日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社(以下:トヨタ)は2023年11月に開催された日本最大級異業種交流展示会「メッセナゴヤ2023」(以下:メッセナゴヤ)に出展。博展は、2021年よりトヨタブースのコンセプト設計、プランニング、デザイン、施工に至るまでトータルサポートしています。

トヨタブースでは、工場で出る端材を用いて展示物を制作したほか、ブース全体を環境負荷の低い部材で構成し、資源循環の結果を数値として掲出。東海エリアの地域活性を目的とした当イベントにおいて、トヨタが発信するカーボンニュートラルを空間全体で体現しました。

今回は、当ブースの取り組みについて、トヨタ 総務部の増井さん・水鳥さん、そしてアップサイクルプロジェクトを推進している新事業企画部の中村さん・高木さんと、博展 プロデューサー本間さん、サーキュラーデザインルーム 鈴木亮介さん、デザイナー 鈴木慧さんへインタビュー。プロジェクトの背景を語っていただきました。

左から博展 鈴木(亮)さん、本間さん、鈴木(慧)さん、トヨタ 増井さん、水鳥さん、高木さん、中村さん

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3つの観点から、「循環」を軸にブース全体のコンセプトが走り出しました。

–今回のブースのポイントを教えてください。

増井:メッセナゴヤは日本最大級の異業種交流展示会です。弊社もイベント全体や地域を盛り上げていくために、2006年より出展しています。

2022年に、初めて環境に配慮したブースを博展さんに考えていただいて。2023年はそこからもう一歩踏み込めないかと思っていました。そこで今回は出展部署として、アップサイクルプロジェクトを推進している新事業企画部のメンバーにも参加してもらい、新たな要素を加えてブースを作りこんでいきました。

本間:一番の出展テーマとしては「カーボンニュートラル」というキーワードがあったんですよね。カーボンニュートラルは、業界的にも、東海地域としても重要性が高まっているテーマ。業界を牽引するトヨタだからこそ、「地域一丸となって取り組むべきカーボンニュートラル」を示せないかと考えていました。

中村:僕がすごく覚えてるのが、最初の打合せで、「イベントの空間を使って何を発信するか」という議論をしたんですよね。当初、僕たちは「走るときも環境に優しい車」、「車づくりの工程で出てしまう端材を循環させていく」という2つの観点をメインテーマとして据えていました。そこに本間さん・鈴木(亮)さんが「ブース自体もサステナブルに作る。そしてイベントで使用した部材もまた循環させていく」という大事な1点を加えてくれたんです。その3つ目の要素が加わったことで、「循環」を軸にブース全体のコンセプトが走り出した感じがしました。

 

端材も、逆転の発想をすればユニークな素材と捉えることができるんです。

鈴木(亮):そもそもトヨタさんの「幸せを量産する」というミッションと、「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」というビジョンについて、一人の生活者として、とてもトヨタらしさを感じていました。その「らしさ」をブースのコミュニケーションに取り入れたいと思ったのが出発点です。

そんな中、アップサイクルプロジェクトでまとめている「もったいないカタログ」を見せていただきました。これは、シートレザーを型抜きする際など、製造工程でどうしても出てしまう端材を活用し、「モッタイナイ」を「もっといい」へ変えるための取り組みです。既にトヨタさんでは、産学連携や商品化といった活動をしています。

高木:「自分の所にももったいないものがあるよね」って社内の色々な方が言うんですが、端材や素材の情報がどこにも一元化されていないんです。それを僕らのアップサイクルプロジェクトで貯めてカタログとして一定のルールの下でオープンにしたのが始まりです。それに、社外の方とお話をさせていただいても同じような課題を持っていたので、今回のメッセナゴヤにおいても、アップサイクルプロジェクトを一緒に実行してくださる仲間を増やしたいという目的もありました。

鈴木(亮):普段から色々な企業さんとお話しさせていただくのですが、「もったいないカタログ」のように、端材をまとめていること自体が珍しいです。どこの企業も課題を抱えてはいるものの、情報をまとめて、活用の機会を常に探っているという企業はなかなかいないのではないでしょうか。

また、博展としても、2023年の4月にサーキュラーデザインルームという組織を設立して、環境負荷低減をメインに、イベントへのサステナビリティ実装を推進していこうという背景がありました。

一見するとネガティブな端材も、逆転の発想をすれば、自動車業界だから・トヨタさんだからこそのユニークな素材と捉えることができる。そこで、トヨタさんの「もったいないカタログ」にある素材を活かして、鈴木(慧)と一緒にトヨタさんらしい空間デザインを進めていきました。


楽しく取り組み、デザイン性を担保したまま、サステナビリティを実装することが重要だと考えています。

–コンセプトをどのようにブースデザインに反映したのでしょうか?

