2021年12月、有楽町マルイ1Fに期間限定のPOP UP SHOP『NEXT ESSENTIAL STORE』がオープン。『NEXT ESSENTIAL STORE』は植物由来の新素材「PlaX」を用いてタオルやルームウェアなどを展開するブランド「bio」の運営元であるBioworks株式会社が展開する体験型セレクトショップ。人にも地球にもやさしい「ネクスト・エッセンシャル」な素材で作られた商品を通して、現在の地球が直面している課題を学び、未来を想像することができます。博展は同ストアのデザイン・施工を担当しました。


サステナビリティ・アンバサダーを務めるプロデューサーの橋本・デザイナーの藤原と、プロダクトマネジメントの熊崎が本案件を担当し、サステナブル商品を展開するにふさわしい“環境にやさしいポップアップショップ”を実現しました。Bioworks株式会社の吉井さんと小栗さんと、ショップのコンセプトに込めた思い、そして実現に至った背景を振り返ります。

左からBioworks(株) 小栗さん、吉井さん、(株)博展 プロデューサー 橋本、デザイナー 藤原、プロダクトマネジメント 熊崎

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“サステナブル”へのビジョンに共感してくれるパートナーに出会えましたね。

ー まず、サステナブルを体現したポップアップショップ『NEXT ESSENTIAL STORE』を企画された背景を教えていただけますか?

吉井:Bioworksは「PlaX(プラックス)」という環境負荷の低い素材を開発し、ルームウェアやタオルといったプロダクトを製造・販売しています。

ご存知の通り、ファッション産業は環境負荷が高い産業なんです。世界汚染産業第2位とも言われていますからね。そのため、私たちが開発した新たな環境配慮型素材で、環境問題を解決していくことを目指しているんです。

でも、プロダクト開発だけでは“サステナブル”は実現できない。サプライチェーンの川上から川下まで、一貫して“サステナブル”を実現するために、日々取り組んでいます。

小栗:今回会場となったマルイさんも環境問題に積極的に取り組んでいる企業です。そういうこともあって、私たちの企業理念に強く共感いただき、今回のようなポップアップショップが実現しました。

製品がどんな素材からつくられて、どのような生産背景で生み出されているのか。店舗というのは私たちが日頃考えていることや取り組んでいることをお客様に知っていただくための貴重な場になります。なぜ環境配慮素材を選ばなければならないか、選ぶことでどうなるかといった“サステナブル”の意識をより自分ごと化してもらえるような空間を目指しました。

それを表現した今回のコンセプトが「少しだけ未来の“エッセンシャル”を体験する場所」です。SFのように遠い未来の話ではなく、身近でありながら少し未来を想像できる、見たことはあるけど触ってみると新しい、使ってみると違いがわかる、そんなコンセプトでやりたいと思ったんです。

ー 今回、ポップアップストアの空間設計を博展に依頼してくださったのは、弊社のサスティナビリティに対する姿勢を評価していただいたからだと伺いました。

吉井:そうですね。ブランドのビジョンを体現する場をつくるにあたり、価値観を共有できる企業さんにお願いしたいと以前から考えていました。博展さんは「Sustainable Brands Japan」というメディアを運営していたり、サステナビリティ・アンバサダーが情報を発信していたりと、積極的な取り組みをされていますよね。

クリエイティブの品質はもちろんのこと、そういった姿勢をお持ちであることも今回ご一緒させていただく上では重要なポイントでした。

橋本:ありがとうございます。

イベント制作では廃材の多さが業界の課題なので、運搬時の梱包を布にしたり、廃材を環境負荷の低い方法で処理する企業に依頼したりと、日頃から環境に配慮した方法を取り入れられないか模索しています。

今回ご一緒するにあたり、素材選びやイベント終了後の廃棄の方法を改めて見直し、私たち自身もBioworksさんから学びながら制作をおこなっていきました。



今まで“蓄積してしまったこと”を、“積み重ねていくべきこと”に転換しよう。

藤原:こうした思いを受けて提案させていただいたのが「地層-Layering-」というコンセプトです。

最近では海に捨てられたプラスチックゴミが砂浜に体積し地層になってしまっていることが問題視されていますよね。これは人間が環境に与えてきた負荷がどんどん蓄積され、可視化されたものです。このように負の要素で“蓄積してしまったこと”でできた地層を、“積み重ねていくべきこと”に転換していく。そうしたBioworksさんの取り組みを表現するために、「地層-Layering-」というコンセプトを採用しました。

地層をテーマにしたコンセプト展示と什器にはすべてリサイクルできる素材を選び、そこにある素材そのものがメッセージ性を持つような什器を製作しました。

熊崎:施工に当たっても接着剤を使うとリサイクルできなくなってしまうので、接着剤ではなく紐で縛って固定するなど、製作工程においてなるべく廃棄が出ないよう工夫しましたね。

どうしても発生してしまう廃棄物についてはどのように分別され、処理されるのかを考えながら、環境負荷の低い方法を常に選んでいきました。

小栗:いろんな歴史が積み重なっているところをしっかり直視しながら、未来を変えていくという転換の視点にはとても心に響きましたね。


実際に自分たちの目で見て、手に取ることが大事で、そうすることでより伝わると思うんです。

熊崎:これは普段から感じていることなのですが、一つひとつの作業をサステナブルに結びつけるというのは簡単じゃないんですよ。使っている素材とか廃棄物がどこからどこへ行くのかを把握して、コントロールしなければいけませんからね。

