BtoBマーケティングを進める中で、「どの指標を追うべきか分からない」「KPIを設定したが成果に結びつかない」と感じている方は少なくありません。適切なKPIを設定することで、マーケティング活動の成果を可視化し、組織全体で目標達成に向けた行動が可能になります。

本記事では、BtoBマーケティングにおけるKPI設定の基本から、フェーズごとの具体的な指標例、さらに失敗しないためのコツまでを分かりやすく解説します。

Index

■BtoBマーケティングのKPIが重要な理由
■BtoBマーケティングのKPI設定の基本ステップ
■【フェーズ別】BtoBマーケティングKPIの指標例
■BtoBマーケティングのKPI設計で失敗しないためのコツ
■まとめ

■BtoBマーケティングのKPIが重要な理由

BtoBマーケティングにおいてKPI(重要業績評価指標)を設定することは、事業成長を実現するために重要です。ここでは、なぜKPIが必要なのか、その本質的な理由を6つの視点から解説します。

ゴールへの道筋を明確化するため

KPIを設定する目的は、KGI(最終目標)までの道筋をはっきりさせることにあります。たとえば「年間受注数100件」というKGIを達成するためには、そこから逆算して「月間商談数」や「月間リード獲得数」といった中間指標が必要になります。

KPIを設定することで、漠然とした最終目標から逆算して「今日何をすべきか」が明確になり、担当者は日々の業務に迷わず集中できます。

感覚的な判断から脱却できるため

KPIという測定可能な指標を持つことで、「なんとなくうまくいっている」「あまり成果が出ていない気がする」といった感覚的な判断から脱却できます。数値で現状を把握することで、施策の効果を客観的に評価し、データに基づいた意思決定が可能になります。

たとえば、コンテンツマーケティングにおいて「記事を公開しているが問い合わせが増えない」と感じる場合でも、実際にはサイトへの流入数やエンゲージメント率は上昇しているかもしれません。KPIで各段階の数値を追うことで、どこに課題があるのかが明確になり、適切な改善策を講じることができます。

組織の力を最大化させるため

KPIを設定し、組織全体で共有することで、マーケティング部門だけでなく、営業部門や経営層も同じ目標に向かって動けるようになります。部門間での認識のズレや、優先順位の食い違いを防ぎ、全社一丸となった活動が実現します。

たとえば、マーケティング部門が「月間リード獲得数500件」をKPIとして設定し、営業部門が「月間商談化率20%」を目指すことで、両部門が連携して受注につなげる体制が構築できます。KPIは組織の力を結集させるための共通言語となるのです。

活動の価値を客観的に証明するため

マーケティング活動の成果は、営業活動のように直接的に受注へつながるものばかりではありません。そのため、経営層や他部門から「マーケティング部門は何をしているのか分からない」などと思われがちです。KPIを設定し、定期的に報告することで、マーケティング活動の価値を客観的に証明できます。

具体的な数値で成果を示すことで、予算の確保や人員の増強といった経営判断にもつながりやすくなります。マーケティング活動の存在意義を社内で認めてもらうためにも、KPIの設定と報告は欠かせません。

事業成長を加速させるため

KPIを適切に設定し、PDCAサイクルを回すことで、事業成長のスピードを加速させることができます。KPIの達成状況をモニタリングし、目標に届いていない場合は原因を分析して改善策を実行する。このサイクルを継続的に回すことで、マーケティング活動の精度が高まり、成果が積み上がっていきます。

特にBtoBマーケティングでは、検討期間が長く、施策の効果が見えにくい特徴があります。だからこそ、各フェーズでのKPIを細かく設定し、小さな改善を積み重ねることが、最終的な事業成長につながります。

限られた資源を最適に配分するため

企業のマーケティング予算や人員は限られています。KPIを設定することで、どの施策に予算や時間を投下すべきかの優先順位が明確になります。たとえば、リード獲得単価(CPA)をKPIとして追うことで、広告やコンテンツ制作など、複数の施策の中から費用対効果の高いものを選択できます。

以下の表は、KPIを活用した資源配分の例です。

施策月間予算リード獲得数CPA
リスティング広告50万円100件5,000円
SEO(コンテンツ制作)30万円80件3,750円
展示会出展100万円150件6,667円

このように、KPIをもとに各施策のパフォーマンスを比較することで、限られた資源を最も効果的な施策に投資する判断ができるようになります。

■BtoBマーケティングのKPI設定の基本ステップ

KPIは闇雲に設定しても成果につながりません。ここでは、KGIから逆算して適切なKPIを設定するための5つの基本ステップを解説します。この手順に従うことで、組織全体が納得できる実効性のあるKPI設計が可能になります。

1. KGIの明確化

KPI設計の出発点は、最終目標であるKGI(重要目標達成指標)を明確にすることです。KGIとは、企業やマーケティング活動が最終的に達成したい目標を数値化したもので、たとえば「年間受注数100件」「年間売上高5億円」といった具体的な数値で表現されます。

