
社会課題の解決に取り組む多様なセクターや個人が集い、持続可能な社会の実現を目指すイノベーションに取り組むコミュニティ「Glass Rock」。森ビル株式会社が虎ノ門ヒルズにて運営する同拠点では、4階のPartners Loungeに加え、B1階のMembers LoungeやギャラリーGalleryを活用することで、イベントや展示会などを通じた会員の情報発信のサポートに取り組んでいます。
博展は、同Galleryにて2回に渡って実施された企画展「本でちょっと立ち話」の展示デザイン・制作・施工を一貫して担当しました。本記事では、Glass Rock Gallery担当の熊田ふみ子さんと、森ビルの河合隆平さんを迎え、博展の3名のプロジェクトメンバーとともに「越境」「妥協」という抽象的なテーマに向き合った展示デザインの共創プロセスを振り返ります。
Index
・50冊の選書をギャラリー空間の展示に
・「越境」のテーマを直感的に伝えるサインデザイン
・ネガティブに捉えられがちな「妥協」をポジティブに翻訳
・場の持つ力を顕現させる展示デザインの可能性
50冊の選書をギャラリー空間の展示に

ー「本でちょっと立ち話」は、もともと会員限定のパートナーラウンジ内の書棚を使った選書の企画だったそうですが、どのような経緯ではじまったのでしょうか?
熊田(Glass Rock Gallery担当):2025年4月のGlass Rockのオープンに向けて、4階のPartner Loungeの書棚にどんな本を置こうかと考えていたんですが、書店の社会課題のコーナーにあるような本だけを並べてもあまりおもしろくないなと思い、Glass Rockに関わる50名の方々に、1冊ずつ選書をお願いすることにしたんです。「越境」というテーマを選んだのは、会員の方々が自らの領域から一歩踏み出し、Glass Rockのコミュニティならではのコラボレーションが生まれることを後押ししたいという思いがあったからでした。
選書を依頼する際には、ご自身が考える越境であればどんな本でもいいとお伝えしていたので、本のジャンルは絵本から専門書まで、かなり幅広かったですね。
ーその後、Glass Rock Galleryの展示へと発展していった経緯を教えてください。
熊田:展示していた選書がとても好評で、このまま終わってしまうのはもったいないと思い、B1階のギャラリーで展開することで、会員以外の方にも見てもらえないだろうかと考え、河合に相談したのがこのプロジェクトのはじまりでした。
河合(森ビル株式会社 都市開発事業部):私が所属しているメディア企画グループは、森ビルが手がける都市開発やまちづくりの構想をビジュアライズする役割を担う部署で、その手法は模型やジオラマ、さらには3DCGといったデジタルツールを制作することから、国内外の展示会へのブース出展の企画・運営まで多岐にわたります。
過去に別の展示会で、博展さんにお願いしていた経緯から、博展さんにお声がけすることにしました。

ーあらためてGlass Rock Galleryで展示する上では、どのような内容にしたいと考えていましたか?
熊田:もともとGlass Rock Galleryは、向き合うのが難しい社会課題に対して、これならできる、おもしろそうだと感じてもらえるような展示を企画することで、立ち寄ってくださった方が自然と社会課題に興味を持てるきっかけをつくるために生まれた空間でした。50冊の選書を展示にする上では、本をただ眺めるのではなく、「自分だったらどんな本を選ぶだろう」と、自分事として捉えてもらえるような内容にしたいと思っていたんですね。とはいえ、博展さんに最初にご連絡した段階では、やりたいことをとにかく詰め込んだ依頼内容だったので、こちらの意図を理解するのはかなり大変だったと思います(笑)。
ー博展としては、最初に依頼を受けたときにどのような印象を持ちましたか?
蛭川(博展 プロデューサー):はじめにご相談いただいた段階では、越境というテーマに難しい印象を抱いてしまい、やや不安な気持ちがあったのが正直なところですね。そこで、以前森ビルさんのブースを担当したデザイナーの細川と、新たにプランナーの落合に声をかけて、進め方について相談していきました。
細川(博展 デザイナー):そうでしたね。Glass Rock Galleryは、場所の性質上、できることに限りがあったので落合さんと相談しながら進めていくことになりました。
落合(博展 プランナー):普段は企業のプロモーションや採用といったビジネスに関連するプロジェクトを担当することが多いので、当初から他のプロジェクトとは違う性質を感じていました。Glass Rockという新しい施設の特徴と、越境というテーマが持つエッセンスをいかに取りこぼさずに展示に変換できるのか、まずはそういったことから考えはじめました。
「越境」のテーマを直感的に伝えるサインデザイン

