2025年9月にリニューアルされた三井デザインテックの本社オフィス。博展は、同オフィスに新たに設立された実験の場「ANTENNA」内に設置されたオフィス家具の制作を、旧オフィス解体時に出る廃材を活用し、新たに家具や建材として生まれ変わらせました。
本プロジェクトは、空間デザイン業界に属する三井デザインテックと博展がコラボレーションして、初の試みとなる「サーキュラーデザインの実践」。資源循環のレクチャーから始まり、ワークショップの実施、共創スタジオ「T-BASE」でのプロトタイピングおよび制作にいたるまで、2社が伴走しながら推進しました。本プロジェクトのプロセスを、博展と三井デザインテックのメンバーがそれぞれ振り返りました。


Index

100%だけでは成り立たない、サーキュラーデザインのリアル

砕き、溶かし、封入する…廃材加工のプロセス

廃材回収とサーキュラーデザインのジレンマ


100%だけでは成り立たない、サーキュラーデザインのリアル

-今回のコラボレーションがはじまったきっかけをお聞かせください。

後藤(三井デザインテック デザイナー):2023年12月に、博展の共創スタジオ「T-BASE」で開催されていたHakuten Open Studioに伺い、そこで博展がサーキュラーデザインやサステナビリティの実現のためにさまざまな取り組みをされているのを知ったのがきっかけでした。その後、弊社の改修計画を進める中で、サーキュラーデザインやサステナブルに関する自社の取り組みをやっていこうという話が出た際に、博展のことを思い出したんです。

これまで弊社でも、クライアントにサステナブルな空間の提案をすることはあったんですが、費用の問題で実現しないことも多々ありました。正直なところ、そういった面でサステナビリティを扱っていく難しさを日々感じていたんです。

山下(三井デザインテック デザイナー):三井デザインテックとしても、これまでサステナビリティの実現のためにさまざまな取り組みをしてきました。造作家具の設計においては、いかに分解しやすく、単一素材でつくることができるかを考え、内装工事においてもサーキュラーデザインの仕組みづくりに取り組んでいます。2025年度からは社内に新たにサーキュラーデザイングループを設立し、より本格的に推進するための活動をおこなっています。

佐野(三井デザインテック デザイナー):社員もそれぞれにサステナビリティの意識を持って仕事をしていると思うんですが、実際にはお客様からそこまでの高い水準のものを求められていなかったり、どうしても部分的なマテリアルを変えるだけに留まってしまっていました。今回のプロジェクトは、自社で取り組むことだからこそ挑戦できるんじゃないかと思い、リニューアル工事の廃材で何か新しいものを作れないか、と博展さんにお声がけしました。

左から 三井デザインテック 後藤さん、山下さん

ー同じ空間デザイン業界の企業のコラボレーションとなりますが、博展としてはどのような思いでプロジェクトに臨みましたか?

熊崎(博展 プロダクトマネジメント):オフィス空間デザインに強みを持つ三井デザインテックさんからお声がけいただいた時には、「大丈夫かな…」という思いが正直ありましたね(笑)。もちろん、博展にはサーキュラーデザインを実施する上でのマテリアルの知見が溜まっているので、ご提案できることはたくさんありそうだなと感じましたし、それぞれの強みを活かし合いながら進めることができればおもしろそうだなという期待もありました。

岡本(博展 デザイナー):オフィスのリニューアルは、社員さんにとって、とても大切なプロジェクトです。そこに我々が突然提案するのでは面白みに欠けるので、まずは、三井デザインテックさんの社員を巻き込んで、どんな廃材があるのかの洗い出しや、「サーキュラーデザイン」の知識を深めて、意識をすり合わせていくワークショップを提案しました。
同業他社のデザイナーさんとこういった形でプロジェクトを進めるのは初めてだったのでどうなるかわからない部分がありつつも、単純におもしろそうだなと感じていました。

-本プロジェクトでは6回分のワークショップを通じて、サーキュラーデザインについての講義から、プロジェクトのコンセプト策定、最終的なプロダクトデザインのアイデア出しまでをおこないました。ワークショップを実施する上ではどのように準備を進めていきましたか?

