東芝キヤリア株式会社は、4年ぶりの開催となった冷凍・空調・暖房の展示会 HVAC&R JAPAN 2022(ヒーバックアンドアールジャパン)に出展。博展はブースにおけるコミュニケーション設計からデザイン、施工を担当しました。
「ひと想いソリューション」というコンセプトのもと、
ヒートポンプ技術で「今」抱える問題への解決、そして「未来」に進むための新技術提案を展示。
他社とは一線を画すダイナミックでシンプルなデザインとすることで予想を上回る集客に成功しました。
どのような経緯でこのデザインに至ったのか、どのようにプロジェクトを進めていったのか、その背景を東芝キヤリア株式会社の岩満さんと奥隅さんと共に振り返ります。


Index
- 会社の想いを見せる場として、全体的にコンセプチュアルな空間にしたかったんです。
- 常設空間をデザインしてきた知見を活かし、改めて展示会をひとつの商空間と捉えたブースに。
- デザインを維持するために、完成までの全てのコストを最小限にできるよう常に意識していました。
- 抽象的なデザインだからこそ、来場者とのコミュニケーションが広がる気がするんです。
- 頭の中で描いていることを必ずカタチにしてくれるので、信頼しています。

会社の想いを見せる場として、全体的にコンセプチュアルな空間にしたかったんです。
– HVAC&Rへの出展目的と、弊社にお声がけいただいた経緯を教えていただけますでしょうか。
岩満:HVAC&Rは国内の空調メーカーが新しい商品をお披露目する場、というのが一般的ですが、東芝キヤリアは2014年くらいから展示会の軸を”商品”から”ソリューション”に変え、会社の想いを伝える場として出展するようになりました。特にコロナウイルスによる2020年の中止を経た今年は、社会的にも空質改善が求められているため、”エアリー感”といったコンセプチュアルな空間にしたいと思っていたんです。

また、2030年に向けてこれから実現する技術や東芝キヤリアの目指す方向性など、SDGsをテーマにした展示もイメージしていましたね。
そこで今回も、2013年から継続して展示会の出展サポートをお願いしていた博展に依頼しました。

三輪:東芝キヤリアさんは展示会でのキーメッセージを大事にされているので、プランナーとともに複数提案し、今回は「ひと想いソリューション」を採用いただきました。
奥隅:キーメッセージはもちろんブース自体に落とし込むために必要ですが、どちらかというと展示会を通して社内に浸透させるスローガンのような役割かもしれません。


常設空間をデザインしてきた知見を活かし、 改めて展示会をひとつの商空間と捉えたブースに。
– 先程の”エアリー感”を存分に体感できるブースになっているように感じられますが、どういう経緯でこのデザインに至ったのでしょうか。
山口:テーマとしていただいた“エアリー感”や未来に向けたデザインを考えているなかで、みんなが集まってそこからコミュニケーションが生まれる、言わばパビリオンのような場所にすることで「ひと想いソリューション」につながるのではと思い、最終的にこのアウトプットに至りました。ただ壁を立ててパネルを並べるのではなく、ひとつの象徴的な場所を中心に人々のコミュニケーションが広がるといいなと。

シンボルとなる大きな造作は、ひとつのものが一筆書きで出来上がる様子や空気を含んでいるようなやわらかいカタチなどをイメージしてデザインしました。
実はこれまで商業店舗や公共施設などの常設空間をデザインしていたので、展示会でどう表現すれば「ひと想いソリューション」が伝わるのかと最初はすごく悩みましたね。

岩満:このシンボルのデザインはとても気に入っていて、常設の空間をデザインしていた山口さんだからこそ生み出せた案だと思っています。これまで常設の商空間を担当されていたことを後から知ったのですが、その知見がとても活きているなと。
三輪:そうですね。ある意味、これまでの一般的なやり方と言いますか、ブースデザインの枠を超えていますよね。展示会をひとつの商空間として、ゼロベースから考えられたデザインになっていると思います。

デザインを維持するために、完成までの全てのコストを最小限にできるよう常に意識していました。
– 曲線で構成されたかなり複雑な造作で、これを実現するためにはコスト管理も大変だったんじゃないかと思いますが、どのように工夫したのでしょうか?
田草川:制作として、”太く短い生産性”をいつも心がけています。コストには、人件費や時間や材料費など、必要不可欠な要素が多くありますよね。
今回は特に、材料ひとつにしても単価を低くしてくれるパートナーを選ぶところから実製作まで、限りなく工数を抑えて動きました。

ブースとなる造作をいかに人に悩まさせずに作ってもらえるようにするか、を意識して取り組みました。当日の施工現場ではチームで実際に造作のパーツを組み立てるわけですが、それを若手でもベテランでも、誰に頼んでも組み立てられるよう、構造設計段階から工夫しましたね。完成させるまでの段取りがカギだったので、図面に関しても、誰が見てもわかるように製図しました。
きっと、いくらでも時間をかけてよければまる2日かければ誰だって実現できると思うんです。でも、それだとコストがかかってしまうので、決められた時間のなかで確実に実現させることに価値があると思っています。

