博展にとって最大規模の常設プロジェクトとなった中国湖南省郴州市に位置する複合体験施設が、2025年11月にオープンしました。「中国八大名鴨」のひとつとされる「臨武鴨」の養殖から加工・販売を手がける食品メーカー「SHUNHUA(シュンファ)」をクライアントに、ミュージアム、ショップ、レストラン、ワークショップ体験エリア、さらにランドスケープにいたるまで、施設の体験を総合的につくり上げる幅広い企画・デザインを手がけた本プロジェクトは、博展の商環境事業部にとって初の大型海外プロジェクトでもあります。中国の文化に触れながら、国を跨いだデザインとコミュニケーションに挑戦した3年間の軌跡をメンバーの4人が振り返ります。


Index

・「NATURE / FUTURE」をコンセプトに、初の中国クライアントとのプロジェクトに挑戦
・企業ミュージアムからランドスケープデザインまで
・最大規模の体験施設をつくり上げるためのコミュニケーション
・越境した仕事を通じて複合的な体験をデザインする


「NATURE / FUTURE」をコンセプトに、初の中国クライアントとのプロジェクトに挑戦

ーはじめに、本プロジェクトがスタートした経緯から、受注にいたるまでのプロセスについてお聞かせください。

李(博展 プロデューサー):クライアントであるSHUNHUAは、中国湖南省郴州市にて「臨武鴨(りんぶかも)」と呼ばれる品種の鴨肉を扱う食品メーカーです。博展にお声がけいただいた経緯としては、SHUNHUAの製品のパッケージデザインを手がけている「T3デザイン」が、同社からの依頼で企業ミュージアムの制作実績がある企業を探しており、われわれの名前を候補にあげていただいたことがきっかけです。

堀田(博展 デザイナー):まずは博展の実績をご紹介しながら、コンセプトの提案に向けたリサーチを進めていきました。コンペではないのですが、受注が決まっているわけでもなかったため、最初はお互い手探りの状態でしたが、本提案の際にこちらの実力をSHUNHUAの方々に認めていただき、無事に受注することができました。

李:SHUNHUAの競合他社との差別化をしっかりと図った提案内容が、結果として先方に響いたんだと思います。プロジェクトがはじまったのが2022年でコロナ禍だったため、最初は中国出張ができず、オンラインでの打ち合わせのみでしたが、いつも通りに企業研究と市場リサーチをじっくり進めた上で、施設の目的や想定ユーザーなどをまとめて、コンセプトを提案しました。

ー商環境事業部にとって初の中国本土の仕事となりましたが、プロジェクトがはじまる前にはどのようなことを感じましたか?

福坂(博展 プランナー):まずは、国を跨いで仕事をするのはおもしろそうだなと思いましたね。クライアントのことを深く知った上で企画を提案するプロセスは普段のプロジェクトと変わらないはずなので、あまり深く考えすぎず、あくまで丁寧に仕事をしたいなと考えていました。

ただ、日本でできるリサーチには限りがありますし、どう進めていけばいいのか予想ができない部分もありました。そこは、李さん、李さんの繋がりのある中国の方々、T3デザインさんのご協力のもとで、進めることができました。

ー本提案の際に掲げた施設のコンセプトについて教えてください。

福坂:実際に足を運んで実感したんですが、やっぱり中国はとてつもなく広大でした。SHUNHUAはそんな臨武の広く豊かな土地の特性を活かした養殖のアプローチをされていて、養殖から加工、販売にいたるまで一気通貫した独自のビジネスにチャレンジされています。同時に、次々と新しい技術やマーケティング施策を取り入れているところにも企業のアイデンティティがあります。

李:SHUNHUAが養殖に活用している200ヶ所ほどの貯水池は、もともと国策によってつくられたものであり、それらをポジティブに転用して養殖システムをつくり上げているところに、彼らの独自性があります。さらに自社工場には温度と湿度が管理された全自動の孵化装置が導入されており、栄養価の高い餌の開発と製造も自社で手がけているんですね。これらを活かすコンセプトとして提案したのが「NATURE / FUTURE」でした。このコンセプトは、かなり早い段階で決まったため、その後のプロセスにおいても常にこの考えに立ち返りながら進めることができたのではないかと思います。


