今年で設立135周年となる工学院大学の周年展示が、新宿キャンパスにて2022年10月から公開されました。月刊雑誌「ブレーン」の60周年誌面特別企画で始動したこのプロジェクトは、135年という歴史を振り返るだけではなく、未来への想いも込めて工学院大学の学生とともに展示を制作しました。

博展では展示の企画・提案を担当。そのプロジェクトの過程を、デザイナー/プランナーの関とデジタルディレクションの久我と三谷、そして制作ディレクションの熊崎が、学生団体WA-K.pro(ワークプロ)の依本さん、三上さん、李さんとともに振り返ります。

WA-K.pro(ワークプロ

工学院大学の1・2年生を中心に建築を実践的に学ぶ学生プロジェクト。八王子キャンパスを含めその周辺地域のひとや企業と一緒に、「さまざまな角度から建築を学び、体験する。」をコンセプトに活動。現在約350名在籍。本プロジェクトではWA-K.proから10名程度が参加。
https://www.kogakuin.ac.jp/archive/wa-k_pro.html
左から、㈱博展 制作ディレクション 熊崎さん、デザイナー/プランナー 関さん、デジタルディレクション 久我さん、三谷さん

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周年展示を制作するにあたって、改めて“歴史”の持つ意味を再解釈しました。

– 展示にはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?

関:この展示は工学院大学が135周年という節目にあたって制作しました。
もともとは宣伝会議が出版している「ブレーン」の60周年企画としてお声がけいただいたところから始まったプロジェクトなのですが、工学院大学が大事にしている「工の精神」と、博展と工学院大学の共通している「ものづくり」をこの周年展示を通して表現しました。

まず、周年展示を制作するにあたって、改めて“歴史”の持つ意味の再解釈から始めましたね。

工学院大学を築いているのはこれまでの長い歴史ですが、歴史は“今”が最終時点ではありません。
周年の歴史展示はどうしても過去を振り返るものが多くなってしまいますが、過去だけでなく、同じくらい未来をみていく展示をつくろうと思い、「歴史は終わらない、今は途中経過。」というコンセプトで進めました。
そして、その未来をつくっていくのは今の学生たちなので、彼らの未来に向けた想いを込めた展示にしました。

この展示は中心のKの立体ロゴを境に左半分は過去の歴史、そして右半分はこれからの未来が表現されたデザインになっています。

Kのロゴは“今”を表すものなので、在学中の学生につくってもらおうと思い、共同で制作しました。

白熱した議論が繰り返されたデザインだからこそ、いいものが作れたと思います。

依本(WA-K.pro):過去と未来の真ん中に位置する「K」の立体ロゴをワークショップ形式で博展さんと一緒に作っていきました。


まず自分たちが考えたデザインをベースに、どういった経緯でそのデザインに至ったか、色や素材をどうするかなど、博展のデザイナーさんたちから「もっとこうしたら良くなるよ。」といったアドバイスをいただきながら一緒に決めていきました。

関:学生たちにゼロから考えてもらって、過去と未来のつながりを表すピクセル案で最終的には進めていきましたね。

依本(WA-K.pro):実際に博展の共創スタジオで仮組みをおこなったのですが、ここでさらにロゴのデザインを一緒に詰めていき、施工日も現場で試行錯誤しながら組み立てていきました。

三上(WA-K.pro):「K」のロゴをどんなデザインにするか学生グループで話し合っていたときは、意見がぶつかり合うこともありましたね。(笑)
白熱した議論が繰り返されたデザインだからこそ、いいものが作れたとより実感できます。

関:博展のデザイナーは普段、まず手を動かしながらデザインを考えていくことが多いのですが、学生のワークショップを見ていると議論にとても時間をかけていることに驚きました。建築学部だからなんですかね、そのギャップが面白いなと思いました。

また、未来の展示では、学生に「将来どうなりたいか」といった未来に向けた想いをを募集し、そこで集まったメッセージを入れているんです。このアンケートは、WA-K.proのみんなに協力してもらいました。

依本(WA-K.pro):集まったメッセージには「建築」とか「技術」といった工学院大学らしいワードはもちろん、コロナ禍だからこそ出てくるようなメッセージや、環境汚染に向けた想いなど多岐に渡りました。同じ「未来」という言葉でも、学生によって視点が違うのは面白いですね。
そういえば、李の書いたメッセージが多く採用されてたよね。 