吉井:そうですよね。今回よかったことのひとつに、実際に博展さんの製作現場に伺わせてもらったことがあります。おかげで素材選びから一緒に相談することができましたね。生産背景からコントロールできるし、検証作業をスピーディに進められる。“ものづくりの場”を自社で持っているというのは博展さんの強みだと思います。

小栗: コンセプト展示を含め、ポップアップショップで使用した素材のいくつかは博展さんが実際に海に行って拾ってきたんですよね。



熊崎:そうなんです。「海洋ゴミ」と検索すれば、その様子をインターネット上でいくらでも見ることができますが、海に捨てられたゴミがどのようにして海岸に流れ着いているのか、実際に自ら足を運び、見て、手に取ることが大事で、そうすることでより伝わると思いました。


藤原:そうして伝えながらも、ただのきれいごとにならないよう、また、生々しくなりすぎないように空間デザインのバランスには気をつけましたね。



“だれでも運べて、だれでも組める”
柔軟性のある什器も実はサステナブルなんですよね。


小栗:博展さんとご一緒するのは今回が初めてでしたが、アイデアの質の高さと量の多さに驚きました。そして、それを完成させられる力がある。ファッション業界に参入している身としては、理屈ではなく感性に訴えかける空間を実現できるというのはとても嬉しいことでした。

吉井:それから、什器が自由に動かせる設計というのも出展者としては助かりましたよ。会期中に来場者の動向に合わせてレイアウト変更をできますし、違うイベントのときにも活用できますからね。

熊崎:ポップアップイベントは会場によってサイズが変わるので、スペースに合わせて什器を組み替えながら繰り返しお使いいただきたいと考えて、柔軟性の高い設計にしています。“だれでも運べてだれでも組める”というのも実はサステナブルなんですよね。

吉井:今回実際に出来上がった空間を見た瞬間はとても感動しました。想像以上のクオリティだったので、正直自分たちでやらなくてよかったーと思いましたね。(笑)環境配慮に取り組んでいるマルイさんも喜んでくれましたし、博展さんがいてくれて本当によかったです。


イベントの “出口” までを意識した姿勢と取り組みに助けられましたね。


吉井:私たちがつくっているプロダクトは「PlaX(プラックス)」という循環型社会に貢献できる素材を使用しているのですが、それは単なる“入口”の話に過ぎないわけです。SDGsの目標のなかで「つくる責任 つかう責任」というゴールが設定されているように、当然 “出口”まで考える必要がある。博展さんはポップアップやイベントという短期間の活動に対して、入口から出口までを意識した取り組み、姿勢を見せてくれました

小栗:私たちの要望をただ受け止めるのではなく、より良くなるようにちゃんと対話してくれて、寄り添ったコミュニケーションをしてくれていると感じましたね。こういったことは、うわべだけでできるようなことではないので、私たちの要望に真摯に取り組んでくれたのだなと伝わってきました。それから、製作過程を記録して共有してくれたのも、非常に助かりましたよ。

橋本:少し照れますね、ありがとうございます。(笑)そうですね、製作する過程でゴミを出さないようにする工夫と同時に、出てしまった廃棄物の記録をとって吉井様と小栗様にも展開したんです。そうすることで、どのようなタイミングでゴミが出てしまうかをきちんと認識できましたし、共有することで今後このようなプロモーションをする際にゴミを減らすことにも繋がると思います。

一つひとつの作業をサステナブルに繋げるというお話にもありましたように、例えば資料ひとつにしてもそれを出力する必要があるのかどうかなど、小さなことではあるかもしれませんが、普段おこなっている作業を見直すことができました。今回のプロジェクトに参加していないメンバーにも伝えていきたいですね。

藤原:サステナブルの活動は継続し、当たり前にしていかなければ意味がないんですよね。それは、私たちもご一緒するなかでより学んでいった部分でもあります。

熊崎:製作現場でもマテリアルの選び方など、まだまだ変えていける部分があると感じました。実際に行動をすることから意識が変わるのだと今回のプロジェクトを通じて学びました。少しずつ行動に移していきたいですね。

吉井:社会全体が変わっていくためには、弊社のサスティナブルへの取り組みを一方的に伝えるだけでは不十分です。より多くの方々にどれだけ能動的、自発的に学んでもらえるきっかけを提供できるか。そうした視点が大切なのだと再認識できましたね。今後もサステナブルな社会の実現のために取り組んでいきたいと考えています。

橋本:社内への啓蒙を行うサステナビリティ・アンバサダーとしての活動を、社外のクライアント様とのプロジェクトに活かせたことを嬉しく思います。自分たちがやってきたことが最後どうなるのか、どこへいくのか提示することが私たちができる第一歩なんじゃないかと感じています。

熊崎:「納品まで」だけではなく、「納品後」のことを考えながらものをつくることが重要なのだと、このプロジェクトを通して再認識できました。それが当たり前になっていく未来を実現できるよう、今後も実践を続けていきます。

OVERVIEW

CLIENTBioworks株式会社
PROJECTNEXT ESSENTIAL STORE
VENUE有楽町マルイ

CREDIT

プロデューサー 橋本 果菜
空間デザイナー 藤原慧茉
プロダクトマネジメント 熊崎耕平