INTRODUCTION

2021年4月に横須賀市は、中央公園(横須賀市深田台)及び公園内のモニュメントをリニューアル。博展はパノラマティクスと協業し、新しいモニュメントのデザイン設計 / 施工を担当しました。
場所の歴史と平和への祈りを継承した“参加型”の企画 / デザインを提案し、横須賀の風景に溶けこむモニュメント「THE AXIS OF PEACE」を創り上げました。

「平和は揺るいではならない。どんな時も、どんな事が起きても、 横須賀はそれを忘れない」という祈りを込めて建てられた「THE AXIS OF PEACE」。
今回は担当したデザイナーの高橋、プロダクトマネージャーの渡邉、プロデューサーの河野がモニュメント建設に込められた想いや制作秘話を語ります。

OUTLINE

平和への祈りを象徴したモニュメント

河野:
中央公園には核兵器廃絶に対する想いや平和への祈りを象徴した「ヘイワ オーキク ナーレ」というモニュメントが建っており、その老朽化に伴い27年ぶりにリニューアルが決定。今回新たに「THE AXIS OF PEACE」を建設しました。
「THE AXIS OF PEACE」は、モニュメントの屋根や中央の柱に、古くから「平和・永遠」を象徴する“円”を数多く散りばめており、昼は日光を、夜はライトアップの光を美しく演出しています。

高橋:
「THE AXIS OF PEACE」では夜になると中心のモニュメントから平和を象徴する光が夜空に放射されます。円形に切り抜かれた鉄板越しに光が漏れ、美しく幻想的な空間を演出。横須賀という土地が長年持つ平和への祈りを象徴したモニュメントになっています。

ーモニュメント制作は社内でもめずらしい案件ですが、今回のお仕事を頂いたきっかけを教えてください。

河野:
他の案件でもお仕事をご一緒していたパノラマティクスの齋藤さんからお声がけいただいたのがきっかけです。「単にモニュメントを建設するのではなく、“光”を駆使した象徴的なものを創りたい」というアイデアをいただき、博展メンバーで横須賀という土地に根付いた作品となるようデザイン設計 / 施工を行いました。

“平和”に対する想いは残しつつ、新しい形でのアプローチを模索しましたね。

ーパノラマティクス様とはどのような棲み分けでプロジェクトを進行しましたか?

河野:
企画 / 監修はパノラマティクス様が担当していたため、「THE AXIS OF PEACE」というコンセプトや光を上空に放射するアイディアはパノラマティクス様からいただき、博展は横須賀という土地に根付いたデザインのストーリー作成やクオリティの担保に尽力しました。

PLANNING

土地の歴史に紐付き、記憶に触れる体験型のデザイン

高橋:
今回は横須賀という土地の記憶に触れるデザインを創りたいと考えていました。デザインの着想を得るために、横須賀の様々な場所へのフィールドワークを通して歴史や土地について学ぶ中で、この公園はかつて砲台の一部であったという事実が明らかになりました。

<フィールドワークの様子>

高橋:
歴史をさらに学ぶために、史跡管理の方にご案内いただいて米ヶ浜砲台跡を取材したことが、かつての砲台跡の土台とモニュメント全体の直径を合わせるなどデザインにも反映されています。

また、横須賀の歴史的な建築に使用されているレンガには桜のマークが掘られていることに気付き、モニュメントのレンガにも桜を再現しました。この場所の歴史と紐付くデザインを意識し、ブラッシュアップしていきました。

<フィールドワークでの気付きを反映したデザイン>
上画像:実際の横須賀の土地で発見したもの
下画像:「THE AXIS OF PEACE」で反映させたデザイン

高橋:
横須賀に住む方に愛されるモニュメントにしたいと強く想い、横須賀という土地を理解するための調査を徹底的に行いました。また、体験型のデザインを考えることも今回のテーマでした。

<市民の方に協力いただいた様子>

モニュメントの天井や円柱には多くの穴が開いていますが、この円はすべて横須賀市民の方々に手書きで描いてもらっています。

<円形を鉄板にまぶしている様子>

また、私が円を配置すると意図的になってしまうので、実際に設置する中央公園で鉄板に円の型をまぶし、風に乗せることで無作為なパターンを作っています。

中央の円柱には「平和」を12か国の言語で表記していますが、この言語も横須賀市に住んでいる方が使用している言語やインバウンド向けサービスの対応言語から選択しました。

我々も勉強はしましたが、横須賀のことを一番よく知っているのは横須賀市民の方々。その皆様で創り上げた作品として長年愛していただける存在になって欲しいと思っています。