企業ミュージアムからランドスケープデザインまで

ーそれでは、具体的な施設の空間デザインについてお聞きできればと思います。

堀田:彼らがもっとも大切にしている「創新」(イノベーションの意)という言葉からはじまる2階の企業ミュージアムは、この施設のコアとなる空間であり、SHUNHUAが表現したいことがもっとも詰まっているエリアです。なかでも特徴的なのはコンセプトを表現した映像が鑑賞できるシアタールームで、SHUNHUAが企業として掲げるメッセージを深く感じてもらうための空間としてデザインしています。

シアタールーム

川口(博展 デザイナー):展示エリアにおいては、シアターで鑑賞した映像の風景がそのまま広がっているようなイメージで空間をゾーニングしています。臨武の自然が再現された展示内の施工は、自然博物館などの実績がある上海のチームが担当しているんですが、こちらが作成したパースの意図を汲み取っていただき、実際に鴨の生息地を視察した上で、水辺の植物や岩のスケッチやサンプルを制作していただきました。表現のディテールに関してモックアップを細かく確認しながらコミュニケーションを重ねた施工プロセスは勉強になりましたし、何よりおもしろかったですね。最終的なアウトプットの完成度がとても高く、ここまでのスピードとクオリティは日本の施工チームでもなかなか実現できないんじゃないかと感じました。

ー1階のエントランスでは鴨のブロンズ像が使用されていますが、こちらはどのような意図で提案したのでしょうか?

堀田:ブロンズ像を用いるアイデア自体は、提案としての真新しさがあるわけではないですが、この施設は我々に最終的に届く商品の前にある企業の創新の物語を追体験する、臨武鴨と向き合える場所なんだということを、直感的にユーザーに伝えるシンボルが必要なのではないかと考えたんです。施設全体の体験を楽しんだ後に、あらためてこのブロンズ像を見上げた時に鴨に対しての感じ方が変わるような、そんな体験が生まれることを意図しています。

ーランドスケープデザインを手がけたこともこのプロジェクトの大きな特徴ですね。

堀田:そもそもランドスケープデザインは当初のスコープにはなかったんですが、徐々に提案範囲が芋づる式にというか広がっていきました。出来上がったものとはまた違うプランを提案していたのですが工事が進められていく中で、敷地内に大きな岩が出てきたことを知らされたんですね。なかなか日本では見られないようなインパクトのある岩群ですし、「NATURE / FUTURE」コンセプトを表現する上でもこれらを活かすべきなのではないかと提案したところ、岩群を用いたランドスケープも僕らが担当することになったんです。施設内の池、この施設の導入部分であり環境エリアに生きた鴨がいることも重要なポイントで、鴨とフラットに目線を合わせることができる一段下げた空間を設けることで、見上げるほどの大きさのエントランスのブロンズ像とのスケールの違いを体験してもらうねらいもありました。

工事中に敷地内で見つかった大きな岩
敷地内には生きた鴨が泳ぐ

最大規模の体験施設をつくり上げるためのコミュニケーション

ーデザイン提案を進めていくなかで、国籍が違うからこそ丁寧なコミュニケーションが必要だった場面はありましたか?

堀田:ブロンズ像に関しても、その他の提案に関しても、クライアントからすると日本的な提案だと感じられる機会が多かったようで、最初はあまりしっくりときてなかったみたいですね。中国の感覚ではもっと派手でエンターテインメント性のある表現の方が好ましいらしく、こちらの意図を何度も説明する必要がありました。

ミュージアムのシアタールームで流す映像を仕上げる際にも、もっと企業のPR映像らしい、わかりやすい表現が求められる場面がありました。

福坂:「ここにナレーションを入れたい」といった意見を何度もいただきましたね。でも、このシアタールームはあくまでミュージアム全体の導入の場面であり、ナレーションを入れてすべてを説明するとそのあとの展示の意味が薄れてしまう。このプロジェクトでは、そうやって繰り返しこちらの意図をお伝えするプロセスがなにより重要だったと思います。どうしても議論が行きつ戻りつしてしまう時や、何度も同じことを議論する場面もありましたが、それだけクライアントに強い思いがあるということなので、こちらも同じ熱量を返せるよう努めながら、しっかり企業のメッセージが体現される方向性を模索していきました。結果としてどのやりとりも無駄ではなかったと思いますし、最終的にはSHUNHUAの社長が僕らを信頼して任せていただいたのが大きかったですね。

