みなさんこんにちは!
Think EXperience編集局の大村です!

Quest ! 】は、都内を中心に新しい店舗体験やイベントについて実際に体験し、月1回更新でレポートしていくコンテンツです。
今回は番外編で、プランナーの2人に代わり私が初めて担当します

目次

・ 急速に進化を遂げている“デジタルアート”の世界
・今回の体験スポット「ライゾマティクス_マルティプレックス」について
・デジタルアートの世界を実際に体験!
・様々な人間がメディウムとなる「ライゾマティクス」
・編集後記

急速に進化を遂げている“デジタルアート”の世界

インターネットの普及とともにアートの対象がデジタルへと拡大し、ライゾマティクスが主力とする“デジタルアート”も年々注目を集めています。

しかし、デジタルアートが注目され始めたのはここ数年の話であり、“デジタルアート”は、他のアート作品と異なり、デジタルであるがゆえにコピー / 拡散できるという特性があるため、普及に時間を要しました。

ここ最近、ブロックチェーン(※1) や、 NFT(※2)といった技術によってデジタルアート作品の唯一性が担保され、複製を防ぐことが可能になりました。

このような背景からデジタルアートは今、加速的に進化を遂げている分野です。
デジタルアートは単に鑑賞するだけではなく、インタラクティブに楽しむことができ、アート表現の幅を広げています。私たち人間の動きをデジタル技術によってセンシングし、それが融合することで1つの作品が完成します。

自分も作品の一部に組み込まれるというインタラクティブ性と刻々と変化する作品の非再現性によって新しいアート体験が定義されているような気もしますね。

※1:ブロックチェーン
取引データをブロック単位にまとめ、分散型のコンピューターネットワークに時系列で鎖のようにつなぎ、保存するシステム
※2:NFT(Non-Fungible Token)
非代替性トークン。ブロックチェーン上に存在する複製が不可能なデータのこと。

ライゾマティクスとは何者?

数学 / プログラミング / 生物学 / アートなど様々なバックグラウンドを持つクリエイティブ集団として、日本だけではなく世界中から高く評価をされ、注目を集め続けているライゾマティクス。

2006年の設立以降、様々な分野の研究 / 技術とアートを掛け合わせた独自の世界観を表現し続け、世界中から注目されています。
Perfumeやサカナクションなど、日本のエンターテイメントを牽引するアーティストのMVやライブ演出を手掛けたり、人間の脳波を解析した体験アートを作成したりと、デジタルアートに留まらず、人×デジタル×空間を融合させた表現を追求するその勢いは止まりません。

「ライゾマティクス_マルティプレックス」について

※プレスリリースより

ライゾマティクス初の大型展示!「ライゾマティクス_マルティプレックス」

ライゾマティクス設立15周年を記念して企画された「ライゾマティクス_マルティプレックス」では、コロナ禍の社会における情報と感情、身体の関係やコミュニケーションの新しい在り方が問われており、変化し続ける世界に果敢に挑むライゾマティクスの活動を複合的に紹介しています!

開催期間:

2021年3月20日(土)~6月22日(火)

※会期中は休館日も臨時開館

会場:

東京都現代美術館

コロナウイルスの影響で「完全予約制」での開催になっています。事前チケットは人気で予約が取れないことも多いので、早めに用意することをお勧めします!

デジタルアートの世界を実際に体験!

展示空間に足を踏み入れる前に、謎のデバイスを受け取ります。

今回の「ライゾマティクス_マルティプレックス」では、デバイスの有無をチケット購入時に選択することができました。今回はせっかくなのでデバイス付きを選択。
ガイダンスと思いきや、「お客様の位置情報や行動履歴を分析するためのものです。」という説明を受け、デバイスがデータ収集のための利用だと知りました。

カチューシャ型のこの機械で来場者の視線の動きを分析するそう。
何かデータをとられているのでしょうか…?



いよいよ展示へ。
入口には「rhizomatiks」のロゴとリゾーム(地下茎)をかたどった「ライゾマティクス_マルティプレックス」のメインビジュアルが。

いよいよ始まるぞ、と期待を胸に中に進みます。

展示は、ライゾマティクスの過去作品からスタート。
15年間の歴史を振り返りながら、クリエイティブな新陳代謝を繰り返すライゾマティクスの軌跡を追うことができます。

また、NFTによってその作品の唯一性を永年に担保されたデジタルアートを意味する“クリプトアート”や、デジタルアートが世の中にどうやって流通しているか、課題や未来の展望を可視化した展示も。(この2つのエリアは写真が撮れませんでした…)

ライゾマティクスは、ブロックチェーンやNFTという抽象度が高い概念を、アートによって表現することにとても長けた存在なのだと改めて感動しました。

デジタルアートにおける、”アート”の範囲はどこからなのか。
私たちが目にしている作品そのものではなく、その「作品を構成するプログラムや情報全てを包括してデジタルアート作品なのだ」と気づくきっかけになる展示でした。

ーRhizomatiks×ELEVENPLAY ”multiplex”

様々なジャンルの女性ダンサーが集まったダンスカンパニー「ELEVENPLAY」とライゾマティクスがコラボレーションした作品。
ELEVENPLAYメンバーのデータ化された身体の動きに基づいて動く四角いキューブと壁面 / 床の2面に投影された映像によって構成されたインスタレーションです。

