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INTRODUCTION

神奈川県横須賀市にて行われたアートイベント『Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島』に博展が出展。

猿島に刻まれた記憶を美しい光によって浮かび上がらせる作品『prism』を展示し、その作品が2021年のiF Design Awardで9,509点のエントリーの中から上位1%にも満たないGOLDを受賞しました。さらに2017年から2021年のインテリア・内装部門受賞ポイントが世界のTOP 10にも入っています。

今回は2021年iF Goldを受賞したprismという作品のアウトプットに至る経緯/着眼点やデザインプロセスを、担当した弊社デザイナー(以下D) 高橋と、それを実現したプロダクトマネージャー(以下PM) 熊崎が紐解いていきます。

OUTLINE

歴史の記憶をデザインやアートの力を借りて美しく呼び起こす

高橋:
この『prism』という作品には、猿島の持つ背景が大きく関わっています。

今回の展示場所となった猿島は、幕末から第二次世界大戦終戦に至るまで、要塞の島として多くの砲台高射砲などの防衛施設が設置され、終戦後においても砲台や弾薬庫などの痕跡が今なお色濃く残っています。

この『prism』は猿島の外形と旧砲台跡地を元に浜辺にプリズムを敷き詰め、それが灯台のような光を反射することで、猿島が持つこの重たい空気、歴史の記憶をデザインやアートの力を借りて美しく呼び起こす作品です。

PLANNING

“体験”をDNAとしているHAKUTENだからこそ、“来場者も作品に関与する”能動的な作品に

高橋:
最初に展示場所を選ぶために猿島を訪れた時、なんとも言えない重たい空気があり、正直に言うととても心細い気持ちになりましたが、その暗い森の中から開けた海岸へと出てきたときに、対岸には横須賀の美しい夜景が広がり、「帰ってきた」という安堵感がありました。

僕にとってその体験が非常に印象的だったので、この作品は猿島が持つ暗い過去と今の美しい街の明かりをつなぐインスタレーションにしたいという方針にまとまりました。

また、美しい夜景や未来を表現するために光を使った作品にしようと考え、プリズムによって光を分散・反射することで幻想的な雰囲気を演出しました。

今回は猿島が持つ歴史的背景も作品に含めたいと考えていたので、展示物だけで完結させるのではなく、猿島という環境に上手く馴染ませる必要がありましたね。

さらに、“体験”をDNAとしているHAKUTENだからこそ、“作品を鑑賞する”という受動的な作品ではなく、“来場者も自ら作品に関与する”という能動的な作品にしたいと考えてデザインを進めました。

このような表現をL E Dの照明3つとプリズムだけで実現することもこの作品のポイントだと思います。

例えば、光の演出だけを実現しようとすればデジタル制御されたレーザーでより複雑な表現もできます。ですが、プリズムの反射と浜辺の平面な地形など最小限の要素で表現しつつ、そこに環境要因をうまく取り込むことで、デジタルではないアナログの表現をしたいと強く思っていました。

実際、無人島ということもあり、少ない電気で表現しなければならないという制限もあったので、この方針でまとまりましたね。

KEY FACTOR

無人島、屋外、光の演出という難関を乗り越え、実現に向けて共に考えるHAKUTEN CREATIVE

熊崎:
このデザインを実現させたいと相談を受けた時、無人島や光の演出などHAKUTENとしても取り組んだことのない内容だらけだったので、正直少し不安はありましたね。

しかし、内容を精査していくと、この作品を実現するためには3つの条件をクリアする必要があることが浮き彫りになりました。

無人島の屋外で展示

猿島までは陸路がなく、全て船での搬入出なので、天候にかなり影響を受けてしまうことから、綿密に施工のスケジュールを組む必要がありました。

また、台風の影響も考慮し、地元の方に協力をいただきながら水位が上がっても波にさらわれない場所を見定めることも重要でした。

実際、展示中に台風に見舞われましたが、幸いにも作品には影響ありませんでした。

浜辺で展示

直線的に伸びていく光を遮らないよう、浜辺を平らにする必要がありました。

単にステージを作って平らにするのであれば簡単ですが、今回は作品を島の景観の一部にすることも重要な要素だったので、土台が馴染むように海岸に埋め、最後は実際の現地の砂を使って整えていきました。