李:他の中国の企業と比べてSHUNHUAがめずらしいなと思ったのは、2,000人以上の社員を抱える企業でありながら、直接トップとやりとりができたところですね。一般的にこういった一大プロジェクトにおいては、メイン担当の方が窓口に立ち、役員の方が進捗を見ながら社長に報告するパターンが多いと思いますが、このプロジェクトでは決裁権を持つ社長と直接やりとりができ、コミュニケーション上のロスをかなり防ぐことができたと思います。とはいえ、打ち合わせの場ではたびたびSHUNHUAのメンバーとの激しいやりとりが生じましたね(笑)。

福坂:そうでしたね(笑)。それでも、かならず夜になるとごはんを一緒に食べるんですよね。

堀田:それが中国の文化のいいところで、とにかく膝と膝をつき合わせたコミュニケーションを重視するんですよね。何度も円卓を囲むことで自然と関係性が深まっていきましたし、直接顔を見合わせたやりとりを繰り返せたからこそ、信頼を獲得することにつながったんだと思います。

ー本プロジェクトは博展としては最大規模の複合体験施設となりましたが、この規模だからこそ意識したことや難しかったことはありますか?

川口:ワークショップスペースや飲食などの空間は、食品メーカーとしてのSHUNHUAらしさを表現しやすいエリアでしたが、この施設ができる以前は、そういった「食」以外の面でSHUNHUAらしさが表現されたものはありませんでした。今回の企業ミュージアムの空間を通じて「食」以外の面のSHUNHUAらしさを感じさせるデザインを意識しました。

施設全体のストーリーを考えた上で、建物のアプローチからランドスケープ、エントランスを含めた全体をデザインするのは今回がはじめてでしたし、このスケールの施設じゃないと実現できないことだったので、貴重な経験値になりました。

福坂:フロア数が多い分、ひとつの軸を通す難しさがありましたが、逆に通しすぎてしまうことで施設全体が同じ表情になってしまうのもよくないと思うんですね。すべてのエリアをコンセプト一辺倒で展開するのではなく、あくまで2階の企業ミュージアムをコアエリアとした上で、上下のフロアに関してはよりエンターテインメント性の高い空間をつくることを意識しました。ひとつの軸を通しつつ、拡張性を持たせ、コミュニケーションの幅を生み出すことの重要性は、今回のプロジェクトを通じた大きな学びだったと思います。


越境した仕事を通じて複合的な体験をデザインする

ー施設の竣工およびオープン後の反響はいかがですか?

李:2025年の11月に実施したテストオープンの際には、業界関係者や企業家、さらに政府関係者の方々にも視察にお越しいただき、施設の独自性を評価いただくことができました。臨武には山や湖といった観光資源がたくさんあるものの、名産品や手土産を買う場所がこれまでなかったため、この施設ができてからは、郴州市(ちんしゅう)の自然を楽しんだ帰りに訪れる観光客が増えたようですね。空港や高速道路からのアクセスも良いので、休日に省を跨いで訪れる子ども連れの家族が多く、現地の旅行会社が企画しているツアーにも組み込まれており、地域の活性化につながっています。

福坂:もともとSHUNHUAとしては、企業ブランディングと同時に新たな収入源をつくる目的がありましたが、一方的に自社の魅力をアピールするのではなく、あくまで来場者の方々が楽しめる体験施設として成立させたいという思いがありました。実際に来場者からはその点を評価する声を数多くいただいているようです。学校や企業からの見学者も多く、産学連携のモデルケースとしても機能しているそうですし、施設ができたことを誇らしく感じている社員の方も多く、インナーブランディングにも寄与しているのではないかと思います。

ー最後に、あらためて本プロジェクトを振り返ってみていかがですか?

