みなさんこんにちは!博展の中と成川です。
【Quest ! 】は、都内を中心に話題のイベントや新しくオープンした商業施設をTHINK EXPERIENCE編集スタッフが実際に体験し、レポートしていくコンテンツです。
今回は東京 六本木にある21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「2121年 Futures In-Sight」展での体験をお届けします。

目次
・2121年 Futures In-Sight展とは?
・宇宙138億年の歴史を歩く
・Future Compass
・ウイルスのデザインが身近になったら? [Who / Futures / Create?]
・未来への視座をプロトタイプする [How / Present / End?]
・雑誌のコラム的な空間構成
・五感を通した想像力の解放
・自分なりの問いを立てるきっかけになる時間と場所

2121年 Futures In-Sight展とは?

<展覧会ポスタービジュアルと展示会ディレクターを務めた松島 倫明氏>

“未来を考える”ことを考える展示

未来を思い描くだけでなく、現在を生きる私たちの所作や創り出すものに内在する未来への視座を、デザイナーやアーティスト、思想家、エンジニア、研究者など、72名に及ぶ多様な参加者たちとともに可視化していく展覧会。

展覧会ディレクターには、『WIRED』や『〈インターネット〉の次に来るもの』などテクノロジーが人類の文化やライフスタイルをいかに変えるのか、その未来を見据えた数多くの書籍や雑誌を手がける編集者の松島倫明氏を迎え、多くの「未来への問い」を準備することで、「未来を考える行為」そのものを考える場を提供しています。来場者の方々が、デザインとともに明日を創造していくための豊かな洞察(insight)を考える機会となることを目指した展覧会となっています。

21_21 DESIGN SIGHTとは?

21_21 DESIGN SIGHTは、日常的なできごとやものごとに改めて目を向け、デザインの視点からさまざまな発信、提案を行っていく場です。英語では優れた視力を「20/20 Vision (Sight)」と表現しますが、「21_21 DESIGN SIGHT」という名称は、さらにその先を見通す場でありたいという、「未来」へ向けた想いからつけられたそうです。SIGHTはデザインの「視力」であり、ものごとの見方、見ることの大切さを表します。

<21_21 DESIGN SIGHT HPより>

21_21 DESIGN SIGHTでは一枚の鉄板からつくられたプレートをシンボルマークとして、「プロダクトロゴ」という独自の名称で呼ばれています。住居表示板のようなデザインは、この施設がデザインの「場」であることを示しています。また日常生活の中で意識せずに目にするイメージを用いることで、日常に潜む可能性をデザインによって引き出すという21_21 DESIGN SIGHTのコンセプトが表現されています。

宇宙138億年の歴史を歩く

展示エリアに入って最初にあるのが、宇宙の誕生から現在までの138億年の歴史を、地球時間1年(365日)のスケールで体感できるインスタレーション。

タイムマシンを思わせるような細長い廊下を進みながら宇宙の歴史を辿っていくのですが、通常の展示ではこの廊下は巡回ルートの1番最後にあたるのだそう。今回は過去の歴史から現在、未来への流れを体感してもらうため、このエリアを活用して通常とは逆向きの巡回ルートで設定しているとのことです。

地球が誕生してから今までを1年間に例えると、私たちが歴史で習う人類の文明が始まるのはなんと365日目の22:24以降。実際に歩きながら展示を見ると、人類の歴史がいかに短いかを視覚的・感覚的に体感できます。

Future Compass

宇宙の歴史を辿った先には、参加作家が「Future Compass」から選んだ「言葉」、導き出した「問い」と、各々が自身の専門領域や生活哲学に基づきながら形にした「インサイト(視座・洞察)」展示があります。

会場風景<ギャラリ-2>( 撮影:吉村昌也)

ギャラリーに入ると、左手壁には巨大なFuture Compassが!

「Future Compass」は、私たちが思い描く「未来」への羅針盤であり、未来に向けた「問い」を導き出すためのツール。3層の円盤から構成され、21のキーワードを自由に組み合わせることで、自身のオリジナルの「問い」を導き出すことができます。

ipadで組み合わせを選べるデジタル版もあったので、私も試してみました。どの組み合わせにするか悩んだ末、「Who」「Futures」「Create?」を選んでみました。組み合わせを考えることも、自分自身の「問い」を導き出す良いきっかけになると感じました。

ウイルスのデザインが身近になったら? [Who / Futures / Create?]

先ほど選んだ「Who」「Futures」「Create?」の問いに応じた展示は「ウイルスのデザインが身近になったら、どんな未来になるのだろう?」という東京藝術大学 Sputniko! Lab(M2 岩藤愛実)のHappy Virusをテーマにした映像作品でした。彼女が作ったのは脳のニューロンに感染するウイルスで、セロトニンの受容体を増やしてハッピーになる、という仕組みで既に実在しているのだそうです。

新型コロナウイルスの影響で「ウイルス」というと悪いイメージがありますが、「幸せになるウイルスがあったら?」という発想はポジティブな視座を提示してくれます。一方で実際に作っているという点が、近い未来人為的なパンデミックが引き起こされてもおかしくないというスぺキュラティブな問いかけをしているように思えます。そのせいか、「HAPPY VIRUS」の色味はPOPな印象はありつつも若干の毒々しさを感じました。

未来への視座をプロトタイプする [How / Present / End?]