岡本:ワークショップの基本設計とファシリテーションは私が担当しました。ワークショップでは、知識を深めながら「三井デザインテックが考えるサーキュラーデザインとは何か」を定義することが大きな目的としてはっきりしていたので、内容を考えること自体はそこまで悩まなかったですね。ただ、問いの立て方や表現方法についてはとても考えました。サーキュラーデザインの前提知識がない方にとってわかりやすく、考えやすいテーマになっているのか、一つひとつ検討しながら進めていったので、その分準備に時間がかかりましたね。

ワークショップの様子

-三井デザインテックのみなさんは、実際に参加されてみていかがでしたか?

後藤:座学のはじめに、100%資源循環させることがサーキュラーエコノミーの概念ではあるものの、実態としては100%を目指すだけでは成り立たないといったお話しされていたのが印象的でした。循環性や環境負荷の低減と同様に、意匠や空間デザインとしての価値、さらにコストとの兼ね合いが大切なので、どうバランスを取っていくのかが重要なんだと。それを聞いて、いい意味で肩の力を抜くことができました。

佐野:「自社から出る廃材について考えてみる」というワークショップには、オフィス領域のデザイナーだけではなく、住宅やホテルなどに関わるメンバーも参加していたので、みんなから出てくるおもしろい意見が新しい発見につながりましたね。
これまでクライアントに対して「御社から出る廃材をぜひ使いたいです」といったお話はしてはいたものの、実現率が低かったんですよね。サーキュラーデザインの視点を身につけることができるワークショップで廃材を活用することの重要性を感じていただくことができれば、実現に近づけることができそうですし、お客様から喜ばれるかもしれないなと感じました。

三井デザインテック 佐野さん

山下:みんな心の奥ではいろんなことを思っていたんだなと、そんな気づきがあったのがなによりよかったですね。「もったいないな」というそれぞれの気持ちをしっかりと言葉にすることができる、とてもいい機会だったと思います。

砕き、溶かし、封入する…廃材加工のプロセス

  • 実際に出来上がったテーブル
  • 実際に出来上がったテーブル

-ワークショップを終えたのちに、解体工事にて回収した廃材を使用した家具のデザイン・制作プロセスを進めていきました。三井デザインテックと博展 岡本がデザイン、熊崎、本田を中心に博展チームが制作を担当しましたが、印象的なプロダクトについてお聞かせください。

本田(博展 制作部):たとえばこのテーブルは、三色のポリプロピレンのスツールを砕き、溶かしてタイル状にしたものを天板に使用しています。有害物質が出ないかを確認した上で、焦げて色が変わってしまわないように、熱で溶かした方がいいのか、燃やした方がいいのか、加工方法を探っていきました。

後藤:デザインする上では、単一素材のスツールを循環させる時に、壊すことに何かしらの価値をつける必要があるなと思ったんです。本来、モノマテリアル化して次につなげることもできますが、家具を壊すこと自体に、なにかしらデザインで価値を見出せないかなと。その時、「バンダリズム=破壊行為」を創作的価値に転換する、バンクシーが実践している文脈を引用して、迷彩柄のような表現ができないかと相談させてもらいました。

熊崎:当初はすべてがまだらになっている一枚モノの迷彩を目指したんですが、実際にやってみると難しくて。パートナー企業の金物屋さんに相談して試行錯誤したものの、ドロドロに溶けすぎてしまったり、焦げてしまったり、冷えた時に美しいマーブル模様にならなかったりと、なかなか実現が難しいこともわかりました。そこで、僕らのスタジオでできることの限界をお伝えした上で、タイル状のデザインを提案させていただきました。

カウンター天板制作の様子
左官材で出来たカウンター天板

熊崎:カウンター天板に関しては、木材、石膏、吸音パネル、ファブリックの4種類を砕いて左官材にして塗り付けています。廃材を仕上げ材に使用することは、当初目指していたことのひとつで、試行錯誤のプロセスを経てこの仕上がりになりました。

岡本:これもどのくらい廃材感を出すのか悩みましたね。

本田:左官材の中の廃材の分量をどのくらい残すのかを考えながら塗り付けています。自分は普段木工を担当しているので、左官に関してはパートナー企業の方にお願いしているんですが、今回は工程が複雑だったので自分でやっています。最終的に、天板の表面に廃材の部分が表出するように削っているんですが、天板としてのクオリティを担保するバランスが難しかったですね。いちばんの仕上がりが想像できないのがこのプロダクトでした。

-菌糸を使用したウォールパネルも制作されていますが、これはどのようなきっかけで生まれたアイデアなのでしょうか?