ーそこから具体的な展示方法についてはどのように検討していったのでしょうか?
落合:予算的に空間に棚をつくって本を並べるような展示形式にはできなかったので、ギャラリー空間の壁をキャンバスと捉え、越境という言葉に含まれている意味をグラフィカルなアプローチで表現するのがいいのではないかと考えました。このテーマに凝縮されているニュアンスや企画側の温度を、来場される一般の方にも感覚的に伝わるような方法を考えることが、この企画のコアになるだろうと思ったんです。
この展示のおもしろさは、難解な専門書の横に絵本が並べられているような、一般的な書店や専門家の選書では見られない異質な組み合わせを楽しめるところにあるので、それぞれの本を線分でつなぐグラフィックで表現することで、その特徴を可視化しています。越境という言葉には、既存の枠組みにはとらわれない破壊的なニュアンスも含まれるため、彩度の高い鮮やかなバーミリオンを使用し、このテーマが持つエネルギッシュな感覚を表現しています。
細川:同時に、ギャラリーが位置するB1階は、地下鉄につながる通路の脇にあり、人流が多いとはいえあえて前を通るような場所ではないため、エスカレーターに乗る通行人の方々の目に留まりやすいサインデザインとして仕上げることも意識しています。

ー展示の奥のスペースには、来場者が糸を結んで回答する参加型コンテンツ「データストリングス」を設置しました。こちらはどのような経緯で実施することになったのでしょうか?
河合:以前東京都主催の「Sushi Tech Tokyo」ブース出展の際に、博展さんに提案させていただいたのがデータストリングスでした。展示期間を通じて糸が集積していく過程が、人々の意思が可視化されていく様子を眺めるようなおもしろさがあるなと思い、今回の展示でも制作をお願いしました。
細川:糸を浮かせると壁面に当たる影が綺麗に見えるので、フックの種類を選定し、来場者が参加しやすい方法を検討していきました。実際にここまで参加してくれる人がいるんだという驚きがありましたし、思考を巡らせるきっかけを提供する参加型コンテンツの効果を実感することができました。
熊田:Glass Rock Galleryは基本的にスタッフが常駐していないので、回答数が増えても乱れず、綺麗な展示として維持するにはどうすればいいのか、糸の色や太さ、結びやすさなど、さまざまなご提案をいただきましたね。たまに糸の整理のためにギャラリーに立ち寄ると、来場者同士の会話が生まれている様子を目にすることができました。友だちやカップル、親子、夫婦など、みなさんが真剣に回答されていて、単純な仕組みながら、こんなにも展示体験に変化が生まれるんだなと感じました。
感想を書き込めるノートを会場に置いていたところ、「就職活動で辛かったけれど、ここに来て勇気をもらえました」「こんな考え方もあるんだと、とても勉強になりました」など、読んでいてうれしくなるような感想ばかりでした。データストリングスは最終的に7,000人ほどの方にご参加いただきました。
ネガティブに捉えられがちな「妥協」をポジティブに翻訳
ーその後、第2弾となった「妥協展」の企画はどのように生まれたのでしょうか?
熊田:越境展の成功を受け、ぜひ次の展示もやりましょうと、テーマを検討していたところ、デンマークで活動されている方が講演で、「民主主義とは最高の妥協を見つけることだ」と話されていたことが気になったんですね。譲れない互いの意見についてしっかりと議論した先に、最高の妥協としての民主主義が生まれるんだと。それを聞いて、展示のテーマにぴったりなんじゃないかと思ったんです。
ただ、日本人にとって「妥協」はネガティブに聞こえる言葉でもあるので、きちんと説明しないと意味が伝わらないだろうなと思い、引き続き博展さんにこのテーマを綺麗に料理していただこうと考えました。おそらく、越境の時よりも苦労されたんじゃないかなと思います。
蛭川:確かに、難しいテーマでしたので、こちらで提案資料を用意するよりも、まずはご依頼の意図を汲み取るために、1ヶ月ほどの期間をかけてじっくりと森ビルのみなさんと議論を重ねていく時間をいただきました。少しずつ感覚をチューニングしていくような期間でしたね。
落合:妥協という言葉は、あまり展示のテーマとして扱われるものではありませんが、正反対の言葉を結びつけるインパクトがありますし、詩的な響きがあるのも感じていました。
「民主主義とは最高の妥協である」といった一種のアフォリズム(格言)を、一般の来場者にも伝わる表現に翻訳するには、世界にさまざまな立場の考え方、思想、感情が存在していることを可視化し、それらがゆるく結びついている様子を表現すればいいのではないかと考えました。手と手を取り合うような象徴的なかたちを用い、異なる色相を組み合わせることで、「最高の妥協」というメッセージが直感的に伝わるビジュアルを提案しています。