堀田:はじめに李さんから「これは相当タフな案件になると思うので、覚悟して取り組む必要がありますよ」と言われたのを覚えていますね(笑)。なにより国籍の違うSHUNHUAの方々にわれわれの仕事を認めてもらう必要があったので、腹をくくって取り組む必要があるなと感じていました。

李:そうでしたね(笑)。実は前職でも中国の大手企業とのプロジェクトに関わったことがあったんですが、1年ほどかけて提案を重ねたものの、最終的に契約につながらなかった経験があったんです。その分、こういったプロジェクトを進める上でどのようなところに気をつけるべきなのかがわかる半面、大変な部分も想像ができました。個人的には、半ばリベンジのような気持ちで取り組んだプロジェクトでした。

堀田:そういったやりとりも踏まえて、リスクについてもあらかじめしっかりと把握した上で進めることができたのもよかったと思います。業務範囲が未確定だったため、条件をすり合わせながら、結果的に、施工に関しては現地の企業に担当いただき、あくまで僕らはクリエイティブに特化して担当する契約を進めることができました。

川口:言語の面で李さんに頼るところが大きいプロジェクトでしたが、一方でクライアントの反応からこちらが提案したデザインへの評価が直接伝わる場面が多々あり、デザイナーとして勉強になることが多かったですね。これまでもわかっていたつもりでしたが、本来デザインに国籍は関係なく、説明がなくてもそのままコミュニケーションとして成立してしまうものなんだなと、あらためてデザインの影響力の大きさを感じたプロジェクトだったと思います。

福坂:国を跨いだプロジェクトだからこそ、お互い納得しながらつくり上げていくことの大切さをより実感できたと思います。それに、自分たちがつくった施設を中国の方々に楽しんでもらえていると思うと素直にうれしいですね。学びになることばかりだったので、今後のプロジェクトに活かしていきたいと考えています。

李:プロデューサー兼プロマネの立場としては、SHUNHUAの社長をはじめ、数十名のチームメンバーのコミュニケーションを一手に引き受ける必要があり、それぞれの会話の熱量や思想をどのように伝えるかを常に意識しながら進めていったプロジェクトでした。

デザインの意図やディテールへのこだわりを中国語に翻訳する際には、日本語をそのまま訳すだけではなく、自分自身で理解した上で相手に伝えるように努めていましたし、SHUNHUAのみなさんの意思と博展の思想をいかに調和させるかが重要だったと思います。そういった経験を通じて自分自身の仕事の幅が広がった気がするので、今後さらにハードルの高いプロジェクトを担当することになっても、動じずにいられるんじゃないかなと、自分自身の成長を感じたプロジェクトでした。

堀田:SHUNHUAの方々とやりとりする際のWe Chatのチャンネルでは、李さんがかなりのスピード感で返信してくれていて、クリエイティブ面でも橋渡しの役割を担ってくれていたと思います。当初のスコープにはなかったランドスケープデザインをはじめ、最終的にはチケットやユニフォームのデザインも監修することができ、クリエイティブ全体の方向性を示す役割を担うことができた意義は大きいと思っています。

企業ミュージアムは複合的な体験を提供するところに大きな特徴があり、空間をデザインするだけではコミュニケーションデザインとしては不十分なんですね。企業ミュージアムを求めるクライアントのニーズを満たすためには、本プロジェクトのように、クリエイティブの領域を越境した仕事に挑戦していく必要があり、ここで得られた経験は今後のプロジェクトにも活かしていきたいと考えています。

OVERVIEW

CLIENTSHUNHUA
LOCATION中国湖南省郴州市

博展にとって最大規模の常設プロジェクトとなった中国湖南省郴州市に位置する複合体験施設が、2025年11月にオープンしました。「中国八大名鴨」のひとつとされる「臨武鴨」の養殖から加工・販売を手がける食品メーカー「SHUNHUA(シュンファ)」をクライアントに、ミュージアム、ショップ、レストラン、ワークショップ体験エリア、さらにランドスケープにいたるまで、施設の体験を総合的につくり上げる幅広い企画・デザインを手がけた本プロジェクトは、博展の商環境事業部にとって初の大型海外プロジェクトでもあります。中国の文化に触れながら、国を跨いだデザインとコミュニケーションに挑戦した3年間の軌跡をメンバーの4人が振り返ります。