2025年4月18日〜20日の3日間、幕張メッセにて開催された「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン2025」にて、博展は日本の音響機器メーカー・オーディオテクニカが手掛ける『スター・ウォーズ』をモチーフにした製品の販売をするブースのデザインを担当しました。
世界各国で開催される同イベントには、『スター・ウォーズ』シリーズのキャストやスタッフが来日し、125カ国以上から10万人を超えるファンが集結。17年ぶりに2度目の開催を迎えた日本会場に、世界中から大きな注目が寄せられました。

『スター・ウォーズ』は黒澤明などの日本映画や日本文化の影響を受けたシリーズとして知られており、博展チームは日本文化をモチーフとするブースデザインを提案。そのなかでも、オーディオテクニカのブランドを表現するためのコンセプトの立案は、本プロジェクトにおける重要なプロセスとなりました。本記事では、オーディオテクニカの4名のご担当者をお招きし、博展の4名のメンバーとともに、『スター・ウォーズ』とオーディオテクニカの世界観を表現した展示デザインのプロセスを振り返ります。

Index

『スター・ウォーズ』と日本文化の関わりをブースで表現する「日本庭園」の提案

ー今回「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン 2025」にて展示販売された、「スター・ウォーズ」作品をモチーフにした、オーディオテクニカさんの製品が企画されたきっかけをお聞かせください。

中村(オーディオテクニカ 商品企画担当):もともとウォルト・ディズニー・ジャパン社さんとは以前、マーベル作品をモチーフにした製品開発でご一緒させていただいたことをきっかけに継続的なお付き合いがあり、今回の製品に関しては、スター・ウォーズ セレブレーションの17年ぶりのアジア・日本開催が決まったタイミングで出展のお声がけいただいたことをきっかけに開発がスタートしました。
日本は『スター・ウォーズ』シリーズにインスパイアを与えた、特別な場所です。スター・ウォーズ セレブレーションには、世界中からファンが訪れると聞き、日本のブランドとして、日本人として“本物の日本”を体験していただけるようなものを届けたいという思いから、伝統工芸の越前漆の蒔絵とヘッドホン、『スター・ウォーズ』を掛け合わせた製品の提案をしました。

『スター・ウォーズ』の世界を伝統工芸で描いたプレミアムウッドヘッドホン

ー展示ブースのデザインを博展にご依頼いただいたきっかけは何でしたか?

栗田(オーディオテクニカ 宣伝PR担当):今回のプロジェクトの依頼先を探す中で、過去の実績を拝見し、クライアントが求めていることを高いビルドクオリティで実現する造作力を感じ、安心してお願いできそうだなと、今回初めて依頼させていただきました。

ー博展内でまずはどのように提案をまとめていったのかをお聞かせください。

神岡(博展 プロデューサー):ご依頼いただいた当初は、われわれの中でスター・ウォーズ セレブレーションに関する知識があまりなく、オーディオテクニカというブランドに対しての理解がまだ十分ではない状態だったので、ディズニーや『スター・ウォーズ』が好きなメンバーと、音響機器に詳しいメンバーに声をかけて、社内体制を整えていきました。その後、『スター・ウォーズ』とオーディオテクニカさんについてしっかりと分析した上で、最初の提案をまとめていきました。

阿部(博展 プランナー):まずは、何を軸にして考えていくべきなのかを整理するために、『スター・ウォーズ』訴求・商品訴求・オーディオテクニカのブランド訴求の3つの要素をあげ、イメージのすり合わせをしていきました。

プロジェクト全体の方向性とインサイトを3つの軸でまとめ、商品の購入を促すことを目的に、差別化ポイントの精査と体験イメージについての検討を重ねた。

岡田(博展 空間デザイナー):ブースのデザイン案に関しては、ファンの方々が来場されるイベントなので、なにより『スター・ウォーズ』ファーストのアイデアを考えていきました。僕自身、『スター・ウォーズ』が大好きだったので、どんな表現ならファンの心を掴むことできるのかを想像しながら、来場者の半数以上が外国人であることも考慮し、ビジュアル重視のファサードのデザインを提案させていただきました。