KGIが曖昧なままではKPIも適切に設定できないため、まずは経営層や関係部門と連携して、明確なKGIを合意することが不可欠です。KGIは事業戦略と連動している必要があり、マーケティング部門だけで決めるのではなく、営業部門や経営層とすり合わせることが重要です。

2. KSFの洗い出し

KGIを達成するためには、KSF(重要成功要因)を洗い出すことが不可欠です。KSFとは、目標達成に決定的な影響を与える要素のことを指します。たとえば、受注数を増やすためのKSFとしては「商談化率の向上」「リード獲得数の増加」「案件化までのリードタイムの短縮」などが考えられます。

ここで重要なのは、KSFは企業や事業モデル、業界によって異なる点です。たとえば、既存顧客へのクロスセルが受注の中心となる企業では「既存顧客フォローの徹底」がKSFとなることがあります。一方、新規顧客の開拓が成長の鍵である企業では、「新規リード獲得数」や「初回商談率」がより重要なKSFとなります。そのため、自社にとって本当に受注につながりやすいKSFは何かを見極め、優先順位をつけることが成功への近道です。

KSFを明確にすることで、どの活動に注力すべきかが見えてきます。自社の強みや市場環境、競合状況などを踏まえ、実現可能かつ影響力の大きいKSFを見極めることがポイントです。

3. KPIツリーで見える化する

KGIとKSFが明確になったら、それらを達成するための具体的なKPIを階層的に整理した「KPIツリー」を作成します。KPIツリーとは、KGIを頂点に、そこから逆算して各段階のKPIを樹形図のように配置したものです。

以下は、KPIツリーの構造例です。

  • KGI:年間受注数
  • 第1階層KPI:月間商談数
  • 第2階層KPI:月間リード獲得数

KPIツリーを作成することで、KGI達成に必要な各段階の目標数値が可視化され、関係者全員が全体像を理解しやすくなります。また、どこかの段階で目標に届いていない場合、その原因を特定しやすくなるメリットもあります。

4. 各KPIの具体的な目標数値を決める

KPIツリーで設定した各KPIについて、具体的な目標数値を決定します。この際、過去の実績データや業界平均値を参考にしながら、現実的かつ挑戦的な数値を設定することが重要です。目標が高すぎると達成不可能と感じてモチベーションが下がり、低すぎると成長が鈍化します。

以下の表は、BtoBマーケティングにおけるKPIと目標数値の例です。

KPI項目目標数値例算出根拠
月間リード獲得数170件商談化率20%、月間商談数34件から逆算
商談化率20%過去実績と業界平均から設定
受注率25%過去実績をもとに改善目標を設定

目標数値を設定する際は、実現可能性を検証するために、過去のデータや現在のリソース(予算、人員、ツールなど)を考慮することが大切です。

5. 予算から逆算をして目標CPAや目標CACを決定

最後に、マーケティング予算から逆算して、目標CPA(リード獲得単価)や目標CAC(顧客獲得単価)を決定します。たとえば、月間マーケティング予算が200万円で、月間リード獲得目標が170件であれば、目標CPAは約11,800円となります。

目標CACは、受注1件あたりの獲得コストを示す指標で、LTV(顧客生涯価値)とのバランスを考慮して設定します。一般的には、CACがLTVの3分の1以下であることが健全とされます。ただし、粗利率や解約率、回収期間によって適正値は変わるため、自社の事業モデルに合わせた設定が必要です。予算の制約がある中で、いかに効率的にリードや顧客を獲得するかを数値で管理することが、持続的な成長には欠かせません。

■【フェーズ別】BtoBマーケティングKPIの指標例

BtoBマーケティングは、認知から受注、さらには既存顧客の維持・拡大まで、複数のフェーズに分かれています。それぞれのフェーズで追うべきKPIは異なるため、自社の現状に合わせた指標を選定することが重要です。ここでは、4つのフェーズごとに具体的なKPI例を紹介します。

認知・集客フェーズ

認知・集客フェーズでは、自社の製品やサービスをターゲット層に知ってもらい、Webサイトやランディングページへの流入を増やすことが目標です。このフェーズでは、まだリードとして獲得できていない段階のため、サイトへの訪問数や認知度を測る指標がKPIとなります。

主なKPIとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 月間サイト訪問数(セッション数、ユニークユーザー数)
  • オーガニック検索流入数
  • 広告インプレッション数・クリック数
  • SNSフォロワー数・エンゲージメント率
  • コンテンツ公開数・インデックス登録数(SEO施策の場合)

特に立ち上げ期では、まず自社サイトやコンテンツを検索エンジンに認識させることが重要です。たとえば、月間10記事のコンテンツ公開や、インデックス登録ページ数100ページといった指標を設定し、着実にコンテンツを増やしていくことが成長への第一歩となります。

リード獲得・育成フェーズ

リード獲得・育成フェーズでは、サイト訪問者を具体的なリード(見込み顧客)に転換し、関心を高めて商談につなげる準備をします。このフェーズでは、リードの量と質の両方を測る指標がKPIとなります。

