様な施策を組み合わせることで、効果的なリード獲得と育成が可能になります。
成功事例から学び、自社の状況に合わせた戦略を構築し、継続的に改善していくことで、BtoB製造業のマーケティングは確実に成果を生み出します。
「専門的な知識やリソースが必要な施策を、すべて社内だけで完結させるのは難しい」「展示会などのリアルな接点とデジタルを効果的に組み合わせたい」とお考えの担当者様は、ぜひ博展にご相談ください。
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