熊田:最初にいただいた案が、「これです、これ!」という感じで(笑)、ネガティブに捉えられがちなこのテーマを、とてもポジティブに表現していただいたなと感じています。
ー「越境」のデータストリングスに続き、ここでは来場者の方が考える「最高の妥協」をボールで回答する参加型アンケートを設置しました。
河合:細川さんが提案してくださったフェルトのボールが可愛くて、すぐに採用しました。ボールが集まっていく時の見栄えのよさも考えていただきましたね。

細川:子どもがボールを口に入れてしまうのではないかということも考え、筒の取り出し口を少し狭めるなど、ちょっとした工夫も施しています。スペースの中央に設置した都市模型は森ビルさんのアイデアでしたが、打ち合わせの中で「都市は最高の妥協によって成り立っているのではないか」といったお話になり、模型の上にさまざまな問いを可視化する展示方法を提案させていただきました。
河合:たくさんの人々の意見が集まった末に都市空間が生まれていると考えると、最高の妥協というテーマを象徴するものとして展示できたのではないかと思います。
場の持つ力を顕現させる展示デザインの可能性

ー最後に、あらためて本プロジェクトを振り返る中で感じたことをそれぞれお聞かせください。
熊田:こちらの思いが先走るあまり、依頼内容がまとまらない場面も多々あったと思うのですが、博展のみなさんにはGlass Rockの想いや、空間の特徴をうまく捉えいただき、抽象的な相談にも拘らず、素敵な展示に仕上げていただき感謝しています。私自身も学ぶところが多く、共創とはまさにこのことだなと感じられたプロジェクトでした。
展示の反響は、Glass Rock Galleryが持つ可能性は虎ノ門エリアのタウンマネジメントのメンバーからも注目されるきっかけになりますし、商業テナントとは異なる手段で空間を意味のあるものに変えることができた実績として、今後の活動につなげていきたいと思っています。
河合:なにより、みなさんと一緒につくっていく感覚が楽しかったですね。私は普段BtoBの仕事が多いので、抽象的なテーマを空間に落とし込んでいくプロセスや、アイデアを組み合わせていくことの醍醐味を味わうことができました。会場に設置した感想ノートには、「こんなスペースがあるなんて知りませんでした」といった言葉も書かれていたので、当初のねらいが達成できた実感も得ることができました。
今後、Glass Rock Galleryの方向性を考える上での試金石となるプロジェクトだったと思っています。
細川:私も普段はBtoBの展示を担当することが多く、こうやってグラフィックから空間をつくっていくようなプロジェクトははじめてだったのですが、毎回どのように宿題に答えればいいのかを考える楽しさもありましたね。
個人的に大きかったのは、かならずしも大きな造作物がなくても、インパクトのある展示はつくれるんだなという学びがあったことです。今後はグラフィックデザインなどの分野も学んでいくことで、私自身も越境した仕事ができるようになりたいなと思っています。
蛭川:ここまでしっかりとテーマを噛み砕きながら伝え方を考えるプロジェクトは、博展の中でもめずらしかったのではないかと思います。最初は、どのように進めていけばいいのかがわからず不安な場面もありましたが、落合に相談した時に「おもしろそうだね」と前向きな言葉をもらえたことで、その後のプロセスも大丈夫だろうなと、メンバーに委ねながらプロジェクトを進めていくことの大事さを学べたように思います。我々も楽しんで仕事をさせていただきました。
落合:本日お話ししながら、このプロジェクトを通して、森ビルのみなさんがGlass Rock Galleryの新たな活用可能性を提示できていたと知りました。あらためて空間の力を顕現させることができる展示デザインの価値を実感することができました。
普段と異なるアプローチに挑戦できたことも大きくて、言葉と絵を理詰めで考えていくだけではなく、ぼんやりとしたイメージからアウトプットを考えていくような、どこかアート的な発想が求められる仕事の難しさとやりがいを感じる、とてもチャレンジングな経験でした。
WORKS
Glass Rock Gallery「本でちょっと立ち話 -越境-」
https://www.hakuten.co.jp/works/moribuilding_glassrockgallery2025
Glass Rock Gallery「本でちょっと立ち話 -妥協-」
https://www.hakuten.co.jp/works/moribuilding_glassrockgallery_dakyou
OVERVIEW
| CLIENT | 森ビル株式会社 |
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| PROJECT | Glass Rock Gallery「本でちょっと立ち話」 |
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社会課題の解決に取り組む多様なセクターや個人が集い、持続可能な社会の実現を目指すイノベーションに取り組むコミュニティ「Glass Rock」。 |
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