いくつかのフラッシュアイデアを提案し、最終的には「暗黒面(ダークサイド)日本庭園」のアイデアを採用いただくことができました。日本庭園をモチーフにしようと思ったのは、日本との関連性が深い『スター・ウォーズ』の世界観を日本文化の中に落とし込むことで、外国人のファンにインパクトを残すことができるのではないかと考えたからです。

「暗黒面(ダークサイド)日本庭園」のイメージビジュアル(生成AIで作成)。『スター・ウォーズ』シリーズは黒澤明などの日本映画からの影響を受けており、劇中に登場するさまざまな日本文化をモチーフにした美術を参考に世界観を構築した。

栗田:最初にご提案いただいたデザイン案がどれもよくて、これはもうお任せして大丈夫だなと、さっそく仕上がりへの期待値が高まりましたね。

中村:こんなにおもしろいことを考えてくれるんだと、想像を超えた提案でした。

左から、オーディオテクニカ 中村さん、栗田さん

オーディオテクニカが重視する「アナログ」表現を分析

ーそこから具体的なブースのデザインはどのように進めていったのでしょうか?

神岡:日本庭園のアイデアをお出しした際に、「Japan made – 時を超えて愛されるもの -」というコンセプトを設定していたんですが、その場に出席されていたみなさんから、「とてもいいんだけれど、なにかが違う」という率直な反応をいただいたんですね。そこで、オーディオテクニカさんについてちゃんと解釈した上でコンセプトを再設計し、しっかりと納得いただけるものをつくる必要があるなと、メンバー全員でマインドを切り替えることにしたんです。

博展 プロデューサー 神岡さん

阿部:いろいろとお話をうかがっていく中で、オーディオテクニカというブランドをしっかりと打ち出していきたいというみなさんの想いを知り、あらためてブランドについて理解するための時間をいただきました。ブランドガイドラインを拝見すると、オーディオテクニカのみなさんが「アナログ」という考え方を大切にされていることがわかったんです。その後、オーディオテクニカさんが重視するアナログで表現してきたものを「連続性」「再現不可能性」「知覚」の3つに分解し、ブースのデザインや体験に落とし込むことで、『スター・ウォーズ』のファンの方々に喜んでいただくだけの空間ではなく、オーディオテクニカとしての姿勢や出展する意義を持たせたブースにしました。

中村:オーディオテクニカはターンテーブル用のピックアップカートリッジの開発・販売からスタートした企業であり、ブランドコミュニケーションにおいて「アナログ」の考え方を大切にしているんですね。「なにかが違う」とお答えしたのは、今回の日本庭園のブースをオーディオテクニカがやる必然性や、何を伝えるブースなのか、よりはっきりとわかる方がいいのではないかと感じたからでした。

われわれ自身もオーディオテクニカにとっての「アナログ」を言語化するのがむずかしいんですが、レコードプレーヤーのようにアナログを象徴するような製品もあれば、「人の温かみ」といった抽象的なものをアナログと捉えて発信している部分もあり、いろんなことに当てはめることができる側面があるんですね。そういった部分をきちんと言語化していただき、なにを目指していくべきなのかをまとめていただいたことは、今回のブースを構成するにあたってとても意味があったと思いますし、ここまで深くブランドについて考えていただいたことに率直に感動しました。

自然の風合いと経年美を感じさせるデザインのディテール

ーその後、ブランドへの理解はどのように活かされたのでしょうか?

神岡:第2案では、アナログについての解釈を加えたのはもちろん、日本庭園とはどういうものなのかをしっかり勉強した上で、オーディオテクニカのブランドと日本庭園の親和性をデザイン案にまとめていきました。

岡田:日本最古の作庭理論書と言われている『作庭記』という平安時代の文献があるんですが、冒頭に書かれていた「石を立てん事、まづ大旨をこころうべき也」という表現が、展示ブースのデザインの考え方に近いなと思ったんですね。これは「庭をつくるなら、まずコンセプトを決めるべきである」という意味なんですが、たとえば平等院の庭園では、阿弥陀如来の世界が表現されていますし、毛越寺の庭園では極楽浄土が表現されています。日本庭園とは、一貫して水・石・植物などの自然のものを用いて大地の上に自然の風景をつくり出すものであり、施主の思いや作庭者の意図、職人の情熱が込められることが前提となります。そのため、さきほど整理したアナログの要素のひとつである「再現不可能性」を表す自然を用いることで、オーディオテクニカさんの理想を表現する空間をつくることを目指しました。