後藤:菌糸を使ったプロダクトは海外で注目されているので気になっていたんです。建物の資材や卵のパッケージ、家具の成型材など、さまざまな使用事例があり、土に還る未来の素材というイメージがあったので、今回のプロジェクトに取り入れることで象徴的な表現になるんじゃないかなと考えました。

岡本:制作にあたっては、菌糸を育てるための専用の培地を扱っている業者の方にお願いをして、廃材を培地として育てた菌糸を使用しています。

佐野:これに関しても、最初は1枚でつくりたかったんです。

熊崎:挑戦したんですけど、これも厳しかったですね(笑)。菌糸は自然に育つものなので、管理していてもカビができてしまったり、失敗してしまったりするので、一枚モノでつくると失敗した時にリカバリーができなくなってしまうため、小さいブロックをつなぎ合わせる形での提案をさせていただきました。

左から、博展 デザイナー 岡本さん、制作管理 熊崎さん、制作 本田さん

廃材回収とサーキュラーデザインのジレンマ

ー今回のプロジェクトを振り返って、サーキュラーデザインを実践する上での難しさを感じた場面はありましたか?

岡本:大量に届くはずの廃材が、運搬中に崩れてしまったのか、少量しか届かなかった時には焦りましたね…(笑)。廃材を使った制作プロセスは、事前にさまざまな表現方法を考えていたとしても想定外のことが起こりますし、実際に加工してみるとうまくいかないなど、やってみないとわからないことばかりでした。まずは工場で検証しながら素材の性質を理解することからはじめないと、ちゃんとした設計ができなかったですね。

後藤:当初はなるべく綺麗に解体していただき、できるだけ大きな廃材を確保したいという要望をお伝えしていたので、解体現場での立ち会いの際にも大きく廃材が取れていたんですが、運搬の段階で壊れてしまったようですね。ワークショップを通じていろいろとアイデアを考えてはいたんですけど、実際に集まった廃材のうち、使えるものと使えないものがあるので、そこからまたすべて考え直す必要がありました。

解体の様子と、実際に届いた廃材

山下:今回、工事のメンバーからも話を聞きましたが、 廃材をマテリアル資材として再利用するという、普段慣れていない仕事をお願いすることになるので、こちらの要望が伝わらずに壊れてしまったり、誤って廃棄されてしまったこともあります。余計な運搬ルートを作ることにもなりますし、廃材の置き場をどうするのかという問題もあります。なにをもってサーキュラーと判断するのかも現場で決めなくてはいけない。それは今回関わったメンバー全員が実感したのではないかと思いますね。

岡本:通常の、工事に関わる方々の使命は適切に解体して処理することなので、さらにエネルギーをかけて別のやり方をお願いすることは、かならずしもサーキュラーデザインではないと思うんです。運搬の際に梱包をしてもらうのは、新たなゴミも費用もかかってしまいよくないので、壊れてしまったとしたら受け入れるしかないんですね。その上で何ができるかを考えることも、サーキュラーデザインのおもしろさなんじゃないかなと。それは今回学んだこととしては大きかったです。

マテリアルに記憶を残し、未来につないでいくこと

本田:実は、解体や廃材回収のプロセスを考えると、本当はサーキュラーデザインに懐疑的な気持ちもあったんです。でも、プロジェクトの途中で岡本が、「サーキュラデザインであると同時にメモリアルプロダクトでもある」といった話をしていて、僕としてはその言葉がしっくりくるなと思ったんです。三井デザインテックさんの旧オフィスの思い出を、別のプロダクトにつくり変えて、新オフィスでも残すプロジェクトだと考えると、より制作に前向きに臨む気持ちになりました。

博展 本田さん

後藤:マテリアルの中に時間軸が見えるようになることがサーキュラーデザインなんだなと、そんな実感が得られるプロジェクトでしたね。以前使われていたものが解体されて廃材になり、それをつくり直して未来へとつなげていく。そしていつかそれらはまた廃材になる日が来る。どうしても環境負荷の低減だけを目指していると、課せられる責任の重さを感じてしまうんですが、マテリアルの中に記憶を残していくためだと思えば、義務感としてではなく、前向きに取り組めるようになるんじゃないかと思います。