数百個のプリズムを使った光の表現

デジタル上で作り上げるパースでは光の反射や色味などを検証できないため、実際にプリズムを海外からいくつも取り寄せ、社内で検証を繰り返しました。

検証によって光の伸び方や色合いなどは確認できましたが、今度はプリズムを数百個も手配しなければならなかったので、社内の多くのメンバーを巻き込んで探しまわり、海外の卸会社と英語で交渉しながら無事に手配を完了しました。

実際に展示する場所で無数のプリズムが相互に光を反射してくれるのか、しっかり光が伸びてくれるかは展示するまで分からなかったので、実は内心とてもドキドキしていました。

しかし、実際に展示をしてみると想像していた以上に猿島の自然と、この作品が馴染んでいて感動しました。

浜辺という広い場所、さらに日没後の無人島という暗い空間での展示だったからこそ、来場者の服や、浜辺に押し寄せる波にまで光が反射し、幻想的な空間を演出できたと思います。

高橋:
僕は子供たちがすごく喜んで作品に参加している姿を見て「成功したな」と思いました。

僕の大事にしている信念に「子供が喜ぶようなデザイン」というものがあります。

忖度なく、直感的に受け止めてくれる子供までもがこの展示に参加し、楽しんでいる姿を見て、文字通り老若男女問わず、全ての来場者に楽しんでいただける作品にできたなと確信しました。

また、実際にiF Design Award審査員からも以下のように評価いただけたのは非常に嬉しかったですね。

<評価コメント翻訳版抜粋>
Prismは、(昼間は)目立たないインスタレーションです。しかし、夜になると、このプロジェクトの壮大なインパクトは、忘れ去られた島を活性化させる可能性を秘めています。記憶の海の中の道しるべ、光とプリズムによる官能的なアート・インスタレーションは、猿島へのフェリーに乗ってでも見る価値があり、iFゴールド・アワードにふさわしい作品です。

高橋:
今回のPJの中で最も価値を発揮できたのは手を使って考えられる場所があること、そして実現に向けて共に考えるチームがあることですね。

この作品を生み出すまでに、デジタル上での設計と、実際に手を動かしたリアルな実験を何度も繰り返し、ブラッシュアップしていきました。

実はHAKUTENという組織には物づくりの基礎があり、制作スタジオというデザインや設計を実験できる環境があることも大きな強みなんです。

また、HAKUTENでは僕のようなデザイナーだけでなく、熊崎さんのような構造や機構を熟知しているプロダクトマネージャーがいて、プロジェクトがスタートした段階から一緒にデザインを検討できるため、短い制作期間においても高いクオリティを実現できたと思います。

NEXT TRY

クライアントワークにとどまらない独自の表現を追求し、さらなる挑戦を続ける

熊崎:
今後はこの『prism』という作品の表現をシリーズ化しようと考えています。光の表現において、環境を変えて挑戦して可能性を広げ、作品ごとの連続性を持たせることでHAKUTEN CREATIVEのシリーズにしたいですね。

また、それがさらに次の仕事や表現へとつながっていくような好循環を生み出すのが理想です。

高橋:
僕たちはクライアントの要望に応え、多くのデザインを提供してきましたが、今後はクライアントワークにとどまることのない、独自の表現を追求していくべきだと思っています。

博展としての取り組みを多くの方に知っていただくために、“発信”を強化しなければならないと感じていましたが、今回のように世界で最も敬意のあるデザイン賞の一つ iF Design AwardのGOLDを受賞できたこと、さらにはこれまでの取り組みを評価いただき、世界のTOP10社に選んでいただけたことは大きな自信につながりました。

この評価に恥じないよう胸を張って表現を追求していきたいと思います。

現場施工協力:株式会社グレイ美術
回転照明機構製作:株式会社蒼天
電気配線工事:株式会社純光社

Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島
2019年11月3日(日)~12月1日(日)
上記期間中の木金土日祝日 17:00-21:00 *日没以降

会  場:猿島公園 (神奈川県横須賀市猿島1番)
主  催:横須賀都市魅力創造発進実行委員会

OVERVIEW

CREDIT

Producer : 髙橋 広樹
Creative Director: 南 正一郎
Designer|Artist : 高橋 匠
Construction Manager: 熊崎 耕平