河野:
今回は横須賀市役所にご協力いただき、市役所にいらっしゃった市民の皆様に“円”を描いてもらいました。手書きなので1つ1つ違った個性のある円がモニュメントに散りばめられています。

高橋:
モニュメントは、アート作品として認識されてしまうと地域の人からは少し遠い存在に感じてしまうこともありますが、市民の方と一緒に作り上げたことでより親しみを持っていただけているのではないかと感じています。

KEY FACTOR

検証を繰り返し、アイデア/デザインと安全性を両立させる。

渡邉:
デザインと安全性を担保するために様々な工夫はしましたが、まずライトの検証を綿密に行いました。このモニュメントは災害時に発電機によって点灯する仕組みとなっており、広域避難地である公園へ灯台のように人々を導く道標の役割も担っています。そのため、災害時も安心して使用でき、かつ十分な光量のあるライトを選択しました。

今回はLEDサーチライトを使用したのですが、このライトは100ボルト程度で使用可能な省エネ商材。遠くからも光が見えるか、災害時にも使用可能かなど、細かく検証しました。また、鉄板の円や文字の大きさも、昼の日光と夜のライトの光がよく見えるように実験 / 調整を重ねました。

<日中は日光が降り注ぎ、人々が描いた円から漏れる光を浴びることで、“平和”を感じられます。>
<夜間は人々の平和の願いが込められた小さな光の円で満たされます。>

渡邉:
また、レンガに刻まれた桜のマークは実際に現地で採取したコンクリートから型をとり、3Dプリンターなどを駆使してコンクリートに刻みました。

渡邉:
受注したタイミングと最終アウトプットのデザインでは、こだわりとともに大幅なアップデートが加わっています。そのため、予算の中でデザインと安全性、強度を担保しながら進行するのは本当に難しく、腕の見せ所でした。

アイデア / デザインを実現したいけれど、様々な基準を満たす強度の担保も必要。イベントと比較して建築物は、風力計算などあらゆる状況において安全を保証できる数値が求められます。
施設の改修案件は数多く手がけてきましたが、新築では気を遣うべき点も増え、常に勉強が必要でした。デザインと建築物としての安全性をバランスよくとることはとても難しかったです。

<絶景の現場で休憩中の渡邉さん>

ーでは、イベントを生業とする博展が担当したからできたこと / 可能になったことはありましたか?

高橋:
鑑賞ではなく、体験するという意識を常に持っていました。デザインのストーリー設計はイベントで培ったジャーニー設計が活きていると思います。市民参加型のモニュメント制作は、博展だからこそ実現できたことです。

初めてのチャレンジでしたが、アイデアを実現する方法を一緒に考えてくれる人が多かったから実現した案件であり、メンバー全員に感謝しています。

NEXT TRY

公共の建築物にしかできない文化体験を追求したい。

河野:
「THE AXIS OF PEACE」は、文化開発事業ユニットの名前に合う良い案件になったと感じています。今回のような常設の建築物は長い期間人々の目に触れるものですから、市民の方々から愛される存在であるべきだと感じています。今回は円を描くことで市民の方にも参加いただき、モニュメントを自分事化してもらうことができました。商業施設でもイベントでもなく、公共の建築物にしかできない文化体験を、今後も追及していきたいです。

渡邉:
今回は恒常性 / 公共性を踏まえたうえで、多くの人に驚きを与えることができたと感じています。「THE AXIS OF PEACE」は無機質だけれど幻想的で、非日常な空間を演出できました。今後も、不特定多数の大勢に非日常感を味わってもらい、感動体験を提供できるモノづくりを積極的に行っていきたいですね。

高橋:
「THE AXIS OF PEACE」に人があつまり、風景の一部として生きている様子をみると心から嬉しく感じます。数日前に知り合いのお子さんが「THE AXIS OF PEACE」の絵を描いてくれたのですが、それがすごくうれしくて。今回のように、人々と環境が一緒に創り上げ、溶け込むような共生する建築を創ることを今後も目指していきたいですね。

今回の「THE AXIS OF PEACE」では、歴史や平和への願いを「体験」を通じて感じてもらうという新しい価値を定義できたと思います。今後も博展としてこのような案件を増やし、人々と場所、風景が溶け込むような、多くの人を笑顔にできる空間を創り続けます。

<左から河野(P) / 高橋(D) / 渡邉(PM)>

OVERVIEW

CLIENT横須賀市

CREDIT

Producer: 髙橋 広樹 / 河野 俊太郎
Designer|Artist : 高橋 匠
Construction Manager: 渡邉 芳博