「バックキャスト」「フォアキャスト」「差分としての未来」など、未来を考える上で必要となる視座を紹介するクリエイティブ集団のPARTYによる展示。タイムマシン風の車に乗り込み、100年後の世界を想像してそこから現在まで戻ってくる旅を体験できます。

現状からどんな改善ができるかを考えて、改善策をつみあげていくような考え方がフォアキャスト。それに対しバックキャストとは、現在から未来を考えるのではなく、未来を起点に解決策を見つける思考法のこと。SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)時代を迎え、将来の環境制約から発生する社会課題の解決が重要になっている中で注目されている考え方です。

10年、20年先の未来と言われるとつい今の延長線で考えてしまいがちですが、100年先となると途端に想像の幅が広がるから不思議です。皆さんもぜひ実際に乗って体感してみてほしいです。

未来の食べ物はいかに[How / Future / Imagine?]
<深澤直人「REAL FOOD」(撮影:吉村昌也)>

プロダクトデザイナーの深澤直人は「どうやって未来を想像しますか?」という問いのもと、3Dプリンタで生成したジュースのパッケージのプロトタイプ《REAL FOOD》を発表。本作は100年後に食べ物の元型を知る人はいるのか?という疑問に端を発しているそうで、スイカ、オレンジ、パイナップルなどの輪切りパッケージが、未来の人々は知り得ないかもしれない元型を伝えています。

深澤さんは新型コロナウイルスの感染拡大によって世界中の生活様式が急激に変化しているなかで、2020年7月に書籍『ふつう』(D&DEPARTMENT PROJECT)を出版されていますが、100年後の食の「ふつう」は今と大きく違うのではないかという深澤さんの「ふつう」に対する考察がこのパッケージデザインに表現されているように思いました。

そのほかにも紹介したい展示作品がまだまだ沢山あるのですが、1回で全部見るには情報量が多く、私自身改めてじっくり鑑賞したいなと思っているので、興味を持った方はぜひ自分なりの問いを探しに行ってみてください。webサイト上にデジタル展示もあるので、先に問いを立ててから会場に足を運ぶのもありかもしれません。

左から <岡崎智弘 / 「手でつくる時間」><Synflux / 「WORTHー ダイエジェティック・コレクションー 撤退線 β」>(撮影:吉村昌也)
左から<「地球の時間軸」> <「SF小説が予言した未来」>(撮影:吉村昌也)

雑誌のコラム的な空間構成

雑誌『WIRED』の編集長が手がけた展示ということもあり、展示空間の構成も雑誌の構成を意識して設計されているのだそう。たしかに、何種類かの問いかけとそれに応える作品が群となって会場に配置されている形式は、雑誌のコラムを思わせる作りとなっています。動線が用意されているというよりは、自分の気になるコンテンツから見始め、その隣にも視線を広げていく行為は、リアルの空間に飛び出した雑誌の中を廻るような感覚で面白かったです。

会場風景<ギャラリ-2>( 撮影:吉村昌也)

五感を通した想像力の解放

空間構成は雑誌的であっても、2Dの誌面上にはない、リアルの展示だからこその表現もあります。

<evala「-a」 (撮影:吉村昌也)>

たとえば、エリアの1番最後にあるインスタレーション空間。2016年より「耳で視る」という新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」を始動させたサウンドアーティストevalaの作品で、暗闇の中で世界中から集められた音に身をゆだねる、耳で視るサウンドインスタレーションとなっています。

中心部分はぼんやりと明るいのですが、部屋の隅に向かおうとすると真っ暗闇から木々のざわめきのような音が聞こえてくるので、奇妙な森に迷い込んだような感覚になりました。 人によっては瞑想中のような、落ち着いた感覚になる人もいるのだそうで、自分のその時の状態によっても感じ方の変わる作品であるように思いました。

普段よりも五感の感覚が研ぎ澄まされていくように感じられ、こうした肌感覚は雑誌の誌面上では表現できないリアル展示ならではの体験だなと思います。未来には決して1つの決まった形があるわけではありません。展示を通して様々なデザイナー、アーティストなどの参加者たちの考え方に触れ、自身の五感を解放すれば、従来の枠を超えた自由な発想で複数形の未来を考えることができるのではないでしょうか。

自分なりの問いを立てるきっかけになる時間と場所

今回は六本木にある21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「2121年 Futures In-Sight」展での体験をお届けしました。

自分が興味をもった「問い」に対するデザイナーやアーティストなどの参加者たちの発想に触れることで、「未来を考える」という行為は普段自分が考えるよりもっと自由な発想でやっていいんだなと思える展示でした。未来は過去の延長線ではないとしたら、未来をどのように捉えるか?と、自分なりの問いを立てるきっかけになる時間と場所。それがこの空間の提供価値なのかもしれません。

ロシアのウクライナへの侵攻や紛争・環境破壊といった様々な世界的規模の課題に対し、ともすれば未来に対して悲観的になってしまいがちですが、オノ・ヨーコさんが世界各国で”imagine Peace”のメッセージを発信したように、「ありたい未来」を想像し、そのために行動することは可能です。未来をポジティブに想像するきっかけを、私自身もこの展覧会でもらったように感じます。

東京 SONY VISION (C)CIRCA

最後に、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、本展示は5/22まで延長が決定したそうです。 3月29日(火)には展覧会のディレクター松島倫明と共に、参加作家の「Future Compass」への思考の軌跡を辿るオンライントークシリーズ「Future Compass Dialogues」をオンラインで開催予定とのことなので、ぜひ皆さん自分に合う形で展示やイベントに参加して、Futures In-Sightを見つけてみてください。

■オンラインイベント詳細 「Future Compass Dialogues vol.2」
開催日時:3月29日(火)20:00-21:30 
出演者:川崎和也(Synflux)、蔡 海、福原志保(HUMAN AWESOME ERROR)、松島倫明
*より詳しく知りたい方はこちらをご覧ください

施設概要

名称:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
所在地:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
営業時間:11:00 – 19:00(入場は18:30まで)  
2022年1月21日より当面の間、開館時間を短縮します。ご来館前にこちらをご覧ください
URL:http://www.2121designsight.jp/program/2121/

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