INTRODUCTION

新型コロナウイルスの影響で一時期は完全にストップしていたイベントですが、人数制限を設けた現地イベントを開催し、会場の様子をオンラインで配信するという“ハイブリッド型”に変化を遂げ、再び脚光を浴びています。

2021年2月に開催された『サステナブルブランド・ジャパン国際会議 2021 横浜』(以下SB横浜)では、現地来場者向けのイベントとオンライン参加者向けの配信をハイブリッドに実施。参加者数が増加しただけでなく、オン / オフライン両方における参加者の満足度を向上させました。

今回は国内最大級のハイブリッドイベントにおいて高難度のLive配信を実現し、参加者の満足度向上に導いたテクニカルディレクターの中條が、Withコロナの状況でイベントの効果を最大化するための秘訣を語ります。

OUTLINE

8セッション同時に生配信し、現地参加者とオンライン参加者両方の満足度を向上

中條:
SB横浜ではオンライン参加者向けに全セッションのライブ配信を行い、今回はその配信をディレクションしました。「配信ディレクション」と一言でいうと簡単そうに聞こえますが、実際は非常に複雑です。

同時進行で行われる8つのセッションをライブ配信したのですが、全ての配信情報を管理をするのはなかなか大変ですし、気を遣う内容でした。

SB横浜は基本的に全てのセッションでパネルディスカッションを実施します。今回は登壇者の約4割がオンライン登壇だったこともあり、リモート登壇者と現地の登壇者がディスカッションできる環境を整える必要がありました。さらに、配信を見ている視聴者と会場にいる来場者両方に音声が聞こえるようにする必要も。

単に運営をサポートするだけではなく、配信環境の企画から考えました。

<当日の配信スケジュール>

オンラインセミナーは、動画配信を前提に会場を決め、構成や資料を作ることができます。しかし、ハイブリッドイベントを行う場合は、会場は来場者のために用意されており、定点カメラで配信するような映像では、内容や温度感を視聴者に伝えきれないという点があります。

会場イベントとは別に、オンライン配信の満足度を高めるための配信方法、配信画の作り方を工夫する必要があるということです。

ハイブリッドイベントは現地参加者 / オンライン参加者両方の満足度を高めなくてはいけないという点に難しさがありますね。

PLANNING

自分の興味に合わせてコンテンツを選択できる、オンラインならではのリッチな体験を提供

中條:
オンライン参加者の目線を持つこと”が非常に重要です。
視聴者にリアルな会場をイメージさせ、その場で最適なコミュニケーションをとるための準備を行う必要があります。

今回は各セッションの登壇形式が非常に複雑で、現地登壇のみ / 現地登壇とオンライン登壇のディスカッション / オンライン登壇者同士のディスカッション…など全6パターンもあったため、全ての配信でクオリティを担保するのが非常に難しかったです。

また、SB横浜はグローバルイベントなので、日本語から英語、英語から日本語の2種類の通訳も用意しましたね。

“オンライン参加者の目線を持つ”ためには、配信スタッフをまとめ、指示を出せるディレクターをしっかり配置し、組織体制を確立することが必須です。

今回のSB横浜であれば、カンファレンスに関する知識・経験があり、かつ配信のあり方を瞬時に判断できる人材が必要です。登壇者が今一番見せたいものは何か、意図をくみ取り、配信するものを判断する必要がありましたね。

よく「オンラインイベント / オンライン配信では熱量を伝えきれない」という声を耳にしますが、適切な人材の確保や組織体制の確立をすると、効果が高まります。

現地参加と異なり、オンライン参加は各チャンネルを跨いで視聴できるため、結果としてオンライン参加者からの反応はすごくよかったです。

オンラインイベントをテレビ感覚でザッピングしながら視聴できるというリッチな体験は、今までなかったのではないでしょうか?

最も興味があるコンテンツを、自分のタイミングで決めることができるのは、オンラインならではのメリットかもしれませんね。

KEY FACTOR

イベントの特性を理解し、信頼できる強いチームを結成

今回SB横浜を成功させることができた要因は4つ。

1. オンライン参加者の目線を持ち続けたこと

2. カンファレンス&配信両方に長けたディレクターがいたこと 

3. 事前にリスクヘッジを徹底したこと                

4. メンバーを信頼し、判断基準のすみわけを明確に行ったこと

この4つを徹底できたからこそ、トラブルもなく参加者の満足度を担保できました。

先ほどお話ししたとおり、カンファレンスと配信両方の知識がある人材がいること / オンライン参加者の視点を持ち続けたことの2点は大きかったと思います。

加えて、“事前準備の徹底”と“信頼できる配信メンバーの存在”もポイントでした。

イベントは基本的にナマモノですから、蓋を開けてみないとどうなるのかわからない、ということが多いです。イベントはコンサートや舞台など演者の動きが決まっているものとは違い、登壇者の動きや目線までを細かくリハーサルすることはできません。

今回は事前準備の段階で、いかにリスクヘッジできるかがキーポイントになりました。

事前に完璧な環境整備を行うとともに、現場スタッフが決めるべきこととディレクターの判断を要することの線引きを明確化していました。

信頼できるメンバーに恵まれていたので、大きなトラブルがない限り、細かいカメラの寄せ方や画面の管理は各配信スタッフにすべて任せていましたね。

<事前に共有していた資料>
<配信環境の図解>

新型コロナウイルスが流行する前は、オンライン配信なんて一度もしたことがありませんでした。コロナ禍を受け、社内でThink EXperienceというオウンドメディアを立ち上げ、サイト内でウェビナーをスタートし、勉強と挑戦を繰り返してきました。

今回のSB横浜で視聴者が心地よいと感じる視点作りができたのは、間違いなくThink EXperoenceの集積です。

<自社でセミナーを開催する様子>

NEXT TRY

オンラインという手法を駆使し、イベントのスタンダードを更新し続ける

セミナーやカンファレンスは、この先オンライン配信が当たり前になると思います。

“現地開催のみ”というのは相対的に限定感が高まり、プレミア化するのではないでしょうか?

オンラインイベントは出張費を必要とせず、資料もよく見え、セミナー内容に集中できるため、メリットが多く、非常に効率的なのです。

その一方で、これから先の時代に求められるのはネットワーキングの視点

この点において対面のコミュニケーションに勝るものはありません。ですから、どこまでの機能をオンラインイベントで担っていくのかが論点になると思います。

これまではイベントの成功基準が、“満員御礼”などの現地参加者の人数でした。しかしこれからは、イベントの内容によってその判断基準が多様化していくのだと感じています。

個人の価値観が多様化する中で、イベントも成功指標を多様化しないと成り立たないのです。

オンラインの利便性を知った今、もう会場への集客を伴う現地イベントのみを行っていたもとの時代には戻れない。だからこそ、これからも挑戦を続け、イベントのスタンダードを更新し続けたいと思います。

OVERVIEW

CREDIT

プロデューサー 鈴木紳介・松本侑記
ディレクター(全体統括) 長坂智崇
テクニカルディレクター 中條卓