三輪:通常、費用が厳しい場合はブースの要素を減らしてお客さまに伝えることが多い中で、やりたいデザインはそのまま実現できました。それは制作の田草川のおかげですね。
田草川:デザインのクオリティを下げずに予算内で実現させるためにはどうすればいいか、デザイナーの山口と一緒に日々練っていました。
山口:そうですね、その部分は毎日制作スタジオに通って考えていました。例えば、この大きな造作の上の部分は来場者から見えないから省略しようとか、ボリューム感を損なわないよう必要なところは残そうとか。

抽象的なデザインだからこそ、来場者とのコミュニケーションが広がる気がするんです。
岩満:山口さんは最初淡々としている印象でしたが、進行していく過程で、「このデザインを実現させたい」という熱い想いや情熱がとても伝わってきました。
ここまで熱意を持ってデザインしてくれるならもう大丈夫だなと、途中から見守っていましたね。(笑)

奥隅:コンセプトに沿って具体的なメッセージを訴求していたこれまでのデザインとは異なり、今回のような「今うちの会社が言いたいことってこうだよね。」という、敢えてふわっと、抽象的に”エアリー感”を体現したデザインが社内でも好評でした
田草川:伝えたいことのすべての要素を文字やカタチで表現すると、来場者が受け取る情報が多くなってしまう。抽象的だからこそ感じられる会社の想いもあると感じています。
– たしかに、パネルなどの文字情報が非常に少ないブースですね。そこに振り切った理由はなんでしょう?
岩満:情報を文字や図にして最初から見せてしまうと、足を運んでくださるお客さまと社員とのコミュニケーションが稀薄なものになってしまう気がするんです。山口さんの提案にもあったように、このブースを中心にコミュニケーションが広がったらいいなと。
ですから、パネルも一般的に言えば、「これじゃ少ないよね。」って言われるくらいに敢えて絞っています。
三輪:そうですね。あくまでも展示会なので視覚的な情報量が多いほうが良い場合ももちろんあるんですが、今回は企業の伝えたいことをより来場者に感じていただけるよう、最低限の情報は残しつつ、抽象的でクリエイティブなデザインに振り切りました。
これまでは出展側が来場者に対して一方的なコミュニケーションをおこなうことが多かったですが、今回のHVAC&Rは、この空間を通して多くの来場者と双方的なコミュニケーションが生まれていましたね。

– 今回のプロジェクトの反響はいかがでしたでしょうか?
奥隅:これまでの展示会のなかでも一番クオリティが高かったと思いますね。細部まで本当に綺麗に作っていただいて、感動しました。
岩満:展示会に来ていた社員には、これまでの集大成だねと言われたほどです。(笑)大きな薄いカーテンは、その先を見てみたくなる、触ってみたくなるような働きをしてくれて、展示会以外のセミナーやキャラバンでも使ってみたいといった声も社内でありましたね。

奥隅:実際にブースを見た来場者の方からも「うちでもこういうブースをやりたい!」というお問い合わせを多くいただきました。展示会のなかでも特に目立ったブースでしたし、やっぱり皆さんこのデザインに興味を持っていただいたようで、多くの方が立ち止まって写真を撮ってくれていましたよね。この特有の空気感が、自然と足を運ばせたんじゃないかなと思います。
三輪:嬉しいですね。多くの方に「ひと想いソリューション」を体感してもらうことができたんじゃないかなと思います。

頭の中で描いていることを必ずカタチにしてくれるので、信頼しています。
– 博展とは長いお付き合いになりますが、いつもどのような点を期待してご依頼いただいているのでしょうか。
岩満:2013年からの博展さんとのお付き合いのなかで、実は私たちが頭の中で描いていることと博展さんが提案してくれる内容にギャップを感じたことがほとんど無いんですよ。
無理なお願いもたくさんしてきましたが、本当に細部までこだわってイメージを確実にカタチにしてくれる。これまで多くの販促関係のパートナーとプロジェクトを共にしてきましたけれど、そういうパートナーに出会うことは案外難しいんですよね。

奥隅:また、長く展示会を担当しているとどうしても目が慣れてしまいがちですが、今回は「空調業界だからこうあるべき」といった先入観を払拭しつつ、弊社が伝えたいことを最もいいカタチで体現してくれたデザイナーの山口さんにも助けられました。
これからも今回のように新しい視点での提案を期待しています。
三輪:ありがとうございます。これからも新しい切り口をご提案できるパートナーでいられるよう頑張りたいと思います。

OVERVIEW
CLIENT | 東芝キヤリア株式会社 |
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PROJECT | HVAC&R JAPAN 2022 |
VENUE | 東京ビッグサイト |
東芝キヤリア株式会社は、4年ぶりの開催となった冷凍・空調・暖房の展示会「HVAC&R JAPAN 2022(ヒーバックアンドアールジャパン)」に出展。 |
CREDIT
プロデューサー | 三輪陸 |
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デザイナー | 山口真優 |
プロダクトマネジメント | 山本聖 |
制作 | 田草川貴 |