鈴木(慧):キックオフで、「アップサイクルプロジェクトを一緒に実行してくださる仲間を増やしたい」という新事業企画部の出展目的をお伺いしました。その目的と、「幸せの量産」というトヨタさんのミッションを組み合わせられないかと思っていました。東海エリアの企業が一堂に会するメッセナゴヤにおいて、トヨタブースからカーボンニュートラルやアップサイクルについて発信することで、地域企業に興味を持ってもらい、輪を広げていく。まさに「幸せの量産」ができる場にしたい、というのがデザインの基礎になっています。

自動車になる前の素材と、その後出る端材をブース全体に散りばめることで、「この素材ってもうアップサイクルされているんだ」という発見ができる場としてデザインしていきました。それがトヨタブースのオリジナリティになりますし、来場者との会話のタネにもなります。「もったいないカタログ」を見ると、「エアバッグの中身ってこんなステッチの色なんだ」とか、新しい素材として面白かったんですよね。それを展示して来場者に触ってもらったり、シートの端材の面白い形を活かしてパッチワークアートにしたり。「この端材はあの車種に使われているんですよ」という会話が生まれますし、よりアップサイクルに興味を持つきっかけになったと思います。

鈴木(亮):サステナビリティとクリエイティビティの両立が課題でした。環境負荷の低いブースを実現しようとすると、質素な表現になってしまいがちです。でも、サステナビリティは本来ポジティブな活動のはず。皆で楽しみながら取り組んで、デザイン性や体験価値を担保したままいかにサステナビリティを実装するか、というのが重要だと考えています。今回トヨタさんの「もったいないカタログ」があったことで、アートワークに活用するアイデアが生まれたりと、表現の幅はかなり広がりました。

中村:廃材を使ったアートワークは、ざっくりとしたイメージを共有いただきつつ、最後は信用してお任せしました。というのは、そこまでのプロセスで、鈴木(慧)さんが素材についてたくさん質問してくださったんですよね。実現はしませんでしたが、「素材が発生する工場を見学したい」と言っていただいたのも嬉しくて。素材を知ろうとする姿勢を見ていたので、あとはお任せできました。最終アウトプットを見たのは会期の前日だったのですが、全く違和感もありませんでしたし、納得の形でした。

ブース全体の雰囲気も個人的にすごく好きで。全体的にあえて部材をむき出しに見せて、工場っぽく、だけどおしゃれな感じ。コンセプトが貫かれたブースだったので、安心して、誇りを持って出展できましたね。本当にありがとうございます。

ブース体験自体がサステナブルであることを、お客様に伝えられました。

水鳥:お客様にも「(ブースが)工場の雰囲気そのものだね」と楽しんでいただいた印象があります。現場の想いをブースとして表現して、お客様に伝えられたのは良かったと思っています。

本間:去年も環境に配慮していましたが、今年はさらにブースの見た目から面白いと興味を持ってもらえて、なおかつ使われている素材に意味があるというのも、サステナビリティとクリエイティビティの両立が実現してパワーアップした部分です。

鈴木(慧):使われている素材や、去年より環境負荷低減できている部分の説明などをパネルにしています。ブースの構造についてはリユース可能なシステム部材を使用しているので、トヨタさんに限らず他の会社でも同じ取り組みができます。それをレシピとして開示することで、メッセナゴヤのトヨタブースを中心として、他の出展企業にも環境配慮の意識が広がっていけば、という想いがありました。

鈴木(亮):ブースを作るためにどのくらいの天然資源、循環資源・リユース部材が投入されているのかなどを可視化しています。今回は98%がマテリアルリサイクルとリユース、2%はサーマルリカバリーとなりました。博展としては、2030年にサポートするすべてのイベントを完全にカーボンニュートラルにすることを目標にしています。そのための事例としても、今回は貴重な機会となりました。


増井:説明する立場としては、ブースの前面にこのパネルがあったことでコミュニケーションがとりやすかったです。「実はこのブースには自動車の製造過程で出る端材が使われているんですよ」と、アップサイクルプロジェクトのメンバーへスムーズに繋げることができました。