博展 空間デザイナー 岡田さん

栗田:とてもポテンシャルのある提案をいただき、効果を最大化するためには、来場者の方々が回遊できるある程度の広さが必要だと感じたので、当初は6小間分だった出展スペースを、8小間に広げました。なにより博展さんの意気込みを感じることができ、しっかりとコンテンツをつくっていただけるだろうという信頼感もあったので、上層部に交渉したんです。

阿部:「この案で6小間だと狭いですよね?」とおっしゃられた時、てっきり冗談だと思ってしまったんですが(笑)、実際にスペースを広げていただいたことに驚きました。

ーブースのデザインに活かされた具体的なポイントをお聞かせください。

岡田:今回は特に、アナログを表現する3要素のひとつである「再現不可能性」を物理的に表現できる素材を使用することにこだわりました。展示会のブースでは基本的に紙の表具が貼られることが多いんですが、このブースでは木目の素地に黒のオイルステインの塗装することで、木の風合いを活かした仕上げにしています。壁面のどこを見ても表情が違うので、自然の中にあるものをそのまま活かすという、日本庭園の考え方へのリスペクトを反映したブースにできたんじゃないかなと思います。

神岡:フォースで浮かんでいる岩の演出では、本来であれば本物を使いたかったところ、安全面への配慮から発砲造作を使用することになったんです。それでも、できるだけ本物に似せるために、協力会社の方々に3パターンほど制作いただき、色味とかたちの確認を進めていきました。

岡田:細かなこだわりがあってこそ空間全体の演出が活きてくると思うので、リアルな表情を追求するために、苔むしたような塗装で、自然の風合いと経年美を表現しました。

栗田:こういった造作物に関して、実際に工場で確認させていただきながら進められたことはわれわれの安心につながりましたし、どこに課題があり、どういった改善がされているのかを共有いただきながら進められたのがよかったですね。

塗装で自然な岩の風合いを表現した

岡田:ほかにも、ヘッドホンのライティングは特に工場での検証で重要だったと思います。ヘッドホンに施された蒔絵は、光によって奥行き感や見え方が変わるため、どのようにライティングすれば美しく見せることができるか、何度も検証を重ねました。当初はモビリティなどの展示でよく使用される面光源を採用していたんですが、全体的に光が当たると思ったより製品がのっぺりとした印象になってしまったので、対角線上に照明を配置し、あえて光を左右対称に当たらないようにしたところ、見る角度によって異なる表情が生まれる抑揚を出すことができました。

中村:職人さんの手作業だからこそ表現できる唯一無二の魅力を感じていただく展示として、思い描いていた通りのものになりました。私の中では、博物館に展示されている工芸品や、怪盗が盗む宝物のような展示方法を想像をしていたので、本当にイメージ通りですばらしいなと。

ヘッドホンのライティングの検証の様子

永山(オーディオテクニカ 商品開発担当):枯山水の表現にもとても感動しましたね。日本庭園の世界観とプロダクトの展示を融合させる上でとてもアイキャッチになっていましたし、通りがかりの来場者の方々がたくさん写真を撮ってくださっていました。

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OVERVIEW

CLIENT株式会社オーディオテクニカ
PROJECTスター・ウォーズ セレブレーション ジャパン2025
VENUE幕張メッセ

2025年4月18日〜20日の3日間、幕張メッセにて開催された「スター・ウォーズ セレブレーション ジャパン2025」にて、博展は日本の音響機器メーカー・オーディオテクニカが手掛ける『スター・ウォーズ』をモチーフにした製品の販売をするブースのデザインを担当しました。
『スター・ウォーズ』は黒澤明などの日本映画や日本文化の影響を受けたシリーズとして知られており、博展チームは日本文化をモチーフとするブースデザインを提案。そのなかでも、オーディオテクニカのブランドを表現するためのコンセプトの立案は、本プロジェクトにおける重要なプロセスとなりました。