INTORODUCTION

2021年11月に行われた日本最大級の異業種交流展示会「メッセナゴヤ2021」。博展は同イベントの出展社であるトヨタ社のブースデザイン、コミュニケーションの設計を担当しました。

例年通りのアウトプットから変化をつけたいというクライアントに対して博展が提案したのは、イベントに出展することの意味を再定義することでした。商品発表の場ではなく、フィロソフィーを伝える場に。それに伴ってデザインも一新することに。

なぜこうした提案を行うことなったのか。コロナウイルスの感染拡大によりイベントの開催自体が不安視される中、制作はどのように進んでいったのか。本プロジェクトの裏側をプロデューサーの本間、プランナーの矢島、デザイナーの深谷が振り返ります。

本間 一翔
2016年新卒で博展に入社。営業およびプロデューサーとしてBtoB、BtoCに限らず幅広いクライアントを担当。2018年から中部営業所開設メンバーとして名古屋へ異動し、中部エリアの自治体や大手電力会社、タイヤ/自動車部品メーカーなどを担当。本プロジェクトでは営業として顧客とのリレーションを構築した。

矢島 大
2020年博展に中途入社。BtoB/toC問わず中部/西日本エリアのプランナーとして従事。中部エリアの自治体や大手電力会社、鉄道会社などを担当。本プロジェクトではブース出展の価値を再定義するプランニングを行なった。

深谷  昇吾
2009年新卒で博展に入社。展示会や商談会など主にBtoBイベントの空間デザイナーとして従事し、現在は中部/西日本エリアを担当する部署に所属。大手メーカーや製造業、玩具メーカー、自動車メーカーなど幅広いクライアントの実績がある。本プロジェクトではブースのデザインを担当。

PLANNING

「展示会」→「フィロソフィーを体現する場」へ。 イベント価値を再定義するプランニング

本間:
メッセナゴヤはビジネス交流を目的にスタートした「異業種交流の祭典」です。愛知万博の理念(環境、科学技術、国際交流)を継承する事業として2006年より毎年行われています。博展は「メッセナゴヤ 2021」の中核企業であり、出展者でもあるトヨタ自動車のブースデザインを担当しました。

メッセナゴヤ トヨタブース

トヨタ自動車は中部地方においては特別な存在です。メッセナゴヤの主催である名古屋商工会議所は同イベントを開催するにあたり、真っ先にトヨタ自動車へ出展を依頼したと伺っています。メッセナゴヤの立ち上げ時から毎年出展を続けるなかで、今年は例年とは異なった打ち出し方をしたいという要望があり、博展にお声がけいただくことになりました。

矢島:
ブース自体のコンセプトに変化をつけたいタイミングだったと伺っています。そこで、私たちは商品を通じて「幸せを量産する」という同社のフィロソフィーを伝えていくプランを提案しました。

製品を押し出すことで背景にあるフィロソフィーは伝わりにくくなってしまうのですが、それらを分離させることなく、一つのストーリーの中で両立させるような体験設計を行なっています。

具体的にはブースの入り口でフィロソフィーを表現し、ブース内では製品説明の冒頭に製品とフィロソフィーとの繋がりを明示しました。なぜその製品を開発するに至ったのかという背景が伝わることでプロダクトの見え方も大きく変わってきます。展示物だけでなく、伝える方法を細部まで徹底しました。

深谷:
こうしたプランニングを基軸に、デザイン上でも変化を出しています。

過去のトヨタブースのデザインを踏襲しつつ、体験を通じてフィロソフィーを感じられるような導線設計。そこに同社のWoven Cityのような「人とモビリティが有機的に混ざり合う未来像」を掛け合わせ、コンセプトと製品が両立するようなデザインを目指しました。

矢島:
展示会はあくまでアウトプットの一形態です。その背景には、長期的なマーケティング戦略やブランディングの方針がある。なので、展示会のプランニングだけを考えるのではなく、より大きな視点からクライアントの意向を汲み取り、発信していかねばなりません。

トヨタ自動車は業種を超えてあらゆるパートナー企業と連携していかねばならないと明言していますし、IR資料からもそうした方針が伺えます。同社は中部圏において大きな影響力を持つ存在です。そういった観点から、「メッセナゴヤはトヨタ自動車のビジョンを強く打ち出す場である」と再定義し、ブランドメッセージを構築していきました。 本間:特に製造業の現場に近い層が集まる同イベントは、パートナーシップを重視するトヨタ自動車にとって重要な発信の場になり得ます。こうした博展の提案に共感していただき、プランが固まっていきました。