李(WA-K.pro):僕は中国からの留学生なのですが、「日本と中国の特色が融合したニュータイプの建築を目指したい!」などのメッセージが採用されました。

多くのひとからメッセージを集めるために、他学部の知人にお願いしたり、Twitterでも呼びかけたりしましたね。

工学院大学と博展の共通点「ものづくり」を表現するために、敢えて仕組みを見せたかったんです。

関:在学生が自分たちの学校である“工学院大学”に興味を持ち、さらに誇りを持ってもらうことも目的の一つだったので、今回の展示を通して学生に自分ごと化してもらうことが重要でした。

学生たちが展示を自分ごと化してもらいやすくなるよう、グラフィックを展示するような「静」の展示ではなく、できるだけ「動」の展示にしたんです。

久我:この展示はモーターで回転させていて、右側の未来展示部分ではモニターとグラフィックで、先程の学生たちから集めたメッセージを流しています。

三谷:僕たちは設計の一部と、モーターの回転の制御、また、未来側でモニターに流す映像の作成をメインに担当しました。

特にこだわったのは、普段は隠してしまうような構造部分を敢えて見せたことですね。工学院大学と博展の共通点「ものづくり」を表現するために、仕組みをむき出しにすることで、どう動かしているかという面白さを共感してもらえるんじゃないかと思ったんです。

熊崎:学生に制作の裏側や過程を見てもらいたいという気持ちは僕自身も感じていたので、実際に段取りを踏んで一緒に進めていけたのはすごくよかったですね。学生と共創スタジオで一緒に作った時間は刺激になりました。

これは制作の観点での話になるんですが、みんながやろうとしている表現をどうにか実現させてあげたいなという想いが強くありました。ローラーがうまく回らないとか、想像していた素材と違うとか。そうならないように、素材ひとつにしてもリサーチを重ねて施工まで準備を進めていきました。

関:実はこの展示の裏側には学生たちと一緒に作り上げた制作過程の写真や図面、ラフスケッチなどを展示しているんです。
これは、この共同プロジェクトに欠かせない、重要な展示です。

三上(WA-K.pro):この過程をみんなに知ってもらうことでまた展示の見え方も変わってくるので、ぜひこの裏側の制作過程の展示も見ていただきたいですね。


自分たちがチームで作り上げていった展示を同じ学生が見てる姿にとても感動しました。

– 実際に完成した展示を見てどう思いましたか?

依本(WA-K.pro):自分たちが作ったものを、たくさんの学生が見ている光景に、とても感動しました。授業ではなかなか体験できないことでしたね。

それからこれは完成した展示を見て初めて知ったのですが、僕たちがデザインしたKのロゴマークに合わせて、サイドのシートにもグリッドを入れてデザインを統一させていたところを見て、やっぱりプロの仕事は違うなと感激しましたね。

三上(WA-K.pro):チームで努力して一つの形にしたものを実際に誰かに見てもらう、作品が人の目に留まる喜びを感じました。立ち止まって見てる人がいると、本当に頑張って良かったなと。普段、学校でも課題を人に見てもらう機会はありますが、それとは違う感情でとても新鮮ですね。


依本(WA-K.pro):僕たちは建築学部なので、最初は、仮設の展示という異なる分野のプロジェクトに対しうまくできるか不安な気持ちもあったんです。

けれど、コンセプトプランから実際に形にしていくまでの過程を経験し、それを見る人、訪れる人に対しどう伝えるか、アウトプットまでの筋道は建築学と共通点がたくさんあり勉強になりました。これは実際に制作に参加しないと気づかなかった点だと思いますね。

三上(WA-K.pro):デザイン×デジタル×施工の実現力といういろんな分野の力を持ち合わせて一つのものを作っていくという新たな視点も学ぶことができました。

李(WA-K.pro):大学の講義では理論上のことを学びますが、今回のようなゼロから自分たちで考えて手を動かして形にしていくことがとても大切な経験なのだと感じました。
展示物ひとつにしても、それを見るひとにどのようにして響かせるかという部分まで考える「体験デザイン」をしっかり学べました。

関:単なる展示物ではなく、「展示を見たひとがどう思うか。」「展示を通して感情や行動をどう変化させるか。」というジャーニー設計を含め、体験デザインとはどういうものなのか、学生のみんなが感じ取ってくれたようで嬉しいです。
この経験は今後の活動にもきっと活きてくるはずです。またどこかでお会いできることを楽しみにしています!

OVERVIEW

CLIENT工学院大学
LOCATION工学院大学 新宿キャンパス

今年で設立135周年となる工学院大学の周年展示が、新宿キャンパスにて2022年10月から公開されました。このプロジェクトは、月刊雑誌「ブレーン」の60周年誌面特別企画で始動。博展は展示の企画・提案を担当しました。