熊崎:サーキュラーデザインを実践する手法として、廃材を粉砕してマテリアルにするプロセスがあるんですが、ただ粉にしてしまうと、それがもともとどんなものに使われていたかわからなくなってしまう。なので、粉砕しすぎずに、どのくらい残していくのかが大事になってきます。たとえばいま後藤さんが座っている椅子には、かつてパーテーションのレールだったパーツとガラスを使っているんですが、椅子として綺麗に仕上げると同時に、廃材が使われていることもちゃんと伝えないといけない。そのバランスが重要なんだと思います。

ー最後に、今後サーキュラーデザインの実践に向けた思いをお聞かせください。

岡本:サーキュラーデザインは、地球上のすべての資源を循環させることが最終的なゴールではありますが、まだ誰も成し遂げることができていないので、毎回可能性を少しずつ広げていくことが、次につながっていくと思っています。サーキュラーデザインのプロジェクトは、毎回唯一無二の廃材を使ってはじめての試みに挑戦していくおもしろさがあり、そこに醍醐味もあります。続けていくことでまた新しいヒントが生まれていくと思うので、サーキュラーデザインの価値の向上につなげていきたいと思っています。

熊崎:デザインされたものを実現させないといけない制作の立場からすると、サーキュラーデザインを「0か100か」で考えてしまうと、なにも身動きが取れなくなってしまうことを実感しているんです。完全なる循環、完全なるリサイクルを実現するためには、家具の場合はそのまま使えばいいですし、できるだけ長く使うことが前提になります。それでもやはりゴミは出るものなので、廃材を循環させることを考える時に、デザインによって価値を生み出し、そこにメッセージを残すことが大事だと思います。

本田:最初から図面があった上で仕事を進めていくわけではなかったので、想像できないものをつくる難しさがありましたが、後藤さんには頻繁にスタジオにお越しいただき、話を聞きながらつくっていく過程は、普段の仕事ではなかなかできない経験でした。さまざまなマテリアルを使った表現に挑戦できたプロジェクトでしたし、またやってみたいなと思っています。コストとの兼ね合いはあるものの、やれることはまだまだたくさんあると実感できたので、今回の経験を次につなげていきたいですね。

佐野:これまでお客様に提案する中で、なかなか受け入れられなかったり、小手先のことしかできなかったりと、課題意識を感じていたので、今回のプロジェクトをショーケースとして、お客様に向けてサーキュラーデザインをポジティブに提案していきたいと思っています。なかなかすべてのプロジェクトで実践することは難しいとは思いますが、採用実績を増やしていきたいですね。岡本さんとデザインの試行錯誤をしながら、進めていったプロセスも新しい挑戦で、非常に刺激的でした。

後藤:今回制作したプロダクトを配置している「ANTENNA」というこの場所は、コミュニケーションを促進するスペースとして、進行中のプロジェクトや実験段階のアイデアなど、さまざまな情報の受発信ができる実験場として位置付けています。その分、今回のような実験的なプロダクトには今後さまざまな意見が出てくると思うんですね。中には否定的な意見も出てくるかもしれない。でも、決して正解はないですし、いろんな視点が評価軸になっていくと思うので、訪れた方々が自分だったらどうするのかを考えるきっかけやヒントになるとうれしいですね。

山下:サーキュラーデザインの実現に向けたメッセージが込められたプロダクトを残すことができた、意義のあるプロジェクトだったと思います。意識改革のためにはきっかけとなるものが必要で、こういった実際に触れることができるプロダクトを通じてこそ、伝わるものがあるのではないでしょうか。試行錯誤しながらさまざまなことに挑戦していただいたことで、廃材を使ってこんなことができるんだということを、お越しいただくお客様や社員たちに示すことができるプロダクトだと思うので、今後はこの場所をさまざまな議論が生まれる実験の場にしていきたいですね。

OVERVIEW

CLIENT三井デザインテック株式会社

2025年9月にリニューアルされた三井デザインテックの本社オフィス。博展は、同オフィスに新たに設立された実験の場「ANTENNA」内に設置されたオフィス家具の制作を、旧オフィス解体時に出る廃材を活用し、新たに家具や建材として生まれ変わらせました。
本プロジェクトは、空間デザイン業界に属する三井デザインテックと博展がコラボレーションして、初の試みとなる「サーキュラーデザインの実践」。資源循環のレクチャーから始まり、ワークショップの実施、共創スタジオ「T-BASE」でのプロトタイピングおよび制作にいたるまで、2社が伴走しながら推進しました。本プロジェクトのプロセスを、博展と三井デザインテックのメンバーがそれぞれ振り返りました。