まず、映像で完成した作品を鑑賞。
四角い無機質な物質と流動的なプロジェクションに少し気味の悪い感覚を覚えました。
単なる映像 / 光 / 音のインスタレーションではなく、人間の動きから着想を得て、人間も作品の一部として存在しているという点にライゾマティクスならではの面白さを感じました。

「このキューブは果たしてどのような仕組みで動いているのだろう」、「カメラワークはどうなっているんだろう」という疑問が心の中に次々と浮かんできます。

奥のエリアに進むと、先ほど鑑賞した「multiplex」の撮影現場と思わしき空間が。

実際に作品と同じ動きを見られるので、先ほど作品を見て抱いていた多くの疑問を一つずつクリアにしていくことができます。
カメラのリアルタイムの動きまで観ることができ、大満足。

しかし、やはり“人”の存在がないと、先ほど作品を鑑賞して感じた違和感をあまり感じないような気がしました。

一見すると対極にあるように感じるデジタルとアナログの世界が融合し、1つの作品としてまとまっている様子や、映像で見えている動きがリアルで起きていることに対して多少の気味の悪さを、いい意味で感じました。

人の存在がインスタレーションの効果を高め、インスタレーションが人の動きをさらに美しく魅せるという相互関係をうまく活用するライゾマティクス、恐るべしです…。

ーparticles 2021

国内外で多数の受賞をした、2011年の作品「particles」を2021年バージョンにアップデートした展示。

アートが開始する前はカウントダウンを投影しており、没入感や期待感をあおられているような感覚でした。

螺旋型の大きなレールの上をボールが転がり、光とともに転がり下っていく美しい空間。
実はこの光、ボールが光っているのではなく、転がるボールの動きを正確にセンシングし、そのボールにレーザーを当てて光らせているのだそう。
まさか動くボールにレーザーを当てているとは…高性能レーザー / 技術の発展に脱帽。
暗闇の中で点滅する光が幻想的でとても美しい作品でした。

ーエピローグ 

展示作品の中身 / 構成 / 裏側 / プログラムの部分を可視化し、展示。

再び全体を想起するとともに、普段なかなか見ることのできない構造 / 制御システムの部分を展示することで、構想段階からのプロセスを感じ、そのからくりに触れることができるとても貴重な体験でした。

入口のモーショングラフィックのデータ解析画面

ライゾマティクスが保有する全ソースコードから単語をベクトル化し、2次元上に配置しているのだそう。

multiplex

天井に設置されている24台のカメラの映像から赤外線発行するマーカーの3次元位置を計算しているそう。

このキューブの位置情報は1秒間に120回も他のコンピューターに送信されているとか。

←15台のプロジェクターに対して、自動走行するキューブやカメラのトラッキング情報を用いて映像をリアルタイムでレンダリングする様子。

キューブやカメラの動きを分析して、映像も適切にリンクすように指示を出している、ということですね。

「particles 2021」

レール正面上空に設置された10個のレーザーをパターン制御するソフトウェア。レール上のボールの位置を3次元で予測し、ボールに対して正確にレーザーのパターンを投射することが可能に。

そして最後に、入り口で渡されたデバイスによって自分が作品の一部として鑑賞されていたのだと知りました。

来場者の位置情報を分析してビジュアル化し、本展示に加えウェブサイトでも配信。オンライン / オフラインの複合的な鑑賞を可能にしているそう。

この展示を見て、それまではデジタルや様々な学問 / データを駆使し、新しいアートを作り上げるライゾマティクスに対する感動をしていましたが、加えて自分という存在もアートになり得るのだという気付きを得ました。

一見遠い存在に感じるデジタルアートの世界は、もしかしたら自分が考えていたよりも身近な存在なのかもしれない。
デジタルの世界とアナログの世界の境界線は実はとても曖昧で、私が気付かぬうちにアート作品としてデジタルの中に入り込んでいることもあるのかもしれません。

様々な人間がメディウムとなる「ライゾマティクス」

この展示でライゾマティクスの方々が1番伝えたかったメインメッセージは何か。
私は「“ライゾマティクス”が媒体(メディウム)になり、デジタルとアナログを融合させることでデジタルアートは成り立っている」ということなのではないかと考えました。
様々なバックグラウンドを持つライゾマティクスのメンバー一人ひとりの知識がメディウムとなり、デジタルと融合することによって新しい価値を生み出しているのかもしれません。

同時に、私たちひとり一人の動きや存在、更には生命そのものがデジタルと融合し、メディウムとなり、アートを創造する可能性があると伝えることで、デジタルアートの本来の姿を問いかけてきているように感じます。

デジタルとアナログ、一見対極にあり相反する両者が融合した未知の空間こそ、ライゾマティクスの創り上げる世界なのかもしれません。

編集後記

これまで、「デジタルアートはデジタル技術の進化によって生み出されたもの」という印象を強く持っていました。そこに人間の努力や知恵 / 研究を意識することがあまりなかったように思います。

「ライゾマティクス_マルティプレックス」で、作品の背景にある研究や情報収集 / プログラミングに加えて、実験や失敗の過程まで順に見ることができて、デジタルアートの範囲について自分の中で再考するきっかけになりました。
普段は交わることのない異質なものが融合することで新しい世界を切り開くライゾマティクス。これからの作品もとても楽しみにしています。