KEY FACTOR

変化する要件に合わせて、最適な方法・プランを提案する総合力

本間:
2021年はコロナウイルスによる大打撃があり、リアルな場のイベントにとっては大きな逆風が吹いた年でもありました。日々変わる感染状況に合わせて、制作プランも数回変更されました。

深谷:
例えば、人を滞留させない導線設計を行なったり、設置するパーテーションをデザインしたりと、想定通りに進んだことばかりではありませんが、要件が変わっていく中でもクライアントと密にコミュニケーションしながらブラッシュアップしていけたことは良かったです。

常に複数の視点からアイデアを考えて提案すること、デザインの意図を細かく説明することなど、当たり前のことを丁寧に続けたことで担当者の方の信頼につながったと感じます。

本間:
今回、デザインは深谷、プランニングは矢島というように、それぞれの責任者が直接クライアントと対話しながら進める体制をとっていました。そうすることで制作のスピードも上がりますし、クライアントにとっても納得感がある提案ができる。これはプランナーやデザイナーなど専門性の高いメンバーが社内にいるからできることです。 誰に何を任せればパフォーマンスを最大化できるのか。窓口に立つプロデューサーとして常に試行錯誤しています。

本間:
また、本案件ではブースデザインだけでなく、「オンライン会場」としてインターネット上に公開するホワイトペーパーを作成しました。あらゆる分野のプロフェッショナルがいるため、細部にまでこだわることができるというのは博展の強みですね。

矢島:
しっかり作り込んだコンテンツだったので差別化にもなりましたね。他社さんは既成の資料で済ませているところも少なくありませんでしたから。コロナのような状況であっても、別の切り口でのアプローチを提供できたことはポジティブに捉えています。

本間:
「展示会の要素をうまく凝縮したものだった」と、クライアントからも高く評価いただけました。アクセス、ダウンロード数ともに去年の数値を大幅に上回り、結果にも満足いただけましたね。 イベントが軒並み中止になり、クライアントがお客様の生の声を聞く機会が減っていく中で、メッセナゴヤという場の価値を感じていただけたことは私たちとしても喜ばしいことでした。

NEXT TRY

マーケティングの視点からコミュニケーションをデザインする

本間:
改めて振り返ると、「博展らしさ」を発揮できたプロジェクトでしたね。

矢島:
限られた人だけが訪れる場所であっても、しっかりとフィロソフィーを汲み取って設計していくことで、伝わっていく。展示会の会場を「ブランディング」という視点からもサポートができることが体現できたかなと。

本間:
博展が一番実績を持っているのは展示会なので、クライアントにとっては弊社が掲げるコミュニケーションデザインを感じていただける機会ですよね。

矢島:
展示するコンテンツはブランドへの入り口であって、あくまで全体のコミュニケーションを設計しているということは提案時から繰り返しお伝えしていたことでした。

一般的に展示会などのビジネスイベントの会場は「プロモーション」の場だと認識されていますが、クライアントにとっては重要な「マーケティング」の場でもあります。何を目指し、作り、売っていくのかということをサポートする立場として、マーケティングの知見は必須だなと感じています。

深谷:
マーケティングの話ができなければ、クライアントの課題の核を理解することができず、表面上のアウトプットになってしまいますからね。

矢島:
そうですね。マーケティング、製品開発、経営に関する課題に対してしっかりアプローチすることができれば、博展としても大きな可能性がひらけていくのではないかと思います。

深谷:
いちデザイナーとしては、デザインがビジネスに貢献する事例を増やしていきたいと思っているのですが、展示会はそれを体現できる場なんですよね。イベントブースのデザインはもちろん、店舗やオフィス空間など、リアルをベースに出来ることは沢山あります。今後も製品開発や購買の促進といった部分にも貢献し、結果につながるデザインを実践していきたいですね。

左から矢島(プランナー)、本間(プロデューサー)、深谷(デザイナー)

OVERVIEW

CLIENTトヨタ自動車株式会社

CREDIT

プロデューサー 本間 一翔 / 河田 友輔
プランナー 矢島 大
デザイナー 深谷 昇吾
グラフィックデザイナー 宮崎 淳