高木:ブースへの資源投入量や、リユース・リサイクル率を定量的に数値で示してくれたのもすごいなと思っていて。ブースの中でお客様に僕らの取り組みをお話しして、最後にトヨタブースにおける環境負荷低減の結果を説明したら、とても満足いただけたんですよ。このブース体験自体も全部サステナブルになっていることがわかる総まとめになったと思います。

中村:僕たちのアップサイクルプロジェクトは、売上や利益ではなく、【「モッタイナイ」を「もっといい」へ】という想いを届けることが目的なので、商品はそれを伝えるための手法です。今回は壁面のアートワークや、展示に触れてストーリーを感じていただきながら会話できるので、すごく説明しやすかった。空間の大事さをすごく実感しましたね。会期中にも、「うちの会社にもこんな素材あるんだけど、使えない?」といった声掛けもかなりいただきました。また、デザイン系の専門学校との産学連携のご相談もいただいて、色々な共創が生まれた場所になったと思います。

社内でもアップサイクルコミュニティの輪が少しずつ広がっています。

中村:社内からも反響がありました。まず、今までアップサイクル事業に関わっていた方々が感動してくれました。ずっとプロジェクトを見てくれていた方からすると、今回このトヨタブースをアップサイクルプロジェクトの発信をする場としてつくっていただいたことで、「ようやくカタチになったね」とコメントをいただきました。

もう一つは、これまで関わりのなかった方もメッセナゴヤを通じてこの事業を知ってくれました。社内で250人ほどのアップサイクルコミュニティを運営しているんですが、そこに入るきっかけになった方もいます。中には「応援するよ」と物販で商品を買ってくれる人もいて……社内需要に結びついたのも大きかったですね。社内でも認知が得られて、少しずつ輪が広がっています。

水鳥:私も社内でこういう取り組みをしているのを知らなかったんです。この業務を通じて知り、今まで使われていなかった端材を活用できるのは、大切なことだと思いました。実際に私もペンケースを買ったんですが、父にも「これかっこいいね、欲しい」と言われました(笑)

博展と組めばこれまでなかったものが作れるんじゃないか、という期待を感じました。

増井:私は長年メッセナゴヤに携わっていますが、初めてイベント出展を終えて、「皆さんと頑張って創り上げたブースが一瞬で解体されてしまうんだ」というのが衝撃だったんですよね。でも博展の皆さんから環境に配慮したブースについてお話を伺って、「うちでも取り入れられたらいいな」とは思っていました。

それがより具体化したのが、T-CELL(博展のサステナビリティショールーム)をご案内いただいた時のことです。木や布に印刷するプリンター等を拝見して、素材の使い回しという取り組みに衝撃を受けたんです。その頃から「環境に配慮したブース作りに取り組めないか」と社内で話していたのですが、メッセナゴヤで実現できました。

そして、博展の皆さんとお仕事をさせていただいて思うのは、熱量がすごいんです。「まるでトヨタ社員のように、コンセプトから一緒に考えてくれるんだ」と良い刺激を受けています。

中村:皆さん共通してプロジェクトに対する咀嚼力、表現力が凄いなと思っています。僕たちと同じ目線で語ろうとしてくれているんだというのがわかって、僕たちにもエンジンをかけてもらいました。博展の皆さんからは「新しいことに挑戦しよう」というマインドを感じられて、一緒に組めばこれまでなかったものが作れるんじゃないか、という期待を持てました。

本間:自分たちはお客様の課題をヒアリングして、変化を起こそうとしている会社ですが、それが発揮されるかどうかはクライアントの熱量次第なんです。トヨタさんはこれだけ世の中に影響力を持ちながらも、世のため人のために良いものづくりをしようという意志が根底にある。そんな会社さんとお仕事ができるのはすごく幸せなことです。

カーボンニュートラルについても、トヨタさんの取り組みを見て周りの企業も賛同することで、大きなインパクトを生み出せると考えています。ぜひこれからも一緒にお仕事をできたら嬉しいです。

OVERVIEW

CLIENTトヨタ自動車株式会社
PROJECTメッセナゴヤ2023
VENUEポートメッセなごや

日本を代表する自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社は、2023年11月に開催された日本最大級異業種交流展示会「メッセナゴヤ2023」に出展。博展は、2021年よりトヨタブースのコンセプト設計、プランニング、デザイン、施工に至るまでトータルサポートしています。

トヨタブースでは、工場で出る端材を用いて展示物を制作したほか、ブース全体を環境負荷の低い部材で構成し、資源循環の結果を数値として掲出。東海エリアの地域活性を目的とした当イベントにおいて、トヨタが発信するカーボンニュートラルを空間全体で体現しました。