代表的なKPIは以下の通りです。

  • 月間リード獲得数
  • MQL(見込み顧客)数
  • CPA(リード獲得単価)
  • メール開封率・クリック率
  • CVR(コンバージョン)率

特にBtoBでは、リードの「量」だけでなく「質」を重視することが重要で、MQL数や商談化率といった指標で、営業に引き渡せる質の高いリードを増やすことが成果につながります。リードナーチャリング施策として、メールマーケティングやウェビナーを実施している場合は、それぞれの開封率や参加率もKPIに含めると良いでしょう。

商談化・受注フェーズ

商談化・受注フェーズでは、育成したリードを営業部門に引き渡し、商談から受注へとつなげることが目標です。このフェーズでは、営業部門との連携が不可欠で、マーケティング活動が最終的な売上にどれだけ貢献しているかを測るKPIが重要になります。

主なKPIは以下の通りです。

  • 月間商談化数(SQL:Sales Qualified Lead数)
  • 商談化率(MQLから商談に進んだ割合)
  • 案件化数・案件化率
  • 受注数・受注率
  • 平均受注単価
  • 商談から受注までのリードタイム

たとえば、月間MQL数が51件で、そのうち商談化数が10件であれば、商談化率は20%となります。商談化率が低い場合は、リードの質に問題があるか、営業へのパスプロセスに課題がある可能性があります。こうした数値を細かく追うことで、マーケティングと営業の連携を強化し、受注率を高めることができます。

顧客維持・拡大フェーズ

顧客維持・拡大フェーズでは、既存顧客との関係を深め、リピート購入やアップセル・クロスセルを促進することが目標です。BtoBビジネスでは、新規顧客獲得よりも既存顧客からの売上拡大の方がコスト効率が良いケースが多く、このフェーズのKPI管理は収益性の向上に直結します。

代表的なKPIは以下の通りです。

  • 顧客継続率(リテンション率)
  • 解約率(チャーンレート)
  • LTV(顧客生涯価値)
  • アップセル・クロスセル率
  • NPS(ネットプロモータースコア)

顧客維持・拡大フェーズでは、カスタマーサクセス活動やコミュニティ運営、定期的な情報提供などが重要になります。NPSや顧客満足度調査を定期的に実施し、顧客の声を拾い上げて改善につなげることで、長期的な関係構築が可能になります。

■BtoBマーケティングのKPI設計で失敗しないためのコツ

KPIを設定しても、それが適切でなければ成果にはつながりません。ここでは、BtoBマーケティングのKPI設計でよくある失敗を避け、実効性のあるKPIを設計するための3つのコツを紹介します。

最終目標(KGI)から逆算して考える

KPI設計で最もよくある失敗は、最終目標であるKGIとの関連性が薄いKPIを設定してしまうことです。

KPI設計では、必ずKGIから逆算して、目標達成に直結する指標を選ぶことが不可欠です。たとえば、KGIが「年間受注数100件」であれば、受注率や商談化率、リード獲得数といった各段階の指標を逆算し、KPIツリーで整理します。こうすることで、各KPIがKGI達成にどう貢献するのかが明確になり、無駄な活動を減らすことができます。

具体的で測定可能な指標を設定する

KPIは、誰が見ても同じ解釈ができる具体的で測定可能な指標である必要があります。「認知度を高める」「顧客満足度を向上させる」といった曖昧な表現では、達成したかどうかの判断ができません。

以下は、曖昧な表現を具体的なKPIに変換した例です。

  • 曖昧な表現:「リードの質を高める」→具体的なKPI:「MQL率30%以上」
  • 曖昧な表現:「コンテンツを充実させる」→具体的なKPI:「月間記事公開数10本、インデックス登録数100ページ」
  • 曖昧な表現:「顧客満足度を向上させる」→具体的なKPI:「NPS(ネットプロモータースコア)40以上」

KPIは数値で表現し、計測方法や達成基準を明確にすることで、チーム全員が共通認識を持って活動できるようになります。また、測定可能な指標にすることで、PDCAサイクルを効果的に回すことができます。

KPIの数は絞り込み、部門間で共有する

KPIを増やしすぎると優先順位がぼやけ、かえって成果が出にくくなります。一般的には、1つのチームや担当者が追うKPIは3〜5個程度に絞ることが推奨されます。重要度の高い指標に集中することで、限られたリソースを効果的に活用できます。

また、KPIは組織全体で共有することが重要です。特にBtoBマーケティングでは、マーケティング部門と営業部門の連携が成果を左右するため、両部門が共通のKPIを理解し、協力して目標達成を目指す体制を構築する必要があります。定期的にKPIの達成状況を報告し、課題を共有する場を設けましょう。

■まとめ

BtoBマーケティングにおけるKPI設定は、最終目標であるKGIに到達するための道筋を明確にし、組織全体で成果を最大化するための重要な取り組みです。

KPI設計では、まずKGIを明確にし、そこから逆算してKSFを洗い出し、KPIツリーで各段階の指標を整理することが基本です。

KPI設計で失敗しないためには、KGIから逆算して考える、具体的で測定可能な指標を設定する、KPIの数を絞り込んで部門間で共有するといったポイントを押さえることが大切です。

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